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なぜ今、公正証書遺言が必要なのか?
高齢の親を持つご家庭や、自分自身の将来を考え始めた方から「遺言って本当に必要なの?」というご相談をよく受けます。
実際のところ、「うちは財産が少ないから大丈夫」「仲の良い家族だから揉めない」と思っている方ほど、相続の場面でトラブルに巻き込まれるケースが少なくありません。
相続トラブルは誰の身にも起こりうる
相続をめぐる裁判所への調停申立ては、ここ数年でも毎年1万件を超えています。特に遺産が5,000万円以下の比較的「普通の家庭」での争いが多いのが特徴です。
つまり「資産家の話」ではなく、一般家庭こそ備えておくべきなのです。
認知症リスクと生前対策
もう一つの大きな理由は、認知症の進行による判断能力の低下です。認知症になってしまうと、自分の意思で遺言を作ることはできません。
その結果、成年後見制度を利用せざるを得なくなり、自由な財産管理や承継の設計が難しくなります。元気なうちに「自分の想い」を形にしておくことが、安心につながります。
家族への想いやりとしての遺言
遺言は財産をどう分けるかを指定するだけでなく、「家族に争ってほしくない」「介護をしてくれた子に感謝を伝えたい」といった気持ちを残す手段でもあります。
特に公正証書遺言は、公証人が関与して作成するため無効リスクが低く、相続登記や遺産分割協議をスムーズに進めやすいメリットがあります。
公正証書遺言を選ぶメリットとデメリット
「遺言」と一口に言っても、自分で書く自筆証書遺言と、公証役場で作る公正証書遺言の大きく2つの方法があります。ではなぜ公正証書遺言を勧められることが多いのでしょうか?ここではそのメリットとデメリットを整理します。
公正証書遺言のメリット
- 無効になりにくい
公証人が関与して作成するため、形式的な不備で無効になる心配がほとんどありません。
→ 「日付の書き方を間違えて無効に…」といったリスクを避けられます。 - 家庭裁判所での検認手続きが不要
自筆証書遺言は、相続開始後に必ず裁判所の「検認」が必要ですが、公正証書遺言ならその手間が不要。相続登記や預貯金の解約など、手続きがスムーズに進みます。 - 原本を公証役場で保管してくれる
紛失・改ざん・破棄のリスクがありません。万一コピーをなくしても、公証役場で再度取得できます。 - 高齢や体調不良でも対応可能
病院や自宅への出張作成も可能なので、体力面で不安がある方でも安心です。
公正証書遺言のデメリット
- 費用がかかる
財産額や相続人の数によって、公証人手数料が数万円〜十数万円程度必要になります。自筆証書遺言がほぼ無料で書けることを考えると、ややハードルを感じる人もいます。 - 証人が必要
作成には2名以上の証人が必要で、身近に依頼できる人がいない場合は専門家に頼むことになります。 - ある程度の準備が必要
財産目録や戸籍関係書類など、事前に集める書類が多く、すぐに書けるわけではありません。
どんな人に向いているのか?
- 相続人同士が揉める可能性があると感じている方
- 財産が複数あり、きちんと整理しておきたい方
- 認知症など判断能力の低下に不安がある方
- 「確実に遺言を残したい」と思う方
市川市で公正証書遺言を作成するための手続きの流れ
「公正証書遺言を作ろう」と思ったとき、何から始めればいいのか迷う方は多いものです。ここでは、市川市の方がスムーズに準備できるよう、実際の流れを解説します。
①必要書類を集める
公正証書遺言の作成には、以下のような書類が必要になります。
- 本人の戸籍謄本(出生から現在までの連続したもの)
- 印鑑証明書(有効期限3か月以内)
- 財産に関する資料
- 不動産 → 登記事項証明書・固定資産評価証明書
- 預貯金 → 通帳のコピー
- 株式 → 証券会社の残高証明書 など
- 相続人の戸籍・住民票
これらを揃えることで、公証人が遺言の内容を確認しやすくなります。
②公証役場へ事前相談・予約
千葉県内には複数の公証役場がありますが、市川市からアクセスしやすいのは 市川公証役場(市川市八幡) や 船橋公証役場 です。
- 事前に電話で予約し、作成したい内容を伝えておくと当日の手続きがスムーズになります。
- 相続人や財産の内容によっては、相談の段階で追加資料を求められることもあります。
③遺言の原案を作成
「遺言で何を残すのか」「誰にどう分けるのか」を、あらかじめ整理しておきましょう。
- メモ書きでも構いませんが、専門家に相談して遺言原案を作っておくと安心です。
- 行政書士や司法書士が、財産目録の作成や文言の調整をサポートするケースも多くあります。
④証人を準備
公正証書遺言には証人2名以上が立ち会う必要があります。
- 親族は証人になれないため、友人・知人に依頼するか、専門家に依頼するのが一般的です。
⑤公証役場での作成
当日は本人と証人が公証役場に出向き、公証人の前で内容を確認します。
- 本人が署名捺印すると、正本・謄本が交付されます。
- 原本は公証役場に保管されるので、紛失の心配はありません。
失敗しないための注意点と3つのチェックリスト
「遺言さえ作っておけば安心」…そう思いがちですが、実際には内容や書き方の不備で無効になったり、かえって争いの火種になるケースもあります。ここでは、公正証書遺言を作成するうえでの注意点と、確認すべき3つのポイントをまとめます。
よくある失敗例
- 財産の記載があいまい
「自宅を長男に相続させる」と書いたが、登記事項と一致せず無効扱いに。 - 遺言に書いていない財産が後から見つかる
預貯金や株式の一部が漏れていたため、相続人同士で再び話し合いに。 - 感情的な文言がトラブルの原因に
特定の相続人を非難する内容を盛り込んでしまい、かえって感情的な対立を招いた。
遺産分割協議・相続登記との関係
遺言は「法的な道しるべ」になりますが、書き方によっては遺産分割協議や相続登記の場面で解釈をめぐる争いが発生することも。実務上は、登記や金融機関の手続きに耐えうる表現が求められます。
争いを防ぐ文言になっているか
- 「相続させる」か「遺贈する」かの違いを意識
- 相続人の公平感に配慮しつつ、誰に何を残すかを明確に
財産の漏れがないか
- 不動産だけでなく預貯金・株式・保険・動産も網羅
- 将来増減しそうな財産には包括的な表現を活用
他の制度との併用を検討したか
- 成年後見制度 → 判断能力低下後の生活支援に有効
- 家族信託 → 長期的な財産管理や二次相続まで見据えるときに便利
- 遺言だけに頼らず、複数の制度を組み合わせると安心
安心できる老後と家族のためにできること
ここまで、公正証書遺言の必要性やメリット・手続きの流れ、注意点を見てきました。最後にもう一度整理してみましょう。
「まだ早い」と思う人こそ準備を
遺言は「終活の最終段階」で作るものと思われがちですが、実際には元気で判断能力がある今こそがベストタイミングです。
認知症のリスクは誰にでもありますし、突然の病気や事故で判断力を失う可能性もゼロではありません。
家族に残せる最大の贈り物
財産をどう分けるかを明確にすることで、残された家族は安心して相続手続きを進められます。
「争族」を避けられるだけでなく、「親が自分たちのことを考えて準備してくれた」という気持ちが心の支えにもなります。
行動を先送りしないために
- まずは財産や家族の状況を簡単にメモにまとめる
- 不安があれば、公証役場や専門家に相談してみる
- 成年後見や家族信託など、併用できる制度も検討する
小さな一歩を踏み出すことで、「まだ何も決めていない不安」から解放されます。