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遺言が見つからないとどうなる?身近に潜む相続トラブル
「父が亡くなったとき、確かに遺言を書いたと言っていたのに、どこを探しても見つからない…」
実はこうした相談は少なくありません。特に自筆証書遺言(自分で紙に書いて保管する遺言)の場合、書き残した本人以外は保管場所を知らないことが多く、せっかく作ったのに使えないままになってしまうケースがあるのです。
遺言が見つからないと、相続はどう進むのでしょうか。結論から言えば、遺言が「なかったもの」と扱われ、民法で定められた法定相続分に従って遺産分割協議が行われます。つまり、残された家族が全員で集まり、「誰が、どの財産を、どのように引き継ぐか」を話し合わなければなりません。
ところが、兄弟姉妹で意見が割れたり、「生前に親から援助を受けていたかどうか」で感情的な対立が生じたりと、話し合いがスムーズにいかないことも多いのです。
実際に市川でも、「自筆証書遺言を書いた」という話を家族が耳にしていたにもかかわらず、現物が見つからずに揉めてしまった事例があります。相続人の一部は「お父さんは長男に多めに残すつもりだったはずだ」と主張し、別の相続人は「証拠がないのだから法定相続分で平等に分けるべきだ」と譲らない。結局、協議がまとまらず、家庭裁判所に持ち込まれることになりました。
このように、自筆証書遺言が行方不明になるだけで、残された家族の関係が一気にギクシャクしてしまうのです。本来は「争族」を避けるために書いたはずの遺言が、逆にトラブルの火種になってしまう――そんな皮肉な結果を招くこともあるのです。
遺言は「書くこと」自体が目的ではなく、「確実に残された人に見つけてもらい、意思を実現すること」が大切です。この点を意識せずにいると、せっかくの準備が水の泡になってしまうことを、まず押さえておきましょう。
なぜ自筆証書遺言は発見されにくいのか
自筆証書遺言が行方不明になってしまう背景には、いくつか共通する理由があります。せっかく心を込めて書いた遺言が使われないままになるのは残念なこと。ここでは「ありがちな見落とし」を整理してみましょう。
保管方法が曖昧になりがち
多くの方は、自筆証書遺言を書いたあと、机の引き出しや本棚の隙間、仏壇の引き出しなどにしまい込んでいます。「家族なら見つけてくれるだろう」と思うかもしれませんが、現実はそううまくいきません。普段は大事な書類を見つけられる家族でも、身内が亡くなった直後は気持ちが動揺しており、冷静に探す余裕がないのです。結果として、遺言は日の目を見ずに終わることもあります。
認知症や急な入院で伝えるタイミングを逃す
「遺言を書いた」という事実を家族に伝えないまま、本人が認知症を発症したり、急な病気で入院したりするケースも少なくありません。遺言の存在を誰も知らなければ、遺言が残されているかどうかすら疑問視されます。これでは、せっかく書いても実際に効力を発揮する場面まで届かないのです。
家族間の思い込みや遠慮
さらに、「お父さんは遺言なんて書かないはずだ」「母は子どもたちを信じて平等に分けると思っている」といった思い込みが、遺言探しを妨げることもあります。また、たとえ遺言の噂を耳にしていても、「亡くなった直後に遺言のことを探すのは不謹慎ではないか」と遠慮する気持ちから、発見が遅れることもあります。時間が経つほど相続協議が進んでしまい、遺言があったとしても手遅れになる場合もあります。
こうして見てみると、自筆証書遺言が発見されにくいのは「書く人の事情」と「受け取る家族の事情」が複雑に絡み合っているからだとわかります。
つまり、単純に「きちんと書けば安心」ではなく、「どうやって家族に残すか」までをセットで考える必要があるのです。
家庭裁判所での手続きと争いの現実
自筆証書遺言が見つからないと、相続は法律のルールに従って進めるしかありません。基本的には「相続人全員による遺産分割協議」で合意を目指すことになります。しかし、この協議がまとまらない場合、最終的には家庭裁判所に持ち込まれることになります。ここでは、その流れと家族に生じる負担を整理してみましょう。
遺産分割協議の壁
遺言があれば、その内容に沿って財産を分ければ済む話です。ところが遺言がなければ、法定相続分を基準に「誰がどの財産をどのように取得するか」を話し合わなければなりません。預貯金や不動産といった分けにくい財産が多いと、意見の食い違いは避けられません。「私は家を相続したい」「預金は公平に分けるべきだ」など、相続人それぞれの思惑が衝突してしまうのです。
家庭裁判所での調停・審判
協議がまとまらないときは、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てる流れになります。ここでは裁判官と調停委員が間に入り、相続人同士の話し合いをサポートします。しかし、調停は何度も期日が設定され、1年以上かかることも珍しくありません。それでも決着がつかない場合は「審判」に進み、裁判所が分け方を判断することになります。いずれにせよ、家族が望んでいた「円満な解決」からは遠のいてしまいます。
財産の凍結で生活に影響も
さらに、遺産分割が終わるまでの間は、銀行口座や不動産が「凍結状態」になることも大きな問題です。相続登記ができなければ不動産は売却も利用もできませんし、預金の払い戻しも簡単にはできません。例えば、残された配偶者が生活費に困ってしまうといったケースは、市川でもよく耳にする現実的な悩みです。
つまり、遺言が発見されなかったことがきっかけで、家族は裁判所に通い、時間と労力と費用をかけて解決を迫られることになります。トラブルを未然に防ぐためには、「遺言を確実に残す仕組み」を整えることが何より大切なのです。
トラブルを防ぐための3つの準備
ここまで見てきたように、自筆証書遺言は「書くだけでは不十分」であり、「確実に残す仕組み」がなければ意味をなしません。では、どうすれば遺言を確実に家族に届けられるのでしょうか。ここでは実践的な3つの方法を紹介します。
公正証書遺言を活用する
もっとも確実といえるのが、公証役場で作成する「公正証書遺言」です。専門家である公証人が作成に立ち会い、原本は公証役場に保管されるため、紛失や改ざんの心配がありません。また、相続が始まった際にも家庭裁判所の検認手続きが不要なので、スムーズに効力を発揮できます。費用はかかりますが、「確実性」「安全性」を考えると十分に価値がある方法です。
法務局の自筆証書遺言保管制度を使う
令和2年にスタートした「自筆証書遺言保管制度」も有効な選択肢です。本人が書いた遺言を法務局に預ける仕組みで、全国の指定法務局で受付けています。保管されていれば、相続開始後に相続人が遺言の有無を検索できるため、「せっかく書いたのに誰も見つけられない」というリスクを防げます。費用も公正証書より安く、手軽に利用できる点がメリットです。
遺言だけでなく成年後見や家族信託も組み合わせる
相続や老後の準備は、遺言だけではカバーしきれない場合があります。例えば、認知症になって財産管理ができなくなったときには「任意後見制度」が役立ちますし、二次相続まで見据えて柔軟に管理したい場合には「家族信託」も検討の価値があります。複数の制度を組み合わせることで、相続人への負担を減らし、円滑に資産を承継することができます。
「遺言を書いたから安心」と思うのは危険です。大切なのは、自分の思いを家族に確実に届ける仕組みを整えること。そのために、ここで紹介した3つの準備を早めに検討することが、争族回避につながります。
遺言は「書く」だけでなく「見つかる」ことが大事
ここまで見てきたように、自筆証書遺言は「書いたのに見つからない」という理由で効力を発揮できないことがあります。せっかく家族のためを思って準備したものが、争いの種になってしまうのは本末転倒です。大切なのは「遺言をどう残すか」だけでなく、「家族に確実に見つけてもらえるか」という視点です。
遺言が見つからなければ、相続人は法定相続分に基づいて遺産分割協議を行うことになります。協議がまとまらなければ家庭裁判所に調停を申し立て、解決まで長い時間と労力を要します。その間、口座が凍結されたり、不動産の相続登記ができずに困ったりと、生活に直結する支障が出てしまうこともあります。こうした事態を防ぐには、公正証書遺言や法務局の遺言保管制度を活用し、「確実に残す」準備が欠かせません。
さらに、遺言だけでは対応しきれない場合もあるため、成年後見制度や家族信託といった仕組みを組み合わせることも有効です。認知症や老後の生活への備えとして、早めに専門家へ相談しておくことが、将来の安心につながります。特に市川のように高齢化が進む地域では、「まだ元気だから大丈夫」と思っているうちに準備をしておくことが、家族への最大の思いやりになります。
最後にお伝えしたいのは、「書こうかどうか迷っている間にも、時間は過ぎていく」という事実です。遺言や後見の準備は、思い立ったときが始めどき。難しい専門用語や制度の違いに戸惑ったら、行政書士など地域の専門家に相談すれば、あなたに合った方法を一緒に考えてもらえます。
遺言は「書いたら終わり」ではなく、「家族に届いて初めて意味を持つ」ものです。今日から一歩踏み出すことで、家族に安心と笑顔を残すことができます。

