成年後見申立の際に医師の診断書の内容が不十分で却下される事例

成年後見申立の際に医師の診断書の内容が不十分で却下される事例

診断書の不備で申立が却下される?相続や老後で実際に起こる悩み

親の高齢化とともに増える不安

「親がそろそろ認知症かもしれない」「相続のことも考えて、成年後見制度を準備しておきたい」――そう感じて動き出すご家庭は少なくありません。
老後や相続の備えを考えるとき、後見制度は安心の仕組みですが、その入り口で思わぬ壁にぶつかることがあります。

申立が却下される意外な理由

実際には、家庭裁判所に成年後見の申立を行ったものの、医師の診断書の内容が不十分で却下されてしまうケースがあります。
診断書は単なる添付書類ではなく、裁判所が「本人が後見人を必要としているかどうか」を判断するための最重要資料です。ところが「認知症の程度が“軽度”とだけ書かれている」「日常生活の支障について具体性がない」などの不備があると、裁判所は適切な判断を下せず、結果的に申立が受理されません。

診断書不備がもたらす二次的トラブル

診断書の不備が原因で却下されると、再度医師に診断書を依頼する必要があり、その間は申立手続きが止まってしまいます。その結果、相続や遺産分割の話し合いが遅れたり、相続登記ができず不動産の名義変更が進まなかったり、銀行口座が凍結されたままという事態も起こり得ます。
「老後や相続の備えのために一歩踏み出したのに、まさか診断書の不備でつまずくとは思わなかった」――そう感じるご家族も少なくないのです。

診断書対策の大切さを知っておく

成年後見制度は、遺言や家族信託と並んで「家族の安心」を守るための大切な仕組みです。しかし、その第一歩である申立が診断書の不備で進まないと、準備したことが無駄になってしまいます。
だからこそ「診断書の準備」を軽く考えず、相続・老後の備えの中でもしっかり押さえておくことが大切です。

成年後見申立に必要な書類と診断書の役割

成年後見の申立に必要な基本書類

成年後見制度を利用するには、家庭裁判所に申立を行います。その際には「申立書」だけでは足りず、複数の添付書類が必要です。代表的なものは次の通りです。

  • 本人の戸籍謄本
  • 申立人(家族など)の戸籍謄本
  • 財産目録(預金や不動産、年金収入など)
  • 親族関係図(相続人関係を含む家族構成)
  • 医師の診断書

これらの書類を整え、初めて裁判所が審理に入ることができます。

医師の診断書が果たす重要な役割

添付書類の中でも特に重視されるのが「医師の診断書」です。成年後見制度は「本人が十分な判断能力を持っていないこと」が前提条件になります。そのため、診断書は家庭裁判所が「後見人が必要かどうか」を確認するための決定的な資料です。

診断書では、次のような点がチェックされます。

  • 認知症などの疾病の有無と進行度
  • 判断能力の低下がどの程度か(契約内容の理解や金銭管理の可否)
  • 日常生活に具体的にどのような支障があるか

この診断書が不十分だと、申立が却下される可能性が高くなります。

不備のある診断書が招くリスク

診断書に具体性が欠けていると、裁判所は判断に必要な情報を得られず、手続きが止まってしまいます。その結果、相続登記や遺産分割の協議が進まなくなったり、銀行口座が凍結されたままという状況が長引いたりすることもあります。

「書類をそろえれば安心」と思いがちですが、実際には診断書の内容次第で手続きの成否が左右されるのです。

補足|業務の線引きについて
成年後見の申立書や家庭裁判所に提出する同意書・陳述書の作成は、 司法書士・弁護士の業務に該当します。 行政書士が単独で代行することはできず、弁護士法・司法書士法に抵触するおそれがあります。 行政書士は申立の代理ではなく、相談・情報提供・準備段階の補助を中心に支援します。

診断書の不備で起こりがちな3つのトラブル

トラブル1・認知症の程度があいまいに記載されている

診断書に「認知症の疑いあり」「軽度の認知症」とだけ書かれているケースがあります。これでは家庭裁判所が「後見人が必要なほど判断能力が低下しているのか」を判定できません。結果として申立が却下され、再度医師に依頼しなければならない事態になります。

トラブル2・日常生活の支障が具体的に示されていない

診断書に「支障あり」とだけ記載されている場合も問題です。例えば「金銭管理ができない」「重要書類の内容を理解できない」といった具体例がなければ、裁判所は後見開始の必要性を判断できません。このような不足があると、申立の手続きが長引き、家族が困る場面が増えてしまいます。

トラブル3・成年後見制度に必要な観点が欠けている

医師は病気の治療を前提に診断書を書くことが多いため、成年後見で必要とされる「契約理解能力」や「意思表示の一貫性」といった項目が抜けてしまうことがあります。これでは裁判所の審査に耐えられず、診断書の差し替えが必要になることもあります。

トラブルが相続全体に与える影響

診断書の不備で手続きが止まると、相続登記や遺産分割協議も進められず、結果的に「争族」へと発展しかねません。銀行口座が長期間凍結されたままになったり、不動産の名義変更が遅れたりするなど、二次的なトラブルが重なってしまうのです。

失敗を防ぐための3つの準備

準備1・医師に「成年後見申立用」であることを伝える

診断書は一般的な病状説明のためのものと、成年後見申立に用いるものとでは求められる内容が異なります。医師に依頼する際、「家庭裁判所提出用の診断書」であることを必ず伝えましょう。専用の様式を利用できる場合もあり、不要な差し戻しを防ぐことにつながります。

準備2・日常の様子をメモや記録で補足する

医師が診断書を作成する際、短時間の診察だけでは本人の生活状況を十分に把握できないことがあります。家族が「お金の管理が難しくなった」「契約書の内容を理解できなかった」といった日常のエピソードをまとめておくと、診断書に反映されやすくなり、説得力が増します。

準備3・専門家に事前相談してから動く

診断書の不備を防ぐためには、行政書士や司法書士などの専門家に事前相談するのも有効です。必要な情報を整理してから医師に依頼することで、無駄なやり直しを防ぎ、申立手続きをスムーズに進められます。市川市など地域の相談窓口を活用するのも一つの方法です。

家族で共有して備えることの重要性

診断書の準備は申立人だけで抱え込むよりも、家族全員で状況を共有して進めることが安心につながります。トラブルを回避しつつ、相続や生前対策を円滑に進めるためには、早めに準備を始めることが何よりも大切です。

補足|行政書士が提供できる支援
行政書士は、制度の流れの説明、必要書類のチェック、診断書内容の理解の補助と家族への説明、 医師への依頼ポイントの共有や連携支援、家庭裁判所との連絡調整の補助など 非代理的業務を担当します。 一方、裁判所提出書類の作成は司法書士・弁護士の領域です。 役割を分けて進めることで、準備の負担が軽くなり、申立がスムーズになります。

相続・老後の安心のために「診断書対策」を忘れずに

診断書が成年後見申立の成否を左右する

ここまで見てきたように、成年後見制度の申立では医師の診断書が決定的な役割を果たします。不備があれば申立は受理されず、手続きは一からやり直し。相続登記や遺産分割が滞り、家族に余計な負担や不安を与えてしまいます。

生前対策の全体像の中で診断書を位置づける

成年後見制度は、遺言や家族信託と並んで「老後の安心」を支える仕組みです。財産管理や身上監護を誰に任せるかを決めるうえで、診断書は避けて通れない要素です。制度全体の中で「診断書対策」も重要な準備の一つと考えておくことが必要です。

早めの準備で争族を防ぐ

診断書の不備による手続きの停滞は、相続をめぐるトラブルを生む火種になりかねません。「争族」を避けるためには、早めに準備を始め、家族で共有し、必要なら専門家に相談することが一番の近道です。

補足|依頼先の選び方
成年後見の申立ては、司法書士・弁護士(提出書類の作成・代理)行政書士(相談・情報提供・収集補助)が関わる手続きです。 依頼先の役割を理解して選ぶことが、相続・老後の安心につながります。

行動への一歩を踏み出そう

もし「親の判断能力に不安がある」「後見制度や遺言、家族信託をどう組み合わせればよいのか」と感じたら、まずは専門家や地域の相談窓口に問い合わせてみましょう。小さな準備が将来の安心につながり、家族全員にとって大きな支えとなります。