目次
「遺留分」って何?まずは“最低限の取り分”という考え方から
家族のあいだで起こる「想定外の相続トラブル」
「うちは仲がいいから、相続で揉めることなんてない」
そう思っている方ほど、実際に相続が発生したときに驚くことがあります。
たとえば、遺言書を開いてみると「全財産を長男に相続させる」と書かれていた——。
ほかの家族がその内容を知らなかった場合、「そんな話は聞いていない」「不公平だ」と感じるのも自然なことです。
このようなとき、残された家族の“最低限の取り分”を保障するために法律で設けられているのが、「遺留分(いりゅうぶん)」という制度です。
「遺留分」とは、相続人を守るための最低限の保障
遺留分とは、亡くなった方(被相続人)の遺言内容にかかわらず、一定の相続人に最低限の取り分を保証する制度のことです。
たとえ遺言書に「財産をすべて第三者に贈与する」と書かれていても、配偶者や子どもなどの相続人は「それでは生活が成り立たない」と主張できる権利を持っています。
つまり、遺留分は「どんな遺言でも奪うことができない最低ライン」。
残された家族の生活を守る“セーフティネット”のような役割を果たしています。
誰に認められる?遺留分の対象となる相続人
遺留分が認められるのは、配偶者・子ども・直系尊属(親)に限られます。
兄弟姉妹にはこの権利がありません。
たとえば夫が亡くなった場合、妻と子がいれば、それぞれに法定相続分の半分が遺留分として保障されます。
つまり、どんな遺言内容であっても「妻と子には一定の取り分が残る」よう、法律でルールが定められているのです。
このように、遺留分は“遺す人の自由な意思”と“残される人の生活保障”のバランスを取るための制度だといえます。
なぜ遺留分が必要なのか?意思と生活のバランスを保つ制度
遺言書は、本人の意思を明確に示す大切な手段です。
しかし、遺言の内容が極端すぎると、残された家族が生活に困ってしまうことがあります。
遺留分制度は、「遺す人の自由」と「家族の生活」の両立を目指して作られました。
市川市でも、親の遺言で「全財産を長男に譲る」と書かれ、他の相続人が納得できずに相談に訪れるケースがあります。
こうしたトラブルの多くは、「遺留分」という制度を知らなかったことが原因です。
感情的な話し合いになる前に、まずは遺留分の仕組みを正しく理解することが、円満な相続への第一歩となります。
遺留分を知っておくことは、相続トラブルを防ぐための基本です。
「相続」「遺言」「生前対策」は、家族の将来を守るための準備でもあります。
元気なうちに話し合い、信頼できる専門家に相談しておくことで、安心して“次の世代へ”つなぐことができます。
遺留分をめぐるトラブルはなぜ起きる?家族の“気持ち”と法律のズレ
「うちは大丈夫」と思っていた家族ほど起きやすい
相続トラブルの多くは、家族の信頼関係が崩れた結果ではなく、「知らなかった」「話し合わなかった」ことから生じます。
たとえば、「親の遺言書に“全財産を長男に相続させる”と書かれていた」「面倒を見ていたのは私なのに、何ももらえないの?」——そんな思いから、兄弟間の関係が急にぎくしゃくすることもあります。
市川市でも、「親の意向だから仕方ない」と一度は受け入れたものの、後から「法律上、遺留分という制度がある」と知って、対応に困って相談に来られる方が少なくありません。
つまり、制度を知らないことが、トラブルの第一歩になっているのです。
感情と法律のズレが「争族」を生む
相続は、単なる財産の分け方ではなく、家族の思い出や関係性が絡む“感情の問題”でもあります。
そのため、「公平」や「納得」の基準が人によって異なります。
たとえば、親が「自分の世話をしてくれた長男に多く残したい」と考えるのは自然なことです。
しかし、他の兄弟から見れば「自分も援助してきたのに不公平だ」と感じるかもしれません。
こうした気持ちのズレと法的な誤解が積み重なり、「争族(そうぞく)」と呼ばれる状態に発展してしまうのです。
さらに、「遺言書があればすべて解決する」と思い込んでしまうのも危険です。
遺言書があっても、遺留分を侵害している場合は法的に主張できる権利があります。
「親の遺言だから従うしかない」と思い込み、請求期限(1年)を過ぎてしまうと、本来の権利を失うことにもなりかねません。
判断能力の低下が新たな火種になることも
もう一つ注意したいのは、認知症や判断力の低下時期に作られた遺言書です。
「本当に本人の意思なのか?」という疑念が生じると、相続人同士の信頼が一気に崩れます。
こうしたケースでは、成年後見制度や家族信託などの生前対策を活用することで、トラブルを未然に防ぐことが可能です。
本人が元気なうちに専門家を交えて話し合い、仕組みを整えておくことが大切です。
「知らないまま話し合う」が一番危険
遺留分をめぐる争いの背景には、ほとんどの場合、制度への理解不足と準備不足があります。
相続は、亡くなってから初めて考えるものではありません。
「今はまだ早い」と感じる段階でこそ、情報を整理し、家族で話し合っておくことが何よりの予防策です。
トラブルは、法律の問題というより“気持ちの問題”として表面化します。
だからこそ、感情的な対立を避けるためにも、冷静に事実と法律を整理する時間をもつことが重要です。
遺留分制度は「争うための武器」ではなく、「家族の関係を守るためのクッション」です。
一度関係がこじれてしまうと、修復には長い時間がかかります。
そうなる前に、専門家の立場から制度の仕組みや選択肢を整理しておくことで、円満な話し合いがしやすくなります。
遺留分の計算方法と請求手続きの流れをやさしく解説
誰が遺留分を主張できるのか
遺留分を主張できるのは、配偶者・子ども・直系尊属(親)に限られます。
たとえば夫が亡くなった場合、妻や子どもには遺留分の権利がありますが、兄弟姉妹には認められていません。
これは、法律が「生活を共にしてきた家族の生活保障」を重視しているためです。
また、子が亡くなっており孫が代わりに相続する『代襲相続』の場合は、その孫にも遺留分が発生します。つまり、実際の生活状況にかかわらず、法定相続人として認められる範囲に基づいて決まる仕組みです。
遺留分の計算は「法定相続分 × 1/2」が基本
遺留分の割合は、原則として法定相続分の2分の1(1/2)です。
たとえば、相続人が妻と子1人の場合、法定相続分は「妻1/2・子1/2」。
このうちの半分が遺留分になるため、妻1/4・子1/4が最低限の取り分になります。
相続人が妻と子2人の場合は、妻の遺留分が1/4、子ども2人の遺留分はそれぞれ1/8ずつです。
このように、遺留分は家族構成によって変わります。
また、配偶者や子がいない場合で、親だけが相続人となるケースでは、遺留分の割合は法定相続分の1/3です。
これは、親の生活が子世帯とは独立していることが多く、生活保障の必要性が相対的に低いと考えられているためです。
数字を見ると複雑に感じますが、覚えておきたいのは——
「どんなに偏った遺言でも、法律上定められた相続人には最低限の取り分が残る」ということです。
遺留分侵害額請求の手続きと期限
遺留分を侵害された場合、相続人は「遺留分侵害額請求」を行うことで、不足分の金銭を請求できます。
以前は「減殺請求」と呼ばれていましたが、現在の民法改正(2019年施行)で金銭請求に一本化されました。
請求は、家庭裁判所での手続きや内容証明郵便を通じて行うのが一般的です。
ただ、注意すべきは遺留分侵害額請求には時効があるという点。
遺言や贈与によって自分の遺留分が侵害されたことを知ったときから1年以内、または相続開始から10年以内のいずれか早い方までに請求しなければなりません。どちらかを過ぎると、法的に権利を行使できなくなります。
トラブルを避けるためには、早めの確認と専門家への相談が欠かせません。
行政書士・弁護士・家庭裁判所、それぞれの役割
遺留分の話し合いでは、家族間での調整が中心になります。
行政書士は、事実関係の整理や内容証明郵便などの書面作成支援を行います。
ただし、相手方との交渉や金銭請求の代理は弁護士の業務領域であり、訴訟や調停に進む場合には弁護士への依頼が必要です。
家庭裁判所は「争いの最終的な調整機関」であり、できるだけ当事者間で解決することが望ましいです。
市川市やその周辺で利用できる家庭裁判所などでも、家庭裁判所での調停手続きが利用されています。
感情的な対立を避けるためにも、早期に専門家を交えた冷静な話し合いを行うのが理想です。
遺留分の請求は、単に「お金を取り戻す」ためのものではありません。
本来の目的は、家族の公平な関係を回復することです。
そのためにも、数字や法律だけでなく、相手の気持ちや生活の事情を踏まえた対応が大切です。
遺留分制度を知ることは、トラブルの“芽”を早めに摘むこと。
冷静な準備と早めの相談が、家族の関係を守る最善の方法になります。
“争族”を避けるためにできる3つの生前対策
家族の争いを防ぐには「生前の準備」がカギ
遺留分をめぐる争いは、「亡くなったあと」に起きるのではなく、「準備をしなかったこと」が原因で起こります。
つまり、トラブルを避ける最も確実な方法は、生前に意思を整理しておくことです。
ここでは、相続を円満に進めるための3つの具体的な方法——「公正証書遺言」「家族信託」「成年後見制度」——を紹介します。
どれも難しい仕組みに見えますが、目的を理解すれば意外とシンプルです。
① 公正証書遺言で「意思」を明確に残す
まず基本となるのが、公正証書遺言です。
自筆の遺言書でも法的効力はありますが、書き方の誤りや保管方法の問題で無効になるケースも少なくありません。
公正証書遺言なら、公証役場で作成し、法律の専門家が内容を確認するため、形式不備の心配がほとんどありません。
さらに、相続人間の「言った・言わない」トラブルを防げるのも大きなメリットです。
遺言書に家族へのメッセージ(付言事項)を添えることで、「なぜこの分け方にしたのか」を伝えられ、感情的な誤解も減ります。
特に市川市のように地元に家や土地を持つ方は、不動産の名義変更や相続登記の際にもスムーズに手続きが進みます。
② 家族信託で「管理」と「想い」を両立
次に注目されているのが、家族信託(民事信託)です。
これは、財産の所有者(委託者)が信頼できる家族(受託者)に財産の管理を任せる仕組み。
たとえば、「認知症になったあとに自宅を売却できるようにしておく」「障がいを持つ子の生活資金を継続的に守る」など、柔軟な管理が可能です。
遺言と異なり、生前から財産を動かせるのが大きな特徴。
また、信託契約書の内容次第で、二次相続(子から孫への継承)まで一体的に設計できます。
行政書士としても、家族信託の導入は「争族回避」の有効な手段としておすすめしています。
特に親世代の判断力がしっかりしているうちに始めることが重要です。
③ 成年後見制度で「判断力低下」に備える
最後に、成年後見制度も欠かせません。
将来的に認知症などで判断能力が低下した場合、財産の管理や契約行為ができなくなります。
そのときに備え、信頼できる人にあらかじめ権限を与えておくのが「任意後見契約」です。
この制度を利用すれば、本人の意思を尊重しつつ、家庭裁判所の監督のもとで安心して支援を受けられます。
また、判断力がまだあるうちから効力を持つ「任意代理契約」や「見守り契約」と組み合わせることで、よりきめ細かな支援が可能です。
これら3つの方法は、どれも「家族の信頼を守るための仕組み」です。
遺留分の制度そのものに頼るのではなく、“遺留分が問題にならない状態をつくる”ことが理想です。
そのためには、「遺言」「信託」「後見」をうまく組み合わせ、家族と専門家が一緒に考えることが大切です。
相続は「亡くなってからの話」ではなく、「家族が元気なうちに話しておく話」。
一歩早い準備が、将来の安心と円満な関係を生み出します。
相続を“争いごと”にしないために、早めの相談を
「まだ先の話」と思っているうちに、備えのチャンスを逃す
相続の準備というと、「自分はまだ元気だから」「うちは財産が少ないから」と考える方が多いものです。
しかし、実際に相続トラブルが起こるのは、財産の多い家庭ではなく、準備をしていなかった家庭に多いというのが現実です。
遺留分をめぐる問題は、金額の大小に関係なく起こります。
相続人の間で「知らなかった」「聞いていない」と感じる瞬間が、争いの始まりです。
だからこそ、「今のうちに整理しておくこと」が最大のトラブル回避策なのです。
家族で話し合うことが最大の“予防策”
相続の話題は、どうしても重く感じられます。
しかし、家族全員が元気なうちに話し合うことこそが、何よりの“争族”予防になります。
財産の多寡よりも、「どう分けたいのか」「誰にどんな思いを託したいのか」を共有することが大切です。
たとえば、遺言を作成するときに、家族全員で内容を確認する場を設けたり、付言事項(メッセージ)を添えておくことで、感情的な誤解を減らせます。
「ありがとう」「お世話になったね」という言葉を、法的な形に残すことが、家族の絆を守ることにつながります。
専門家に相談することで“冷静な整理”ができる
相続や遺留分の問題は、家庭ごとに事情が異なります。
「うちはこれで大丈夫」と思っていても、法律上の盲点や手続き上のリスクが隠れていることもあります。
そのため、第三者である専門家に早めに相談することが有効です。
行政書士は、相続関係図や財産目録の作成、遺言内容の検討、家族信託の設計など、法的な視点から全体を整理するお手伝いをしています。
また、必要に応じて弁護士や司法書士など他士業と連携し、総合的なサポート体制を整えることも可能です。
市川市や近隣地域でも、相続や成年後見に関する相談が年々増えています。
「いざというとき」ではなく、「今だからこそ」冷静に準備を進めることが、最も賢い選択です。
行政書士からのひとこと
遺留分の制度は、“争いを起こすための仕組み”ではなく、“家族を守るための最後のセーフティネット”です。
けれども、本当の理想は「遺留分を主張しなくても済む家族関係」をつくること。
そのために、今できる生前対策を一歩ずつ整えていくことが大切です。
行政書士として、私は「法律で家族を分ける」のではなく、「法律で家族を守る」お手伝いをしたいと考えています。
相続や遺言、後見の準備は、難しいことではありません。
ほんの少しの対話と整理が、将来の安心へとつながります。
まとめ
- 遺留分は、家族の生活を守るための最低限の権利
- トラブルを防ぐには、生前の準備と家族間の話し合いが重要
- 行政書士など専門家の支援で、制度を味方につけることができる
相続を“争いごと”にしないために——。
今日が、その第一歩を踏み出す日かもしれません。

