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なぜ「遺産分割」で損をする?不動産評価のズレが生む落とし穴
「固定資産税の額を見れば十分」と思っていませんか?
相続が発生したとき、多くの方が「固定資産税評価額を見れば財産の価値がわかる」と考えがちです。
しかし実は、相続税評価額は固定資産税評価額とはまったく別物です。
相続税評価は、固定資産税評価とは目的も計算基準も異なり、路線価方式や倍率方式を用いるため、差が生じることが珍しくありません。
たとえば、市川市のように地価が高い地域では、固定資産税評価よりも2〜3割高く評価されるケースもあります。
この「評価のズレ」が生じると、相続税の負担や遺産分割のバランスに影響し、思わぬ不公平感やトラブルの火種になることがあります。
評価を軽視すると、家族間の認識がズレる
不動産は現金のように均等に分けられない財産です。
たとえば、兄が家を相続し、妹が預貯金を受け取るケースでは、固定資産税評価をもとに「だいたい同じ価値」と思って分けたつもりでも、実際の相続税評価では家の価値が数百万円高くなることもあります。
結果、「不公平だ」という感情が生まれ、話し合いが難航するケースも少なくありません。
こうしたトラブルは、評価そのものが間違っているというよりも、「基準を知らないまま進めた」ことが原因です。
行政書士にできること、できないこと
不動産評価や税額の計算は、税理士の専門領域です。
行政書士は、評価方法や制度の考え方をご説明したり、税理士・不動産鑑定士への橋渡しをしたりする立場です。
実際の評価額の算出や相続税の計算が必要な場合には、税理士による確認が欠かせません。
評価の「基準」を押さえることが第一歩
- 相続税評価と固定資産税評価は、目的と基準が異なる
- 地価の高い地域では、差が大きくなるケースもある
- 評価のズレを放置すると、不公平感やトラブルにつながりやすい
- 行政書士は前段階のサポートと他士業との連携が役割
まずは、「評価の仕組み」を早めに理解し、必要な専門家に橋渡しできる状態にしておくことが、家族の信頼を守る第一歩です。
相続税評価と固定資産税評価の違いを理解しよう
なぜ評価額が変わるのか
同じ土地であっても、固定資産税評価額と相続税評価額は一致しません。
これは、そもそも評価の「目的」が異なるからです。
- 固定資産税評価 → 自治体が毎年の税額を決めるための基準
- 相続税評価 → 国が相続税を課すための基準
固定資産税評価は時価の約7割程度を目安に設定されていますが、相続税評価はより時価に近い金額になる傾向があります。
そのため、特に地価の高い地域では評価額が数百万円単位で違うこともあります。
相続税評価の基本的な仕組み
相続税評価は、土地の条件に応じて次の2つの方法のいずれかで算出されます。
算出は税理士や不動産鑑定士などの専門家の領域です。
- 路線価方式
道路に面した土地の「1㎡あたりの価格(路線価)」をもとに計算。
都市部・住宅地で多く用いられます。 - 倍率方式
固定資産税評価額に一定の倍率をかけて計算。
路線価が設定されていない地域などで適用されます。
👉 行政書士は、どの方式が適用されるかといった「評価の考え方」を説明したり、専門家への橋渡しを担うことは可能ですが、実際の算出や節税提案はできません(税理士法により制限あり)。
評価の違いが引き起こす「思わぬズレ」
相続人が固定資産税評価をもとに話し合いを進めた場合、あとから相続税評価額が判明して「こんなに違うの?」と驚くケースは少なくありません。
この見込み違いによって、
- 相続税額の想定が狂う
- 遺産分割のバランスが崩れる
- 相続人の間に不公平感が生まれる
といった問題が起こりやすくなります。
制度を「理解しているか」で結果は変わる
- 固定資産税評価と相続税評価は目的も水準も違う
- 地価が高い地域ほど差が大きくなりやすい
- 算出は税理士・不動産鑑定士の専門領域
- 行政書士は基礎理解と専門家連携の「前段階」をサポート
👉 評価の仕組みを正しく理解しておくだけでも、相続の見通しが立ちやすくなり、トラブルを防ぐ第一歩になります。
評価のズレが家族トラブルを引き起こす典型パターン
「同じ遺産を分けたはずなのに、不公平に感じる」ことがある
相続では、きょうだいの話し合いで「公平に分けたつもり」でも、あとから不満が噴き出すことがあります。特に不動産が遺産の中心になると、この問題は深刻です。
たとえば、親が住んでいた自宅(固定資産税評価2,000万円)を長男が相続し、妹が2,000万円の預金を受け取るケース。
ところが相続税評価では、その家の評価額が2,500万円だった――。
このとき、「長男だけ多くもらったのでは?」という感情が生まれやすくなります。
現金と不動産では「見え方」が違う
現金はそのままの金額で分けられますが、不動産には
- 実際の相続税評価が高い
- 維持費・固定資産税などの負担がある
- すぐに売れない、価格変動がある
といった特徴があります。
こうした条件の違いを十分に理解しないまま話し合いを進めると、数字のズレが感情のズレとなって表面化します。
実際の相談でも、「金額の差」より「ちゃんと説明されなかったこと」が対立の火種になるケースが多いのです。
よくあるトラブルパターン
- 固定資産税評価を基準に話し合いをしてしまい、あとで相続税評価が大きく違っていた
- 不動産を相続した人と現金を受け取った人の間で不公平感が生じた
- 共有名義にしたものの、将来の売却や管理で意見が割れた
- 評価のズレがきっかけで、兄弟間の関係が悪化した
👉 どれも特別なケースではなく、事前の確認不足で起こりうるごく一般的なトラブルです。
トラブルを防ぐための基本は「正確な認識」
行政書士が評価を出すことはできませんが、
- どのように評価が決まるのか
- どこにズレが生まれやすいのか
- いつ税理士や鑑定士に依頼すべきか
といった「前段階の整理」をしておくことで、無用な対立を避けることが可能です。
評価を正しく把握しておけば、分割方法の検討も冷静に進めやすくなります。
たとえば、代償分割(現金で調整)や換価分割(売却して現金化)などの選択肢を、初期段階で検討できるようになります。
感情のトラブルは「数字のズレ」から始まる
- 評価のズレは、不公平感や不信感を招きやすい
- 不動産は現金と性質が異なるため、十分な理解が必要
- 専門家による確認を早い段階で行えば、争いの芽を小さくできる
👉 「評価を知る」という小さな準備が、家族の関係を守る大きな一歩になります。
トラブルを防ぐための3つの備え
「うちは大丈夫」と思っていると、備えが後回しになりがち
相続トラブルは、財産の多い家庭だけの話ではありません。
実際には、「うちは仲がいいから大丈夫」と思っていた家庭ほど、ちょっとした評価のズレや話し合いの行き違いからトラブルになることがあります。
早い段階での備えは、家族の信頼関係を守るうえでとても重要です。
ここでは特に効果的な 3つの備え を紹介します。
① 遺言書や家族信託で「意思」を明確にする
誰が何を相続するのかをあらかじめ決めておけば、話し合いの余地が少なくなり、争いが起こりにくくなります。
遺言書(特に公正証書遺言)はもっとも実用的な手段のひとつです。
また、近年では「家族信託」という仕組みを活用し、判断能力が低下したときでも家族が柔軟に財産管理できるようにしておくケースも増えています。
ただし、信託契約の設計や助言は行政書士の業務範囲外になる場合もあるため、必要に応じて弁護士や信託専門家と連携する形が安全です。
👉 行政書士としては、制度の仕組みを説明したり、契約書作成に向けた書類準備をサポートしたりすることが可能です。
② 不動産評価は「専門家チェック」を前提に
相続税の計算や不動産評価額の算出は、税理士・不動産鑑定士の専門分野です。
行政書士は評価の「算出」はできませんが、評価の仕組みや基準を事前に説明し、必要に応じて信頼できる専門家に橋渡しする役割を担えます。
評価を曖昧にしたまま分割を進めると、あとから数字のズレが判明してトラブルになる可能性があります。
早い段階で専門家の目を入れることが、不公平感を防ぐ一番の近道です。
③ 判断力の低下に備える仕組みを持つ
相続の準備は、「亡くなったあと」だけを想定するものではありません。
認知症などで判断力が低下すると、遺言書の作成や財産管理が難しくなり、手続きが複雑化します。
成年後見制度を活用すれば、後見人によって財産管理を行うことができます。
ただし、制度が始まると柔軟な対応が難しくなることもあるため、家族信託などと組み合わせた備えも検討の余地があります。
👉 行政書士はこうした制度の違いや流れを説明し、適切な時期に専門家につなぐ役割を担います。
備えは“実行できる形”にしておく
- 遺言や家族信託で「意思」を明確に
- 不動産評価は税理士・鑑定士によるチェックを前提に
- 判断力の低下にも対応できる仕組みを整える
こうした備えをしておくことで、トラブルの芽を早い段階で摘み、家族の負担を軽減できます。
相続対策は「難しい専門知識を詰め込むこと」ではなく、必要なときに適切な専門家とつながれる準備をしておくことが大切です。
不動産評価を“あいまいにしない”ことが、争いを防ぐ第一歩
評価のズレは、税金と家族関係の両方に影響する
固定資産税評価と相続税評価の違いを理解しないまま遺産分割を進めると、想定外の税負担や不公平感が生まれ、家族間の対立につながることがあります。
「数字のズレ」が「感情のズレ」を生む——これは多くの相続トラブルで共通する構図です。
だからこそ、評価をあいまいにしないことが、相続対策の出発点になります。
早めの備えと専門家連携がカギ
評価の確認や遺言書の準備、制度の理解は、元気なうちに行うことが最も効果的です。
行政書士はこの前段階で、
- 評価の基準や仕組みを説明する
- 必要な手続きを整理する
- 税理士・不動産鑑定士・弁護士など、専門家につなぐ
といった「道筋を整える役割」を担います。
税金の計算や節税策は税理士、信託の設計は信託専門家——といったように、それぞれの専門分野を適切に組み合わせることで、より安心・安全な対策が可能になります。
今できる一歩を踏み出す
- 不動産評価をあいまいにしない
- 評価のズレによる不公平感・トラブルを防ぐ
- 必要なときに適切な専門家と連携できる体制を整える
相続対策は「大きな一気の決断」ではなく、「小さな一歩の積み重ね」です。
元気なうちに、必要なことを整理しておくことで、家族の信頼関係と財産を守ることにつながります。

