「相続人不存在」とは?財産が国庫に帰属する仕組みを解説

「相続人不存在」とは?財産が国庫に帰属する仕組みを解説

目次

身寄りのない方が亡くなったらどうなる?まず押さえたい基本と不安の正体

相続は「家族がいる前提」ではなく、制度として仕組みが整っている

相続という言葉を聞くと、多くの方は「家族で遺産を分ける場面」を思い浮かべます。

ところが最近は、単身の方や、親族と疎遠になっている方から、
「自分に何かあったとき、手続きはどうなるんですか」
「財産を受け取る人がいない場合、放置されるんでしょうか」
といった相談が増えています。

こうした不安が出てくるのは当然です。相続は家族だけの問題ではありませんし、家族がいない場合の仕組みも法律でしっかり定められています。

まずは、「家族がいないから手続きが止まってしまう」という心配は不要だというところからスタートしましょう。

「親族がいない」「遺言もない」ときに起こりがちな疑問

市川周辺でも、単身で暮らしている高齢者の方から次のような話が出ることがあります。
「葬儀は小さくていいし、お金もそんなにない。でも、後片付けや手続きを頼める人がいない」
「家は古くて価値があるかわからないけれど、どう扱われるのか心配」

遺言がない場合、財産の行き先は自動的に確定しません。かといって、周囲の友人や知人が自由に手続きを進めることもできません。

この状態は「自分が亡くなったあと、全てが止まってしまうのでは」と感じさせますが、実際には手続きの流れがあります。

ここで出てくるのが相続人不存在という仕組みです。

まず知っておきたい「相続人不存在」という制度

相続人不存在とは、
・法律上の相続人がいない
・遺言で財産の受け取り先が指定されていない
という状況を指します。

この場合、家庭裁判所が関与して手続きを進めていきます。
身寄りのない方の財産が放置されないよう、
・財産を管理する人(相続財産管理人)を裁判所が選任し
・負債の処理や財産の整理を進め
・一定期間、親族がいないかを探す
といった段階が法律で決められています。

つまり、家族や親族がいなくても、「適切な形で財産が整理される仕組み」がきちんと存在します。

不安を小さくするための第一歩

相続や成年後見、家族信託などの相談では、
「何から手をつければいいかわからない」
「仕組みが複雑そうで不安」
という声がとても多いものです。

ですが、相続人不存在の仕組みを一度理解しておくと、
・自分の財産が最終的にどう扱われるか
・遺言や生前対策をしておくと何が変わるか
が自然と見えてきます。

「相続人不存在」とは?家庭裁判所が中心となって進む特殊な手続き

相続人不存在の意味をやさしく整理

相続人不存在とは、亡くなった方に法律上の相続人がおらず、遺言でも財産の受け取り先が指定されていない状態を指します。

例えば、独身で子どもがいない方や、親族と長年連絡を取っていない方のケースが該当します。

「誰も財産を受け取らないなら、そのまま放置されてしまうのでは」と思うかもしれませんが、そうではありません。

こうした場合は、家庭裁判所が主導して財産を整理し、必要な手続きが確実に行われる仕組みがあります。

家庭裁判所が選ぶ「相続財産管理人」とは

相続人不存在の場合、まず家庭裁判所が相続財産管理人という役割の人を選びます。
この管理人は、簡単にいえば「亡くなった方の財産を代わりに管理し、整理する専門家」です。

実務では弁護士が選ばれることが多く、
・預貯金の調査
・不動産の管理や売却
・債務の支払い
・必要に応じた整理や清算
などを行います。

管理人が選ばれると、相続財産は一時的に管理人の「管理下」に置かれ、適切に整理されていきます。
ここは一般の相続と大きく異なるポイントです。

親族の探索と公告という流れ

相続財産管理人が選任されると、まず最初に行うのが「相続人が本当に存在しないかの確認」です。
管理人は戸籍を丁寧に調査し、場合によっては数世代上の親族にまで遡ることもあります。
この段階で相続人が見つかれば、通常どおり相続手続きへと移行します。

もし調査しても相続人が確認できなければ、次のステップとして「公告」という手続きに入ります。
これは、裁判所を通じて広く告知し、「名乗り出る人がいないかどうか」を一定期間待つためのものです。
公告期間は最低でも数か月ほど設けられます。

名乗り出る人がいなかった場合の扱い

公告期間が過ぎても相続人が名乗り出ない場合、管理人は財産を清算していきます。
不動産を売却したり、預貯金を整理したりしながら、債務や葬儀費用など必要な支払いを済ませ、残った財産を確定させていきます。

この「財産を清算する」という手続きがすべて終わり、書類上も問題がなければ、残った財産は、被相続人の最後の住所地を管轄する都道府県に帰属します。

その後、財産の内容によっては国に移されることもありますが、最初の帰属先は都道府県です。

この点が一般の相続と最も異なるところで、相続人不存在では「財産が国に引き継がれる」という道筋が法律で明確に決められているのです。

相続人不存在は珍しい制度ではない

相続人不存在は特殊な制度に見えますが、昨今の単身世帯の増加や高齢化に伴い、相談が増えている分野でもあります。
行政書士としてさまざまな相談を受けていると、市川のような都市部でも「自分もこの制度に当てはまるのでは」と心配される方が多い印象です。

家庭裁判所がしっかり関与するため、仕組みとしては整っていますが、手続きには時間がかかることもあります。

財産はどう処理される?国庫に帰属するまでの道筋をわかりやすく整理

財産はすぐに国に引き継がれるわけではない

「相続人がいないなら、財産はすぐに国が引き取るのだろう」と思われがちですが、実際にはそうではありません。

相続人不存在の手続きが始まっても、すぐに国庫に移るわけではなく、いくつもの段階を踏んで整理されていきます。

家庭裁判所が選んだ相続財産管理人が、丁寧に調査と清算を行い、必要な支払いを済ませたうえで、最終的に残った財産だけが国に引き継がれます。

この章では、その流れを順番に整理していきます。

相続財産管理人による調査と管理

管理人がまず行うのは、財産の調査です。
預貯金の残高を確認し、不動産の有無を調べ、必要に応じて現地を訪れることもあります。

一方で負債がある場合は、それも合わせて把握する必要があります。
相続はプラスの財産だけでなく、マイナスの財産も対象になるため、借入金や公共料金の未払いがあれば整理の対象です。

管理人は、財産や負債を一つずつ確認しながら、相続財産全体を把握していきます。
ここは非常に地道な作業ですが、ここを丁寧に進めることで後の清算がスムーズに行えます。

財産の換価と債務の支払いという重要ステップ

財産の全体像が把握できたら、管理人は必要に応じて財産を換価(お金に換えること)していきます。
不動産があれば売却を検討しますし、預貯金は相続財産口座にまとめていきます。

この段階で、
・借金の返済
・医療費や介護費の未払い
・税金、公共料金などの精算
・葬儀費用の支払い
といった「支払うべきもの」を片付けていきます。

相続人不存在と聞くと財産がそのまま国庫に移るイメージがありますが、実際には「必要な支払いをすべて済ませたうえで、残った分だけ」が国に戻される形です。

残った財産は都道府県に帰属する

債務の精算が終わり、公告期間も過ぎて相続人が現れなければ、残った財産が確定します。
ここではじめて、「帰属する財産」が明確になります。

もちろん財産の内容によっては、手続きに時間がかかることもあります。
例えば不動産が古家付きで売却が難しい場合、管理費や固定資産税が発生し続けるため、整理に時間と費用がかかることもあります。

預貯金だけのケースと比べると、こうした不動産の存在が手続きを大きく左右します。

市川など都市部でも起こりやすい状況

相続登記が放置されていたり、高齢の単身者が増えていたりすると、相続人不存在につながるケースは珍しくありません。

行政書士として相談を受けていると、
「家の名義が祖父のまま何十年も放置」
「連絡が取れない親族ばかり」
といった事情から、手続きが複雑化している事例もあります。

この記事を読んでいる方の中にも、「自分の家族にも当てはまりそう」と感じる方もいるかもしれません。
だからこそ、現段階で仕組みを知っておくことが大きな安心につながります。

相続人不存在を避けるには?遺言・任意後見・家族信託でできる備え

相続人不存在は「対策すれば防げる」問題

相続人不存在という言葉を聞くと、どこか特別なケースのように感じるかもしれません。
しかし実際には、誰でも将来的に起こり得る身近な話です。

とはいえ、心配しすぎる必要はありません。
事前にいくつかの準備をしておけば、財産の行き先を自分で決めておくことができ、相続人不存在の状態を避けることができます。

ここでは、そのための代表的な方法を三つ紹介します。
難しい制度の説明ではなく、「これをしておくと何が変わるか」という観点でやさしく整理していきます。

遺言書を作成するだけで「財産の行き先」は確保できる

最も手軽で効果が大きい準備は、遺言書の作成です。
遺言書には、誰に何を残すかを自分の意思で指定できる力があります。

「家族がいないから相続で揉めることもないし、遺言は不要では」と思われる方もいますが、実はこうしたケースほど遺言書の効果が大きくなります。

例えば次のような希望も、遺言があれば叶えられます。
・信頼している友人に少額を渡したい
・お世話になった団体に寄付したい
・家の片付けや事務手続きをお願いしたい相手がいる

遺言がなければ、相続人不存在の流れに乗ってしまい、最終的には国庫に帰属します。
「せっかくの財産なら、自分の意思を反映したい」と考える方にとって、遺言はとても有効です。

判断力が低下する前から備える「任意後見」という選択

もう一つの重要な方法が、任意後見契約です。
これは、ご自身の判断力がしっかりしているうちに、将来の財産管理をお願いしたい相手を決めておく制度です。

「認知症になったらどうしよう」
「銀行での手続きや支払い管理が不安」
という相談はとても多く、任意後見があると、こうした不安を大きく減らすことができます。

任意後見を整えておくことで、
・預貯金の管理
・支払いの代行
・役所の手続きのサポート
といった日常的な事務から財産管理まで任せられるため、判断力が低下した後も安心して生活を続けられます。

この「安心して暮らせる期間が続く」という点が、相続対策とセットで考えるうえでも大きな意味を持ちます。

財産管理と承継を柔軟に決められる「家族信託」

家族信託は、信頼できる人に財産管理を託しつつ、将来の受益者まで自分で決められる仕組みです。
遺言が「亡くなった後の指定」なのに対し、家族信託は「生前の管理」と「亡くなった後の承継」をまとめて設計できます。

例えば、
・自宅の管理を家族に任せたい
・自分が亡くなった後も、家族の生活を支える仕組みを作っておきたい
・障害のある子どもの将来が心配
こういった相談は、家族信託で柔軟に設計できます。

また、受託者(財産を管理する人)が財産をしっかり管理するため、相続人不存在になりにくい点も特徴です。
「財産の行き先が不安」「親族とのつながりが薄い」と感じている方には、特に相性が良い方法です。

自分に合った対策は何かを考えることが大切

ここまで紹介した三つの方法には、それぞれ得意分野があります。
・遺言は「最終的な行き先を決める」
・任意後見は「判断力が低下したときの備え」
・家族信託は「生前の管理と承継を一体化する」
というイメージです。

どれか一つだけでも効果はありますし、組み合わせることでさらに安心感が高まります。
単身の方や親族と疎遠な方だけでなく、家族がいても相続でもめたくない方にとっても役立つ方法です。

身寄りの有無にかかわらず、早めの生前対策が安心につながる

相続人不存在の流れをもう一度整理

ここまで、相続人不存在とは何か、家庭裁判所の関与、財産管理人の役割、そして最終的に国庫に帰属するまでの流れを見てきました。

少し長い手続きに感じたかもしれませんが、順番に整理すると次のようなイメージです。

  1. 法律上の相続人がいない、遺言もない
  2. 家庭裁判所が相続財産管理人を選任
  3. 財産や負債を調査し、必要な支払いを済ませる
  4. 親族がいないか公告して一定期間待つ
  5. 名乗り出る人がいなければ財産を清算
  6. 残った財産が都道府県(または国庫)に帰属する

「相続人がいないと手続きが動かない」という心配を持つ方は多いのですが、実際にはこのように仕組みが整っており、放置されることはありません。

今できる三つの準備

相続人不存在は制度として整っていますが、財産の扱いを自分の意思で決めておきたい方にとっては、やはり事前の準備が大切です。
難しいことをすべてやる必要はなく、次の三つのうちどれか一つでも取り組むだけで大きく変わります。

遺言

財産の行き先を自分で決められる方法。
「誰に何を託したいか」を明確にできるため、意向を反映させたい方に最適です。

任意後見

判断力が低下したときに備えておく方法。
暮らしの安心を確保しつつ、財産管理の混乱を防ぎます。

家族信託

生前の財産管理と、亡くなった後の承継を一体で設計できる柔軟な仕組み。
単身の方や、家族がいても相続で揉めたくない方に向いています。

それぞれの制度には得意分野があるため、状況に応じて使い分けることが大切です。

市川や近隣エリアで相談する際のポイント

市川でも単身の高齢者や、親族とのつながりが薄いご家族からの相談が年々増えています。
行政書士に相談するときは、
・どの制度が自分に合うのか
・費用や準備にどれくらい時間が必要か
・できれば家族関係や資産状況をざっくり伝える
といった点を整理しておくとスムーズです。

生前対策は、「気になっているけれど、具体的には手をつけていない」という方が多いものです。
ただ、一歩踏み出すだけで不安が大きく軽くなり、相続の準備を主体的に進められるようになります。

まとめ

身寄りがある方も、そうでない方も、相続について考えておくことは「安心して暮らすための準備」です。
相続人不存在の制度を理解しておくことで、自分や家族の財産がどのように扱われるのかが見えてきます。

そして、遺言・任意後見・家族信託といった仕組みを取り入れれば、財産の行き先を自分で決め、生活の不安を減らすことができます。

思い立ったタイミングが最適なタイミングです。
気になることがあれば、身近な専門家に相談しながら少しずつ準備を進めてみてください。