「遺言を書きたい」と思った時、最初にやるべきコトとは?

「遺言を書きたい」と思った時、最初にやるべきコトとは?

「そろそろ遺言でも準備しておこうかな……」

そんなふうにふと思った時、あなたの心にはどんな景色が浮かんでいるでしょうか。

お誕生日の節目を迎えられたのかもしれませんし、ご友人とのお喋りの中で相続の苦労話を聞いたからかもしれません。あるいは、テレビのニュースや雑誌の特集を見て「うちは大丈夫かしら?」と、ふと不安がよぎった、なんてこともあるでしょう。

まずは、そう思った自分自身を、思いきり褒めてあげてほしいんです。 「えっ、遺言のことを考えるなんて、なんだか縁起でもない……」なんて、自分を責める必要は全くありません。行政書士として多くのご家族を見てきた私から言わせれば、遺言を書こうと決めるのは、決して「死の準備」ではないんです。

それは、あなたがこれまで一生懸命に働いて築いてきた財産と、そして何より大切に想ってきたご家族の未来を、あなた自身の責任と愛情で守り抜こうとする「究極のギフト」なんですよ。

でも、いざ「書こう!」と思い立っても、何から手をつければいいのか、迷ってしまいますよね。

「やっぱり立派な便箋を買ってこないとダメ?」
「判子は実印じゃなきゃいけないの?」
「そもそも何を書けば有効になるの?」

そんな疑問を抱えながら、結局ペンが進まずに「また今度でいいか……」と棚上げになってしまう。実は、そんな方がとっても多いのが現実です。

そこで今回は、相続・遺言の専門家である行政書士の視点から、遺言を書こうと思い立った時に「まず最初にやるべきこと」を、2026年現在の最新事情も盛り込み、丁寧に解説していきます。この記事を読み終わる頃には、あなたの不安が「安心」に変わっているはずですよ。

最初にやるのは「ペンを持つこと」ではない

驚かれるかもしれませんが、遺言の準備において、いきなり文章を書き始めるのは一番の「NGアクション」なんです。

「やる気があるうちに書いちゃいたい!」というお気持ちは、痛いほどよく分かります。でも、遺言書には法律で定められた厳格なルールがあるんです。

せっかく心を込めて書いたのに、ほんの少しの形式ミスで「無効」になってしまったら……。残されたご家族がその無効な遺言書を手に呆然とする姿なんて、想像したくもありませんよね。

一般的なイメージでは「自分の想いを自由に綴る」のが遺言だと思われがちですが、実務の世界では、実際にペンを握る作業は全体のプロセスの最後、いわば「お家の完成式」のようなものです。

じゃあ、何をすればいいのか。 それは「現状を正しく把握すること」。これに尽きます。 地ならしをせずに立派な家を建てられないのと同じで、遺言も土台作りが最も重要です。

焦ってペンを握る前に、まずは頭の中と身の回りの情報を整理する時間を作ってみましょう。まずは深呼吸して、リラックスした状態で進めていきましょう。

自分の「あらゆる財産」を見直す

まずは、あなたが今どんな財産を持っているのか、リストアップすることから始めましょう。 「そんなの、大体わかってるよ」と思われるかもしれません。

でも、いざ書き出してみると「あ、あそこの銀行口座、しばらく使ってないな」とか「そういえば若い頃に買ったあの株、どうなったっけ?」といった具合に、意外な抜け漏れが見つかるものです。

特に、2026年という今の時代において、絶対に避けて通れないのが「デジタル資産」の整理です。

デジタル資産のリストアップ

ひと昔前なら、通帳と権利証、そしてタンスの奥の貴金属さえ把握していれば事足りました。でも今はどうでしょう。

  • ネット銀行やネット証券の口座
    紙の通帳がないため、ご家族が気づかないケースが激増しています。
  • 暗号資産(仮想通貨)やNFT
    スマホのアプリの中にしかない財産は、持ち主以外には「透明」な存在です。
  • スマホ決済の残高やポイント
    数万、数十万単位で残っていることも珍しくありません。
  • サブスクリプション(月額課金)サービス
    亡くなった後も、クレジットカードから引き落としが続いてしまう「負の遺産」になりかねません。

これらは、ご家族には見えにくい「透明な財産」です。もしあなたが亡くなった後、ご家族がスマホのロックを解除できず、どこのネット銀行を使っていたかもわからない……なんて事態になったら、手続きは迷宮入りしてしまいます。

高価な不動産と同じくらい、デジタル情報の整理は重要なんです。IDやパスワードを直接遺言に書くのはセキュリティ上おすすめしませんが、「どの会社のサービスを使っているか」をリストにするだけでも、ご家族の負担は劇的に減りますよ。

「負の財産」も隠さないで

それから、あまり考えたくないかもしれませんが、借金やローン、連帯保証人になっている契約などの「マイナスの財産」も、しっかり書き出しておきましょう。

「家族に格好悪いところを見せたくない」「心配させたくない」というお気持ちは、本当によく分かります。でも、相続で一番困るのは、後から借金が発覚して、ご家族が「相続放棄」のタイミングを逃してしまうことなんです。

すべてを正直にさらけ出すことが、結果として家族を路頭に迷わせないための「本当の優しさ」……というワケです。

誰に何を託したいか、その「理由」まで深掘り

財産が整理できたら、次は「誰に、どの財産を、どれくらい渡したいか」を考えます。ここで大切なの、単に数字や名前を並べることではなく、「なぜ、そうしたいのか」というあなたの本音を深掘りすることです。

相続人の相関図を書いてみる

まずは、家系図のような簡単な相関図を書いてみてください。「長男、長女、そして……あ、もう20年も連絡を取っていない弟がいたな」といった具合に、法律上の相続人が誰になるのかを再確認します。

今の時代、家族の形は千差万別です。おひとり様の方もいれば、再婚されている方、事実婚の方もいらっしゃるでしょう。自分の「法定相続人」が誰なのかを知ることは、遺言の方向性を決めるための第一歩です。

「付言事項」が家族を救う

遺言書には「長男に自宅を、次男に現金を」といった法的な指示だけでなく、「付言事項(ふげんじこう)」という、家族へのメッセージを添えることができます。

実は、私たち専門家が実務の現場で目にする「親族同士の争い」を止めるのは、法的な効力よりも、このメッセージであることが非常に多いんです。

例えば、「長男は同居して10年も介護をしてくれたから、感謝を込めて家を譲りたい。次男には、結婚の時に多めの援助をした経緯があるから、今回の配分で納得してほしい。二人とも、これからも仲良く助け合って生きていってほしい」

こんな一言があるだけで、受け取る側の納得感は全く変わります。 「兄貴ばっかりずるい!」という怒りが、「親父(お袋)は、こんな風に僕らのことを見てくれていたんだな」という感謝に変わる。

遺言書は、あなたの声を届ける「最後の手紙」でもあるんですよね。あなたがこの世を去った後、ご家族が仲良くお墓参りに来てくれる姿を想像しながら、このメッセージを練ってみてください。

遺言が分ける家族の命運

ここで、遺言の有無がご家族の未来をどう変えてしまうのか、よくある典型的なケースを2つご紹介します。物語形式ですが、実務の現場ではよく耳にするパターンのお話です。

仲の良かった兄弟が、1軒の家を巡って決裂

ご相談に多いのが、財産のほとんどが「今住んでいる自宅」だけというパターンです。 あるお父様が亡くなり、相続人は仲の良い兄弟二人。お父様は生前「うちは仲が良いし、大した財産もないから遺言なんていらないよ」と仰っていました。

しかし、いざ相続が始まると事態は一変します。 同居していた兄は「このまま住み続けたい。家を守るのが長男の役目だ」と言い、離れて暮らす弟は「自分にも権利がある。家を売って、現金を半分ずつ分けるのが公平だ」と主張。 現金があれば解決できたかもしれませんが、あいにく貯金は葬儀代でほとんど消えてしまいました。

結局、兄弟は話し合いで決着がつかず、家庭裁判所での調停に。数年後、家は競売にかけられ、兄弟は絶縁状態になってしまいました。 もしお父様が「家は兄に、その代わり兄は弟にいくらか現金を払うように」とか「弟には生前贈与をしたから家は兄に」といった遺言を一筆書いておくだけで、この悲劇は防げたはずです。

遺言書の「たった数行」が、不公平を納得に

一方で、こんなケースもあります。 あるお母様が、特定の子供(献身的に看病してくれた長女)に、財産の8割を譲るという、一見すると「不公平」な遺言を遺していました。

普通なら、残りの2割しか貰えない長男や次男から不満が出るところです。しかし、その遺言書の最後には、お母様の心のこもったメッセージ(付言事項)が綴られていました。

「長男さん、次男さん、あなたたちが立派に独立してくれたことが私の誇りでした。長女さんは、仕事が忙しい中、毎日私の食事を作りに来てくれました。彼女がいなければ、私は家で最期を迎えることはできなかったでしょう。私のわがままで配分を決めましたが、どうか私の気持ちを汲んで、三人仲良くやってください」

これを読んだ兄弟は、「母さんがそこまで言うなら、お姉ちゃんに感謝しないとな」と、涙ながらに納得されました。不公平な配分も、お母様の「理由」が添えられていたことで、最高の「納得」に変わったんです。

自筆証書遺言の「保管制度」が当たり前に?

遺言書の種類には、大きく分けて「自筆証書遺言(自分で書くもの)」と「公正証書遺言(公証役場で作るもの)」の2つがあります。

2026年現在、実務の現場で非常に利用者が増えているのが、法務局で自筆証書遺言を預かってくれる「自筆証書遺言書保管制度」です。 数年前までは「自分で書く遺言書は、紛失や書き換えのリスクがあるから危ないよ」なんて言われていましたが、今は国がしっかり守ってくれる、とても便利な時代になりました。

この制度の何がすごいかというと、主に3つのメリットがあります。

  1. 紛失・隠匿の心配がない
    法務局という公的な機関が原本を預かってくれるので、誰かに勝手に書き換えられたり、捨てられたりする心配がゼロです。
  2. 検認(けんにん)の手続きが不要
    本来、自筆の遺言書は亡くなった後に家庭裁判所で「検認」という数ヶ月かかる手続きが必要なのですが、この制度を使えばそれが不要!すぐにお手続きに入れます。
  3. ご家族への通知機能
    遺言を書いた方が亡くなった際、あらかじめ指定しておいた人に「遺言書が保管されていますよ」と法務局から通知が届く仕組みもあります。

「公証役場に行くのは少し敷居が高いけれど、家で保管するのは不安……」という方にとって、この保管制度は2026年現在、最もスマートな選択肢の一つになっています。当事務所でも、「まずはこの制度から検討してみませんか?」とアドバイスすることが増えています。

これだけは絶対に守って!失敗しないための「3つの鉄則」

遺言の準備を進める上で、これだけは絶対に頭に叩き込んでおいてほしいポイントが3つあります。ここを間違えると、せっかくの準備が台無しになってしまいますから、注意深くチェックしてくださいね。

① 「遺留分(いりゅうぶん)」を完全に無視しない

どんなに「この子には一円もあげたくない!」という強い想いがあっても、配偶者や子供には、法律で保障された最低限の取り分(遺留分)があります。

これを無視して「全財産を愛猫の世話をしてくれる友人に!」なんて書いてしまうと、後でご家族からその友人に対して「私の取り分を返して!」という泥沼の請求(遺留分侵害額請求)が起きてしまいます。

。想いを優先しつつも、法律のルールとどう折り合いをつけるか。ここは、私たち専門家の腕の見せ所でもあります。

② 形式の厳守(自筆の場合)

自筆証書遺言は、2026年現在も「本文、日付、氏名」をすべて自分の手で書くのが基本です。

「パソコンで打ったほうが綺麗だし、間違いもないでしょ?」と思われるかもしれませんが、署名までパソコンだと、それだけで無効になってしまうんです(財産目録などはパソコン作成が認められるようになりましたが、ルールは細かいです)。

また、意外と多いのが「日付」の不備。「2026年2月吉日」なんて書いてしまうと、特定の日付ではないとみなされて無効になる可能性が高いんです。恐ろしいですよね。

③ 「遺言執行者(いごんしっこうしゃ)」を誰にするか

遺言書を書いた後、実際に預貯金を解約しに行ったり、不動産の名義を書き換えたりする「実行役」を誰にするか決めておくことも重要です。

子供たちに任せるのも一つですが、相続人同士だとお互いに遠慮したり、逆に疑心暗鬼になったりして、手続きが止まってしまうことも……。

信頼できる第三者や専門家を「遺言執行者」に指定しておくと、あなたの死後の手続きが驚くほどスムーズに進み、ご家族の負担を最小限に抑えられます。

まずは「おしゃべり」から始めてみませんか?

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。 「意外とやることが多いな……」「ちょっと難しそうかも」と感じてしまったかもしれませんね。

でも、安心してください。最初から一人で完璧な、非の打ち所がない遺言書を書ける人なんて、この世には一人もいません。 遺言を書きたいと思った時、一番最初にやるべきこと。 それは、専門的な本を読み漁ることでも、立派なペンを買うことでもなく、実は「誰かに、自分の大切な想いを話してみること」なのかもしれません。

頭の中でぐるぐると考えていることを、一度言葉にして外に出してみる。

「実は長男にはこうしてあげたいんだけど、次男がどう思うか心配で……」
「デジタル資産って、具体的にどうリストにすればいいの?」
「そもそも、遺言が必要なほど財産があるわけじゃないんだけど……」

そんな、まとまっていない悩みでいいんです。むしろ、まとまっていないからこそ、私たちのような専門家がいるんです。

当事務所では、そんなあなたの不安に寄り添い、じっくりお話を伺う体制を整えています。

遺言は、あなたの人生を肯定し、愛する家族に「安心」を遺すための、最高に前向きなプロジェクトです。 一人で抱え込まずに、まずは気軽におしゃべりする感覚で、最初の一歩を踏み出してみませんか?