「法定相続分」の計算方法と具体例をわかりやすく解説

「法定相続分」の計算方法と具体例をわかりやすく解説

親の老後と「相続」の話題が避けられない理由

相続は「まだ先」の話ではない

「相続」や「遺言」という言葉を聞くと、多くの人は「うちは関係ない」「まだ先の話」と感じるものです。
しかし、実際に市川や船橋のような地域でも、親の高齢化がきっかけで突然“現実”になるケースは少なくありません。認知症の発症や入院、介護施設への入居など、家族の生活が一変する出来事をきっかけに、相続や後見の話を避けられなくなるのです。

本来、こうした準備は“元気なうち”にこそ進めるべきもの。遺言や家族信託、任意後見など、今の制度を活用することで、家族の負担をぐっと減らすことができます。

話し合いが遅れると何が起こる?

準備を後回しにしていると、思いがけないトラブルに発展することがあります。
典型的なのが「法定相続分」による機械的な遺産の分け方です。
「長男だから多くもらえると思っていた」「実家は長女が住んでいるのに、兄弟全員で分けるの?」といった思い込みと現実のズレが、“争族”の火種になることは珍しくありません。

とくに不動産や預貯金が複数ある場合、法定相続分の割合が実際の希望と合わないケースは多いもの。準備が遅れれば遅れるほど、家族の話し合いは複雑になり、時間も手間もかかります。

法定相続分は“知っておく”だけでも対策になる

「法律のことは専門家に任せる」という考え方もありますが、基本的な仕組みを家族が理解しているかどうかで、その後の話し合いの方向は大きく変わります。
法定相続分は、遺言がないときに適用される「標準のルール」です。誰がどれくらいの割合で相続するのかをあらかじめ知っておけば、親や兄弟姉妹との話し合いを早い段階で始めることができます。

「相続=大きな揉め事」というイメージは、準備不足から生まれる誤解や行き違いによって膨らんでいるケースも多いのです。

家族の将来を守るためには、まず「知ること」から。
次章では、この相続の基本となる「法定相続分」について、制度の仕組みをわかりやすく整理していきます。

法定相続分とは?—相続人ごとの基本ルール

「法定相続分」は“遺言がないとき”の標準ルール

「法定相続分(ほうていそうぞくぶん)」とは、遺言書がない場合に、遺産を誰が・どれくらいの割合で相続するかを法律で決めたルールのことです。
日本では民法で細かく定められており、遺言書がない限り、この割合に従って相続が進みます。

たとえば、配偶者と子が相続人となるケースでは、配偶者が2分の1、子どもが残りの2分の1を等分するというのが基本です。これは話し合いをせずとも自動的に適用されるため、「気づいたらこの割合で分けることになっていた」という状況もよく見られます。

相続人の範囲と順位を整理する

相続には「誰が相続人になるか」というルールもあります。
法律上、相続人の順位は以下のように定められています。

  1. 第1順位
    子(実子・養子)
  2. 第2順位
    直系尊属(父母・祖父母)
  3. 第3順位
    兄弟姉妹

配偶者は常に相続人となり、この順位のいずれかと一緒に相続します。
たとえば、子がいる場合は「配偶者+子」、子がいない場合は「配偶者+親」、さらに親もいなければ「配偶者+兄弟姉妹」という組み合わせになります。

また、子が亡くなっている場合は、その子(つまり孫)が代わって相続する「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」という仕組みもあります。
このように、家族構成によって相続人の顔ぶれが変わる点は、実務でも重要なポイントです。

よくある誤解と注意点

相続については、昔ながらの感覚や家族の事情から生まれる誤解も少なくありません。
よくあるのが、「長男が多くもらえる」「実家を継ぐ人が全部相続できる」という思い込みです。
しかし、民法上は長男・次男・長女といった“序列”は関係なく、子どもは等分で相続します。

また、内縁関係(籍を入れていないパートナー)は、法定相続人には含まれません。長年一緒に暮らしていても、法的には相続権がないのです。養子縁組をしているか、遺言書で指定されているかで扱いが大きく変わります。

さらに、認知していない子どもや、再婚家庭の子など、戸籍上の関係性が相続権に直結するため、家庭事情によっては想定外の相続人が出てくることもあります。

法定相続分は、「誰が相続人になるか」と「どれくらいの割合で分けるか」をセットで理解することが大切です。
次章では、この割合が実際にどう計算されるのか、典型的なケース別の具体例をわかりやすく見ていきます。

法定相続分の計算例—ケース別で具体的に理解する

ケース① 配偶者と子どもがいる場合

もっとも一般的なのが、「配偶者と子ども」が相続人になるパターンです。
この場合、配偶者の相続分は2分の1、子ども全員で残りの2分の1を等分します。

たとえば、遺産総額が2,000万円で、配偶者と子ども2人が相続人の場合

  • 配偶者
    1,000万円(2,000万円 × 1/2)
  • 子A
    500万円(2,000万円 × 1/4)
  • 子B
    500万円(2,000万円 × 1/4)

このように自動的に分けられます。
ただし、実家の土地や建物など「分けにくい資産」があると、実際の分配はこの通りにいかないことが多く、話し合いや登記手続きが必要になるケースも珍しくありません。

ケース② 配偶者と親がいる場合

子どもがいないときは、次の順位である「親(直系尊属)」が相続人となります。
この場合、配偶者が3分の2、親が3分の1です。

たとえば、遺産総額が1,200万円で、配偶者と父母が相続人の場合

  • 配偶者
    800万円(1,200万円 × 2/3)

  • 200万円(1,200万円 × 1/6)

  • 200万円(1,200万円 × 1/6)

親が高齢の場合、配偶者との間で話し合いが難航するケースもあります。特に、自宅をどちらの名義にするかで揉めやすいので、早めの対策が重要です。

ケース③ 配偶者と兄弟姉妹がいる場合

子も親もいないときは、兄弟姉妹が相続人になります。
この場合、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1を等分します。

たとえば、遺産総額が800万円で、配偶者と兄2人が相続人の場合

  • 配偶者
    600万円(800万円 × 3/4)
  • 兄A
    100万円(800万円 × 1/8)
  • 兄B
    100万円(800万円 × 1/8)

兄弟姉妹には「遺留分(最低限の取り分)」がないため、遺言で相続分を変えることも可能です。とはいえ、感情面のトラブルが発生しやすいのがこのパターンです。

不動産があるときの“分け方問題”

金額だけならシンプルに割り算できますが、不動産(特に実家)が含まれると話は別です。
土地や建物は「物理的に割れない」ため、相続人が共有名義にしたり、誰かが住み続けて他の相続人に代償金を支払ったりといった調整が必要になります

こうした話し合いは、感情面の対立を生みやすく、結果として相続登記や遺産分割協議が長引く原因にもなります。
「計算上は簡単」でも、実務は意外と複雑——これが多くの家族が直面する現実です。

早めの準備がトラブル回避のカギ

法定相続分の計算そのものは難しくありません。
しかし、実際の遺産の内容や家族の事情によって、話し合いがスムーズに進まないケースは多くあります。
だからこそ、元気なうちに家族で話し合いを始めること、そして必要に応じて遺言や家族信託を検討することが、あとからの「争い」を防ぐ第一歩になります。

トラブルを避けるための3つの事前対策

① 遺言書を作成して「希望をカタチに」する

法定相続分は、あくまで「遺言がない場合」のルールです。
つまり、遺言書を作成することで、誰に・どの財産を・どれくらい残すかを自由に決めることができます

たとえば、実家の土地建物を長女に相続させ、預貯金を他の兄弟に分けるといった柔軟な分配も可能です。
遺言があることで、遺産分割協議を行わずに名義変更が進められるケースも多く、手続きの負担と家族間の対立を大幅に減らせます

遺言書には「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類があります。
前者は自分で書けるため手軽ですが、形式不備や紛失のリスクがあります。後者は公証役場で作成するため費用はかかるものの、法的な有効性と安全性が高いのが大きなメリットです。
最近は「自筆証書遺言保管制度」も整備され、活用する人が増えています。

② 家族信託で柔軟な資産管理と承継を実現する

遺言と並んで注目されているのが「家族信託(民事信託)」です。
これは、信頼できる家族に財産の管理・運用を託し、自分の意思を反映しながら承継まで行える仕組みです。

たとえば、親が認知症を発症して判断能力が低下すると、銀行口座が凍結され、相続前に資金が動かせなくなるケースがあります。
こうしたとき家族信託を利用していれば、家族が柔軟に資産を管理し、必要な支出にも対応できるようになります。

遺言が「亡くなったあとの財産の承継」を定めるものなのに対し、家族信託は「生前から承継まで一貫して管理できる」のが特徴です。
とくに、不動産や事業用資産がある場合には、有力な選択肢となります。

③ 成年後見・任意後見で「判断力の低下」に備える

相続トラブルの背景には、「認知症や病気による判断力の低下」があることも少なくありません。
財産の名義人が判断できなくなれば、遺言を作成することも、分割協議に参加することもできなくなります。

その備えとして活用されるのが「成年後見制度」です。
家庭裁判所の監督のもと、後見人が財産を管理し、生活を支える仕組みです。
また、「任意後見契約」をあらかじめ結んでおけば、元気なうちに信頼できる人を後見人に指定しておくこともできます。

家族信託と併用することで、より柔軟な対策が可能です。
たとえば、日常の資産管理は家族信託で行い、身上監護(医療・介護面)は後見制度でカバーする、といった設計も現場では増えています。

早めの準備が「争族」を防ぐ一番の対策

法定相続分に従うだけでは、家族の思いや生活実態を反映できないケースが多々あります。
だからこそ、「相続の話を先送りにしない」ことが何よりの対策です。

「遺言」「家族信託」「成年後見(任意後見)」の3つは、それぞれ得意分野が異なる仕組みです。
状況に応じて組み合わせることで、家族の安心を守る設計が可能になります。

まとめ—法定相続分を理解して「争族」を防ぐ

法律は「知っている人」に有利に働く

相続の話は、後回しにされがちです。
しかし、実務の現場では「知らなかった」「もっと早く動いていれば…」という声を本当によく耳にします。
法定相続分は、法律が定める“標準の分け方”です。
遺言がないとき、自動的にこのルールに従って遺産が分けられます。

一方で、家族の希望や生活実態とこの“標準”が合わないことは珍しくありません
だからこそ、仕組みを「知っているかどうか」で、その後の話し合いの方向や手続きのスピードが大きく変わってくるのです。

早めに話し合うことでトラブルの芽をつぶす

相続で一番多い失敗は、「話し合いをしなかったこと」です。
親が元気なうちは「まだ先の話だから」と避けてしまい、いざ相続が始まると

  • 思っていた分け方と違う
  • 名義変更や登記が進まない
  • 相続人の間で感情的な対立が起きる

といった問題が表面化します。

これらは、遺言書の作成や家族信託、後見制度の活用といった事前準備で避けられるケースが非常に多いのです。
まずは「今の財産をどうしたいか」「誰にどのように託したいか」を家族で話し合うことから始めるのが、もっとも効果的な対策といえます。

専門家を上手に活用する

相続や遺言、成年後見、家族信託といった制度は、一度理解すれば強い味方になります。
ただし、それぞれの制度には細かなルールや手続き上の注意点もあります。
家族だけで話し合っても、実際の登記・契約・申請の段階でつまずくことも少なくありません。

そのようなときは、行政書士・司法書士・弁護士など専門家を早めに活用するのがおすすめです。
行政書士は、相続関係説明図の作成や遺言・家族信託のサポートなど、手続きの下準備を得意としています。
登記や代理交渉が必要な場合は、司法書士・弁護士と連携して進めることで、スムーズな解決につながります。

市川・船橋エリアでできることから一歩ずつ

相続は、誰にでも訪れる身近なテーマです。
「難しそう」「あとでいい」と感じるかもしれませんが、小さな一歩でも早めに踏み出すことが、将来の安心につながります

まずは法定相続分を理解し、家族で話し合い、必要であれば遺言や信託の準備を進める。
この3ステップを意識するだけで、将来的なトラブルの芽をしっかりとつぶすことができます。

「争う相続」ではなく、「備える相続」へ。
今できる準備を、今日から始めてみませんか?