「遺留分侵害額請求」とは?改正民法で変わった権利行使方法

「遺留分侵害額請求」とは?改正民法で変わった権利行使方法

目次

「遺留分」を知らなかったでは済まされない——家族間トラブルの火種に

相続は「法律の知識がない人」ほど揉めやすい

相続の相談でよく耳にするのが、

「まさか兄弟とここまで険悪になるとは思わなかった」
という声です。

特別な資産家でなくても、相続をきっかけに家族関係が壊れるケースは少なくありません。
その原因のひとつが、「遺留分」という制度を知らなかったことです。

相続の準備をしている本人は、「遺言書を書いておけば安心」と思いがちです。
しかし、法律上は遺言で財産をすべて特定の人に渡せるわけではなく、最低限の取り分が保障される相続人がいるというルールが存在します。
これを知らずに遺言を残したり、逆に知らずに相続人になったりすると、後から「納得できない」「そんな話は聞いていない」と争いが発生しやすくなるのです。

「遺留分」は身近な家族にも適用される

「遺留分」と聞くと、特別なお金持ちの話だと感じる人も少なくありません。
ですが、実際には市川市などのごく一般的な家庭でも遺留分をめぐるトラブルは起きています。

たとえば、

  • 長男だけが家業を継いでいる
  • 不動産を一人に相続させたい
  • 相続人の一部と疎遠になっている
    といった状況では、他の相続人が「自分の取り分を侵害された」と主張する可能性があります。

このとき、遺留分という制度を理解していないと、
・本人は「遺言通りにすればいい」と思い込んでいる
・相続人は「何も言えない」と思い込んでしまう
という、いわば“知識のミスマッチ”が起きるのです。

トラブルは「亡くなった後」に表面化する

遺留分をめぐる争いは、生前には表に出にくいのが特徴です。
「亡くなってから初めて遺言の内容を知った」「実家の不動産が全部兄の名義になっていた」——こうした“事後の発覚”が、親族の信頼関係を一気に崩してしまう引き金となります。

特に、相続登記が遅れたまま放置されていた場合、共有状態が長引き、遺留分の請求や話し合いが複雑化しやすくなります。
この段階になると、法律や手続きの知識がない家族同士では話し合いがまとまらず、弁護士や司法書士、行政書士などの専門家を交えるケースも少なくありません。

知識の「事前共有」で争いは防げる

実は、遺留分トラブルの多くは制度の存在を家族全員が把握していなかったことが原因です。
あらかじめ「遺言」「遺留分」「相続登記」といった基本的なしくみを家族で共有しておくことで、後の衝突を大幅に減らすことができます。

📝 遺言を「残す人」だけでなく、「受け取る人」も知識を持つこと。
これが、相続を“争族”にしないための第一歩です。

遺留分とは?——法定相続分との違いと対象になる財産

「法定相続分」と「遺留分」は別物

相続では、「法定相続分」という言葉がよく登場します。
これは、民法で定められた“相続人がどのくらいの割合で財産を受け取れるか”を示す基本のルールです。
一方で「遺留分」は、それよりも一歩踏み込んだ考え方。
遺言によって相続分がゼロになったり、極端に少なくされた場合でも、法律上保障される最低限の取り分を意味します。

たとえば、配偶者と子1人が相続人だった場合、法定相続分はそれぞれ2分の1ずつ。
仮に遺言で「全財産を子に渡す」と書かれていても、配偶者には法定相続分の半分=4分の1の遺留分が認められています。
つまり「まったく受け取れない」は本来ありえない、という仕組みなのです。

遺留分が認められるのは一部の相続人だけ

遺留分は、すべての相続人にあるわけではありません。
対象となるのは次のとおりです👇

  • 配偶者
  • 子(および代襲相続人)
  • 直系尊属(親など)

兄弟姉妹には遺留分は認められていない点も大きなポイントです。
そのため、兄弟姉妹が相続人になるケースでは、遺言の内容がそのまま適用されやすくなります。

相続関係の例

  • 配偶者+子 → 遺留分は法定相続分の2分の1
  • 配偶者のみ → 配偶者の法定相続分の2分の1
  • 親のみ → 法定相続分の3分の1

対象になる財産・ならない財産

遺留分は、すべての財産に適用されるわけではありません。
相続財産のうち、「遺留分算定の基礎財産」と呼ばれるものが対象となります。

💡 遺留分の算定では、生前贈与も重要な要素になります。

  • 直系卑属(子など)への贈与
    相続開始前10年以内
  • 相続人以外への贈与
    相続開始前1年以内(悪意の贈与は期間制限なし)
    →こうした贈与分が遺留分に「持ち戻し」されるため、生前の資産移転も見逃せません。

【対象になる財産】

  • 現金・預貯金
  • 不動産(土地・建物)
  • 株式・有価証券
  • 生前贈与された財産(一定の条件あり)

【対象にならない財産】

  • 生命保険金(受取人が指定されている場合)
  • 死亡退職金(受取人が指定されている場合)
  • 祭祀財産(仏壇・墓地など)

この点を誤解している方は非常に多く、「保険金も取り戻せる」と思い込んでトラブルになる例も少なくありません。

不動産が絡むと話は複雑になる

市川市など首都圏では、不動産が遺産の大部分を占めることがよくあります。
この場合、遺留分の割合は計算できても、実際に「不動産を分ける」ことは難しいため、金銭での補填(遺留分侵害額請求)が現実的な対応になります。
つまり、権利として「取り分がある」とわかっていても、すぐに土地や建物の名義が移るわけではないのです。

家族が制度を知っているかどうかが分かれ目

遺留分の制度は、「知っている人」と「知らない人」とで大きな差が出ます。
特に遺言があるケースでは、「自分の取り分がある」と気づかないまま手続きを終えてしまう人も少なくありません。

📝 相続人としての権利を守るためには、「遺留分」の基本を理解しておくことが第一歩です。

改正民法でどう変わった?「遺留分侵害額請求」へのシフト

2019年の民法改正で「減殺請求」は過去のものに

かつて遺留分を主張するためには「遺留分減殺請求」という制度を使う必要がありました。
この制度では、不動産などの財産を一部取り戻すために、法的に共有状態を作り出すことが多く、手続きも複雑になりがちでした。

たとえば、不動産が兄の名義になっていた場合、弟が遺留分を主張すると、土地の持分が分割され、共有名義になるケースが多く発生していました。
その結果、売却や管理のたびに全員の同意が必要になり、かえって家族関係がこじれる原因になることも珍しくありませんでした。

こうしたトラブルを減らすため、2019年の民法改正で制度そのものが見直され、「遺留分侵害額請求」という新しい仕組みに変わりました。

「モノ」ではなく「お金」で解決する仕組みへ

新制度では、遺留分を侵害された人が権利を主張する場合、不動産や株式そのものを取り戻すのではなく、
👉 金銭によって補填を求めるという形に統一されました。

つまり、「財産を返せ」ではなく「遺留分に相当するお金を支払ってください」という請求になります。
この変更によって、不動産の共有や持分移転といった複雑な手続きを避けられるようになり、話し合いでの解決も進みやすくなりました。

改正の主なメリット

  • 相続登記が複雑になりにくい
  • 共有名義を避けられる
  • 請求内容がシンプルで明確
  • お金で解決できるため感情的な対立を抑えやすい

不動産の相続では大きなインパクト

市川市や首都圏の相続相談では、不動産が遺産の大半を占めるケースが多く、旧制度のように「土地を分ける」という発想は現実的ではありません。
たとえば、実家の土地・建物が兄に相続されたとしても、弟や妹には遺留分相当額を現金で支払うことで権利を行使できるようになりました。

これにより、実家の土地が細かく分割されて所有関係が複雑になるリスクを避けられ、相続登記の負担も軽減されるようになっています。

話し合いの“土台”ができた

金銭請求に一本化されたことで、請求する側もされる側も「何をどうすればいいのか」が分かりやすくなりました。
一方で、金額の算定や支払い方法、分割払いの可否など、細かな交渉は必要になる場合もあります。
この段階で揉めないためには、感情論ではなく数字と手続きの話に落とし込むことが重要です。

📝 改正民法のポイントは「モノの取り合い」から「お金による清算」へ。
争いをこじらせず、早期解決のきっかけをつくる仕組みに変わりました。

遺留分侵害額請求の流れと注意点——実際に権利を行使するには

請求には「期限」があることを知っておこう

遺留分侵害額請求には、明確な時効(請求期限)があります。
これは次の2つのいずれか早い時点で権利が消滅します👇

  • 相続の開始および侵害を知ったときから1年
  • 相続開始から10年(絶対的な期限)

💡 民法1048条に明確に規定されており、期限を過ぎると権利は消滅します。相続人同士の話し合いが長引くと、この期間を過ぎてしまい、権利を行使できなくなるケースも実務上珍しくありません

そのため、請求を検討する際は「時効の起算点」を早期に把握することが極めて重要です。

この1年という期間は非常に短く、相続人同士の話し合いや感情的なもつれで時間を浪費してしまうと、気づいたときには請求できなくなっていたということもありえます。
請求を検討するなら、まずは時効のカウントがいつ始まったのかを確認することが重要です。

内容証明郵便で「意思表示」を残す

遺留分侵害額請求は、必ずしも裁判所に申し立てなければいけないわけではなく、まずは相手に請求の意思を伝えることから始まります。
このとき活用されるのが「内容証明郵便」です。

内容証明を使うことで👇

  • いつ
  • どのような内容で
  • どこに請求したか

を公的に証明することができます。
これは、後々トラブルが長期化したときに強い証拠になるため、専門家に相談しながら早めに送付するのが望ましい対応です。

💡 遺留分侵害額請求は制度上「金銭請求」が基本ですが、当事者の合意によって現物での弁済も可能です。ただし、制度の趣旨は不動産の共有を避けることにあるため、実務上は現金払いが中心となっています。分割払いなど柔軟な合意がなされるケースもあります。

話し合い → 調停 → 訴訟のステップ

請求の流れは基本的に次のようになります👇

  1. 請求意思の通知(内容証明など)
  2. 当事者同士の話し合い
  3. 家庭裁判所での調停(まとまらない場合)
  4. 訴訟・強制執行(最終手段)

話し合いで合意できるケースもあれば、金額や支払い方法で折り合いがつかず、家庭裁判所に進むケースもあります。
実務上は「調停での解決」が多く、訴訟まで発展することは限定的です。

調停のポイント

  • 感情的な議論ではなく「数字」で話す
  • 財産評価の資料を早めに揃える
  • 記録・証拠を残すことを意識する

家族間だからこそ「証拠」を残す

遺留分のトラブルは、ほとんどが家族や親族のあいだで起きます。
そのため、口約束のまま話を進めてしまい、あとから「言った」「言わない」の水掛け論になるケースも少なくありません。
たとえ親族間であっても、メール・LINE・書面などで記録を残すことは非常に大切です。

また、請求を受けた側も「今後の支払い方法」などを合意書に残しておくことで、余計なトラブルを避けられます。

早めの専門家相談が“時間”を守る

遺留分侵害額請求は、時間との戦いです。
期限が迫っているのに話し合いが長引いてしまえば、それだけで権利を失うリスクが高まります。
内容証明の作成や金額の算定など、最初の一歩を踏み出す段階で専門家に相談することが、結果的に最短ルートになることも少なくありません。

📝 感情でこじれる前に、手続きを冷静に進める仕組みを整えること。
これが遺留分請求をスムーズに進める最大のコツです。

「争族」を防ぐために——生前からできる3つの備え

トラブルの多くは「亡くなってから」ではなく「準備不足」から

遺留分侵害額請求が行使されるケースの多くは、実は遺産の額や家族関係そのものよりも、生前に準備がされていなかったことが原因です。

「遺言さえあれば大丈夫」と考える方も少なくありませんが、実際には遺言の内容や形式に不備があったり、家族間で内容が共有されていなかったりして、結果として相続トラブルにつながることがあります。
こうした「争族」を防ぐには、相続が始まる前の段階でいかに備えるかが鍵となります。

公正証書遺言で「意思」を明確に残す

遺言書は、自分の財産をどう分けるかを意思表示するための最も基本的な手段です。
なかでも「公正証書遺言」は、

  • 法的に有効性が高い
  • 紛失や改ざんのリスクが少ない
  • 家族に内容をきちんと伝えやすい

といった点で非常に有効です。

遺留分とのバランスをとる

遺言で全財産を特定の相続人に渡すと、他の相続人の遺留分侵害となる可能性があります。
そのため、公正証書遺言を作成する際には、遺留分を踏まえたバランス設計をすることが重要です。
「全員に少しずつ分ける」だけが解決策ではなく、「金銭で補填する」方法をあらかじめ盛り込むことも可能です。

家族信託や成年後見制度の活用

相続トラブルは、財産そのものよりも「判断力が低下してからどうするか」の局面で起きやすくなります。
このとき有効なのが家族信託任意後見制度です。

  • 家族信託
    財産の管理・承継方法を柔軟に設計できる
  • 任意後見
    将来判断力が低下したときに備えて代理人を決めておける

これらを組み合わせることで、相続が始まる前から財産管理の「ルール」を明確にし、遺留分トラブルの芽を小さくできます。

よくある活用例

  • 夫婦二人暮らしで子がいない家庭
  • 障がいのある子を持つ家庭
  • 不動産が大半を占める家庭

市川市など首都圏では不動産比率が高いことから、「家族信託+遺言」で設計するケースも増えています。

早めの専門家相談で「予防策」を形にする

多くの人は、相続の話題を「縁起でもない」として後回しにしがちです。
しかし、備えが早ければ早いほど、選択肢は広がります。
遺言・家族信託・任意後見などの制度は、すべて判断力があるうちにしか実行できないものです。

💡 さらに、民法1049条には遺留分放棄制度が定められています。
これは、相続開始前に家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄する制度で、特定の相続人に財産を集中させたい場合将来のトラブルを未然に防ぎたい場合に有効です。
単なる口約束では効力がなく、必ず裁判所の許可が必要となります。

📝 相続の話は“問題が起きてから”ではなく、“起きる前”に始めるのが鉄則です。

専門家(行政書士・司法書士・弁護士など)に早めに相談しておくことで…

  • 遺留分を踏まえた遺言の作成
  • 家族間の合意形成のサポート
  • 相続登記など手続きの簡素化

などがスムーズに進み、結果的に家族全員が安心して将来を迎えることにつながります。

⚠️なお、すでに「紛争の兆候がある」または「紛争化している」場合、 弁護士のみ が対応可能です。

今日できる第一歩

  • 家族で相続と遺留分の話をする
  • 財産のリストアップを始める
  • 相談先の専門家を決める

たったこれだけでも、争いを未然に防ぐ大きな一歩になります。

🪧 遺留分侵害額請求を“争い”ではなく、“権利と仕組み”として冷静に扱える環境を整えること。
それが「争族」を避け、家族の関係を守る最良の対策です。