自筆証書遺言を法務局に保管すると何が変わりますか?

自筆証書遺言を法務局に保管すると何が変わりますか?

目次

「遺言は書いたけれど…」多くの人が抱える不安とは

書いた遺言書、ちゃんと見つけてもらえる?

「親が遺言を書いたと聞いていたけど、どこに置いたのか分からない」──相続の現場で、そんな声を耳にすることがあります。
自筆証書遺言は、自分の思いを自由に書けるという利点がある一方で、「その存在を誰も知らないまま亡くなってしまう」ケースも少なくありません。
いざ相続の手続きが始まってから発見されても、すでに他の相続人が財産を処分していた…ということも。

遺言書は「書くこと」よりも「確実に残すこと」が大切です。
せっかくの意思表示が埋もれてしまうのは、とてももったいないことです。

保管場所・改ざん・紛失のリスク

自筆証書遺言は、自宅の机や金庫に保管されることが多いですが、それには一定のリスクがあります。
たとえば、火災・水害などの災害で消失する可能性。
また、誰かが意図的に破棄したり、書き換えたりする恐れもあります。
家庭裁判所での「検認」という手続きを経ない限り、開封もできないため、手続きが遅れることも少なくありません。

こうしたトラブルは、相続人の誰かが「その遺言が本物かどうか」に疑問を持つときに起こります。
つまり、せっかく本人の意思で書いた遺言が、かえって家族の不信や争いを生む原因にもなってしまうのです。

家族の間で「知らなかった」と揉める現実

たとえば、親が長年の介護をしてくれた子に多めの財産を残そうとしていた場合。
そのことを他の兄弟姉妹が知らず、遺言書が見つかった瞬間に「そんな話は聞いていない」と感情的に対立することがあります。
これは珍しい話ではなく、むしろ相続相談の場でしばしば起きることです。

遺言書の存在を家族が知らないまま進むと、

  • 遺言が見つかるまでに時間がかかる
  • 遺産分割が長引く
  • 弁護士や家庭裁判所の関与が必要になる
    など、想定以上の手間と費用が発生することになります。

法務局での保管制度が注目される理由

こうした背景から、最近では「自筆証書遺言を法務局で預ける」という選択が増えています。
法務局が遺言書の原本を厳重に保管することで、紛失や改ざんを防ぎ、家族もその存在を公的に確認できるようになります。
つまり、本人の意思を守り、家族のトラブルを防ぐ“仕組み”が整ったのです。

次の章では、その「自筆証書遺言保管制度」がどのような仕組みなのか、実際の手続きとメリットを詳しく見ていきましょう。

自筆証書遺言の「法務局保管制度」とは?

2020年スタートの新しい仕組み

「法務局で遺言を預かってくれる制度がある」──そう聞くと、意外に思う方も多いかもしれません。
この制度は、2020年7月に始まった「自筆証書遺言書保管制度」と呼ばれるもの。
これまで自宅などで保管していた自筆の遺言書を、法務局(正式には「遺言書保管所」)に提出して、安全に保管してもらえる仕組みです。

制度の目的は、「遺言書の紛失・改ざん・発見遅れ」を防ぐこと。
本人の意思を確実に残すため、国(法務局)が中立的な立場で保管・管理を行う点が特徴です。
つまり、遺言を「書くだけ」で終わらせず、「確実に残す」ための公的サポートという位置づけです。

保管できる遺言の種類と手続きの流れ

この制度で預けられるのは、自筆証書遺言(本人が全文・日付・署名を自筆で書いたもの)です。
ただし、財産目録の部分だけはパソコンやワープロで作成しても構いません。

手続きの流れはシンプルで、次の3ステップ。

  1. 事前準備
     遺言書を完成させ、保管申請書を作成します。法務省のウェブサイトからダウンロードできます。
  2. 法務局へ本人が出向く
     代理人による申請は認められず、本人が直接窓口で申請します。
  3. 手数料(1通3900円)を納付し、保管証を受け取る

申請を受けた法務局では、封筒に入れずに遺言書の状態を確認し、スキャンデータとともに厳重に保管します。

手数料・必要書類・申請窓口(市川ならどこ?)

手数料は1通あたり3,900円(収入印紙で納付)。公正証書遺言と比べると、かなりリーズナブルです。
必要書類は、

  • 遺言書
  • 本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)
  • 保管申請書
    の3点。

市川市の場合、申請窓口は千葉地方法務局 市川支局(市川市大野)が最寄りです。
予約制となっており、事前に電話またはインターネットから日時を指定して来局します。

手続きのハードルを下げるために

実際に利用された方からは、「思ったより簡単だった」「法務局の職員が丁寧に案内してくれた」という声が多く聞かれます。
制度の存在を知っていても、「難しそう」「専門家に頼まないと無理そう」と感じている方が多いため、行政書士がサポートするケースも増えています。
特に、遺言書の文面そのものに誤りがあると、せっかく保管しても効力を失う可能性があるため、内容の確認は専門家に相談しておくと安心です。

法務局に預けると“何が変わる”のか

家族トラブルの予防につながる3つの変化

自筆証書遺言を法務局に預けることで、相続にまつわる不安が大きく減ります。
大きく分けると「検認が不要」「紛失・改ざんの防止」「家族が確実に確認できる」という3つの変化です。
いずれも、これまでの自宅保管では避けられなかったトラブルを防ぐ決定的なポイントになります。

たとえば、遺言の存在を知らなかった兄弟同士が口論になったり、どちらかが「書き換えられたのでは」と疑ったりするケース。
法務局で正式に保管されていれば、「いつ、どんな内容で預けられたか」がすべて記録されているため、争いの余地がほとんどありません。
“本人の意思を疑われない”という安心感こそ、この制度の最大の魅力です。

家庭裁判所の「検認」が不要になる

自宅で保管した自筆証書遺言を開封するには、原則として家庭裁判所での「検認」という手続きが必要です。
これは、遺言の偽造や改ざんを防ぐための確認作業で、相続人全員に通知されるなど、一定の時間と費用がかかります。

しかし、法務局に保管された遺言書については、この検認手続きが不要になります。
相続人は法務局で「保管証明書」を取得すれば、そのまま遺言の内容に基づいて手続きを進めることができます。
時間的にも心理的にも、大きな負担軽減につながるのです。

紛失・改ざんリスクの解消

法務局では、原本を専用の保管庫で厳重に管理し、さらにデジタルデータとしても保存します。
火災や災害による消失リスクがなく、誰かにこっそり破棄される心配もありません。
また、遺言書を預けた本人はいつでも閲覧や撤回ができ、内容を変更したい場合には新しい遺言を預けることも可能です。

こうした仕組みによって、遺言が「本人の死後に確実に残る」状態を、制度として担保できるようになりました。

家族がスムーズに内容を確認できる仕組み

遺言者が亡くなったあと、相続人は戸籍などを提出して法務局に「遺言書情報証明書」を請求できます。
この書面をもとに、銀行や不動産の相続手続きを進めることが可能です。
つまり、家族が「どこを探せばいいかわからない」という状況を避けられるのです。

家族にとっても、手続きのスタート地点が明確になるという点で、大きな安心材料になります。

“争族”を防ぐ、見えない効果

実際の相続相談では、「書いておけば安心」ではなく「見つけてもらえる・信じてもらえる」ことが重要です。
法務局での保管制度は、単なる書類預かりではなく、家族関係を守るための“仕組みの保険”といえます。
目に見えない安心が、将来のトラブル回避につながる──それが、この制度の真価です。

法務局保管制度の注意点と限界

公正証書遺言との違いを理解しよう

法務局の保管制度は確かに便利ですが、「公正証書遺言の代わり」ではありません。
両者の最大の違いは、法務局は内容をチェックしないという点です。
つまり、文面に法律的な誤りや不備があっても、そのまま受け付けられてしまいます。

一方、公正証書遺言は、公証人(法律の専門職)が内容を確認し、法的効力を担保したうえで作成するもの。
その分、費用はかかりますが、書き間違いなどによる無効リスクをほぼゼロにできます。
自筆証書遺言を法務局に預ける場合は、「保管=有効ではない」ことを理解しておくことが大切です。

代理申請できない(本人出頭が原則)

もう一つのポイントは、本人が法務局に出向く必要があるということです。
代理人による申請や郵送提出はできません。
これは「本人の意思による申請であること」を確認するためですが、高齢や体調不良などで外出が難しい方にとっては、少しハードルになる場合もあります。

ただし、法務局の職員がサポートしてくれるため、予約時に事情を伝えておけば安心です。
また、事前に行政書士が内容をチェックし、書類を整えておくことで、当日の手続き時間を短縮することもできます。

内容確認や訂正には制限がある

法務局は「保管」を目的としているため、預かった遺言書の内容を職員が読むことはありません。
そのため、法的に有効かどうかの判断や助言は一切行われません。
また、いったん預けた遺言書の訂正はできず、変更したい場合は「撤回申請」を行い、新しい遺言書を預け直す必要があります。

「書き直すのが面倒だから、一部を修正して提出し直したい」という希望は通りません。
内容の見直しを検討するときは、専門家と一緒に再作成するほうが確実です。

「家庭裁判所で争いが起きない」とは限らない

法務局に預けたからといって、相続争いが必ず防げるわけではありません。
遺言の内容が極端だったり、相続人の間に感情的なしこりがある場合には、結局トラブルに発展することもあります。
制度は「形式的な安全」を保証するものであり、「人の感情」まではカバーできません。

そのため、法務局保管制度は“トラブルを減らす第一歩”であって、最終的な解決策ではないと考えるのが現実的です。
家族と話し合い、意向を共有することも、同じくらい大切です。

自分に合った方法を選ぶために

制度の特徴を整理すると、

  • コストを抑えて自筆で書きたい人
  • 自宅保管に不安を感じる人
    には特に向いています。
    一方で、内容の確実性や法的な安心感を重視する人は、公正証書遺言を選ぶほうが無難です。

次の章では、こうした制度を上手に組み合わせながら、トラブルを防ぐための「3つの生前対策」を紹介します。

トラブルを防ぐための「3つの生前対策」

家族と話し合いながら決める「遺言+見守り契約」

遺言を法務局に預けたことで「ひと安心」と感じる方も多いでしょう。
しかし、本当の安心は“家族が内容を理解していること”から生まれます。
せっかく正しく書いた遺言も、家族が知らないままだと「なぜこの内容に?」と疑問や不信が残り、争いの火種になってしまうこともあります。

そこで有効なのが、遺言と併せて「見守り契約」や「任意代理契約」を結ぶ方法です。
たとえば行政書士と見守り契約を結ぶことで、定期的に安否確認や生活状況の報告を受けられ、遺言や後見契約への移行もスムーズに進められます。
「書いて終わり」ではなく、「つないでいく」仕組みを整えることで、家族にとっても心の支えになります。

判断能力が心配なら「任意後見契約」も検討

認知症などで判断力が低下すると、預金の引き出しや契約更新などの手続きが難しくなります。
このとき、本人が元気なうちに「任意後見契約」を結んでおけば、将来、信頼できる人が代理で手続きできるようになります。

任意後見契約は、本人が指定した「任意後見人」が、家庭裁判所の監督のもとで財産や生活支援を行う制度。
法務局に預けた遺言書とセットで準備しておくと、生前から死後までの流れが一貫して守られるというメリットがあります。
「まだ元気だから後見なんて早い」と思う方ほど、今のうちに検討しておくことが将来の安心につながります。

財産管理を柔軟にする「家族信託」という選択肢

さらに、近年注目されているのが家族信託です。
これは、財産を信頼できる家族(受託者)に託して管理・運用してもらう仕組み。
たとえば「将来自分が判断できなくなっても、子どもが代わりに不動産を売却・管理できるようにしておきたい」といったケースに有効です。

家族信託は、遺言や後見と違い、契約内容次第で「生前も死後も」柔軟に対応できる点が特徴です。
たとえば、障がいを持つ子の生活資金を長期的に確保したり、二次相続(配偶者の死後)まで見通した設計も可能です。
つまり、“家族で話し合いながら続ける財産管理”として、相続トラブルを根本から防ぐ力を持っています。

「書く」だけでなく「伝える」準備を

遺言や契約書は、いずれも“紙の上の約束”にすぎません。
それを生かすのは、本人の思いと家族の理解です。
法務局での保管制度をきっかけに、

  • 自分の財産をどう託したいか
  • 誰に何を伝えておきたいか
  • 判断力が落ちたとき、どう守ってもらいたいか
    を話し合うことが、最大の「争族回避」になります。

行政書士が伴走できること

行政書士は、こうした制度を組み合わせながら、「遺言+任意後見+家族信託」など、個々の事情に合わせた仕組みづくりをサポートできます。
書類を作るだけでなく、家族間の意向整理や、信頼できる第三者としての関与も可能です。

相続や老後の備えは、“まだ先の話”ではなく、“今こそ準備できること”。
市川市や近隣でご相談を希望される方は、どうぞ気軽に専門家へご相談ください。