目次
遺言の準備は「まだ早い」と思っていませんか?
「遺言なんて、まだまだ先の話」と思っている方は少なくありません。
しかし実際の相続の現場では、遺言がないことで家族が思わぬトラブルに巻き込まれることが多くあります。
たとえば兄弟姉妹で遺産分割の意見が食い違い、話し合いが長引いて関係が悪化してしまうケース。最悪の場合、家庭裁判所に持ち込まれる「争族」へと発展することも珍しくありません。
遺言は決して「資産家だけの特別なもの」ではありません。
むしろ、持ち家や預貯金など一般的な財産をお持ちの方こそ、元気なうちに準備しておくことで相続の混乱を防げます。
さらに、最近は「親の判断能力が心配」「認知症が始まったらどうしよう」といった声もよく聞かれます。もし意思表示ができなくなってしまえば、遺言は作れません。その結果、成年後見制度を利用せざるを得ず、自由度の低い管理や手続きに縛られてしまうこともあります。
つまり遺言の準備は「まだ早い」のではなく、「元気な今だからこそできる大切な生前対策」なのです。
公正証書遺言と自筆証書遺言、どう違うの?
遺言の大切さは分かったけれど、「実際に書くとしたら、どんな方法があるの?」と疑問に思う方も多いはず。代表的なのは 自筆証書遺言 と 公正証書遺言 の2つです。それぞれの特徴を整理してみましょう。
自筆証書遺言の特徴
自筆証書遺言は、文字どおり自分で紙とペンを用意して書く方法です。手軽で費用もほとんどかからないのが魅力です。
最近は法務局で保管してもらえる制度もでき、昔よりは安心感が増しました。
ただし注意点もあります。
書き方に決まりがあるため、日付の書き方一つで無効になることも。さらに家庭裁判所で「検認」という手続きを経ないと使えないため、相続人の手間が増えることがあります。
※法務局で保管した自筆証書遺言については検認が不要。内容の不備や曖昧な表現は避けられないため、公正証書遺言に比べるとトラブル防止効果は劣る
公正証書遺言の特徴
一方、公正証書遺言は公証人という専門家に作成してもらう遺言です。
公証役場で手続きを行い、原本も役場で保管してくれるので、紛失や改ざんの心配がありません。
メリットはなんといっても「確実に効力を発揮する」という安心感です。家庭裁判所での検認も不要なので、相続人がスムーズに遺産分割や相続登記を進められます。
その分、証人を2人立てる必要があったり、手数料が数万円単位でかかったりと、手間と費用は自筆証書より多くかかります。
どちらも一長一短がありますが、共通して言えるのは「家族が困らないようにするために、どちらを選ぶか考えること」が大切だということです。
家族が困らない遺言を残すためのチェックポイント
遺言は「書けば終わり」ではありません。大事なのは、残された家族が安心して相続の手続きを進められるかどうか。ここでは、実際に遺言を作る際に押さえておきたいポイントを整理します。
1. 相続人が納得できる内容かどうか
遺言は本人の意思を尊重するものですが、あまりに片寄った内容だと「どうして自分だけ少ないのか」と不満が出て、結果的に争いの火種になります。遺留分という法律上の権利もあるため、バランスを意識することが大切です。
2. 財産の分け方が具体的に書かれているか
「預金は長男に」だけでは足りません。銀行名や口座番号、不動産なら所在地・地番など、特定できるように書くことが必要です。曖昧な書き方は、相続登記や遺産分割協議で必ずつまずきます。
3. 他の制度との組み合わせも検討する
もし認知症が進んだ場合には、成年後見制度を利用することもあります。また、不動産や事業用資産を柔軟に承継したいなら家族信託が有効なケースも。
遺言だけでなく、こうした制度を組み合わせることで「より安心できる生前対策」につながります。
この3つを意識しておけば、遺産分割がスムーズに進み、家族が困るリスクを大幅に減らせます。
公正証書遺言を選ぶべき3つのケース
遺言には自筆証書と公正証書がありますが、「どちらにしようか迷っている」という方も多いと思います。そんなときに目安になるのが、次の3つのケースです。
1. 認知症のリスクが高まってきたとき
遺言は本人の判断能力がしっかりしているときにしか作れません。
もし「最近物忘れが増えてきた」「将来的に判断能力が心配」という状況なら、公証人が関与して作成する公正証書遺言がおすすめです。作成時に本人の意思確認を丁寧に行ってくれるため、後々「無効では?」と争われにくくなります。
2. 不動産や預貯金など財産が複数に分かれるとき
家や土地、複数の銀行口座、投資信託など財産の種類が多い場合、自筆証書では書き漏らしや曖昧な記載が起きがちです。
公正証書遺言なら専門家が内容を確認してくれるので、特定が不十分なまま残してしまうリスクを防げます。
3. 相続人同士の関係があまり良くないとき
「兄弟が昔から折り合いが悪い」「配偶者と子どもの関係がぎくしゃくしている」など、相続がもとで争族になりそうな雰囲気があるなら、公正証書遺言のほうが安心です。検認手続きも不要で、内容が明確に残るため、揉める余地を減らせます。
このように、費用や手間はかかっても「公正証書遺言を選んだ方が家族にとってメリットが大きい」ケースは確かにあります。
迷ったら早めの相談が一番の対策
ここまで、公正証書遺言と自筆証書遺言の違いや、それぞれの特徴を見てきました。
- 自筆証書遺言は「手軽で安く始められる」けれど、方式の不備や検認手続きがネックになることがある
- 公正証書遺言は「確実で安心」だけれど、費用や手間がかかる
- どちらを選ぶかは、ご自身やご家族の状況次第
大切なのは「遺言を残しておくことで家族が安心できるかどうか」です。
書いたつもりでも無効になってしまえば意味がありませんし、遺産分割や相続登記で家族を余計に困らせてしまうかもしれません。
もし迷っているなら、まずは専門家に相談するのが一番の近道です。
行政書士や司法書士、公証人など、それぞれの立場からアドバイスを受けることで、あなたの家族に合った最適な方法が見えてきます。
「まだ早い」と思う今こそ、行動のタイミング。
小さな一歩が、将来の大きな安心につながります。