目次
デジタル遺品が「新しい相続トラブル」の火種に
スマホやネット銀行が“遺産”になる時代
昔は、遺産といえば通帳や不動産の権利書など「目に見える財産」が中心でした。
しかし今では、スマホやパソコンの中にも財産が眠っている時代です。
ネット銀行、ネット証券、暗号資産、電子マネー、サブスクの支払い情報など、さまざまな資産が「デジタル遺品」として残ります。
たとえば、市川市内でも「亡くなった親のスマホにロックがかかっていて、中身が確認できず、ネット銀行の残高がわからない」という相談が増えています。紙の通帳がないケースも多く、相続人が口座の存在すら気づかないまま、資産が放置されることもあるのです。
見落とされがちなサブスク・クラウド・ポイント
デジタル遺品と聞くと「ネット銀行」や「暗号資産」を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、実際にはそれだけではありません。
見落としやすいものの例
- ネットショッピングのアカウント(Amazon・楽天など)
- クラウドストレージ(Google Drive・iCloudなど)
- 各種サブスク(動画・音楽・アプリ課金)
- ポイント・マイル・電子マネー残高
これらの多くは本人以外がアクセスできず、IDやパスワードが不明なまま放置されると「存在しなかった財産」になってしまうことがあります。
家族が知らなかった“財産”が争いのもとに
家族が知らない資産があとから見つかると、相続人同士の信頼関係にヒビが入ることがあります。
「誰かが隠していたのではないか」「もっと資産があるのではないか」という疑念が、相続トラブルの引き金になることも珍しくありません。
たとえば…
- ネット証券口座があとから判明し、遺産分割協議がやり直しになる
- 家族の誰もパスワードを知らず、相続登記が進められない
- 電子マネーやポイントが失効してしまう
こうした問題は、財産額が少額でも感情面の衝突を招きやすいのが特徴です。
また、相続税の申告や遺産分割の手続きに影響するケースもあるため、早めの備えが必要です。
これからの相続では「見える財産」と「見えない財産」の両方が重要
かつての相続では、目に見える資産の把握さえできれば手続きが進められました。
しかし今では、「見えない財産(デジタル遺品)」を見逃すことが、新しいトラブルの火種となっています。
市川市のように高齢化が進み、スマホ・ネットバンキングを使うシニア層が増える地域では、この問題は決して遠い話ではありません。
次章では、実際に相談現場で起きている典型的なトラブルを3つのケースに分けて紹介していきます。
なぜトラブルになるのか ― 現場で起きている3つの典型例
アクセスできないことで「相続が止まる」ケースが続出
デジタル遺品の厄介な点は、存在がわかっていてもアクセスできないと相続手続きが進まないことです。
たとえば「スマホロックを解除できない」「クラウドの中身が不明」「ネット銀行のIDやパスワードがわからない」といった状況が、実際の相続の現場で頻発しています。
相続財産の全容が見えないと、遺産分割協議も相続登記も先に進められず、時間もコストも余分にかかることになります。
ここでは、行政書士や司法書士の現場で実際に増えている典型的な3つのパターンを紹介します。
スマホロックが解除できず、重要情報が取り出せない
口座・証券・メール…すべて“中”にある
スマホには、ネット銀行や証券口座、クレジットカード明細、メール、ID管理アプリなど、相続に必要な情報が集中しています。
しかし、ロック解除ができないと何一つ確認できません。
- 「生前にIDやパスワードを聞いていなかった」
- 「指紋認証や顔認証が設定されていて家族が開けない」
- 「キャリアショップに行っても契約者本人でなければ情報が出せない」
といった理由で、財産の特定すらできないまま相続が長期化するケースもあります。
ロック解除の法的なハードル
スマホやPCの情報は「個人情報」として守られています。
たとえ家族でも、本人の同意がなければ携帯会社・金融機関は情報を開示できません。
この法的な壁が、実務の大きなボトルネックとなっているのです。
クラウド上の資産が“所在不明”のまま放置される
紙の証拠がないと誰も気づかない
ネット証券や暗号資産など、近年は「通帳も証券も紙がない」というケースが増えています。
この場合、クラウド上のデータやオンライン口座にアクセスできなければ、存在そのものが発見されないままになります。
- 通帳がないため、金融機関に問い合わせるきっかけがない
- 証券口座がネット専用で、郵便物も届かない
- 家族がサービス名すら知らない
このような場合、遺産にカウントされないまま放置され、結果的に失効・処分されてしまう可能性があります。
SNS・メール・電子マネー情報が消える
デジタル遺品は「時間との勝負」
スマホやクラウド上の情報は、放置しておくと自動削除されたり、契約終了によって消失することもあります。
たとえば、ポイント残高やサブスクの契約情報は、相続開始から時間が経つほど確認が難しくなります。
- メールアカウントが削除され、重要な通知が見られない
- SNSのDMに大切な契約書があった
- 電子マネーの残高が失効してしまった
こうした問題は金額の大小に関係なく、家族間の感情的な対立を生む火種になることが多いのです。
トラブルの背景には「生前対策の空白」がある
これらのトラブルは、ほとんどが「事前に情報を共有していなかった」ことが原因です。
紙の通帳や実印と違い、デジタル情報は“家族でさえ触れない”という特性があります。
つまり、亡くなる前に何らかの形で情報を整理・共有しておかなければ、手遅れになりやすいのです。
次章では、このようなデジタル遺品をめぐるトラブルを未然に防ぐために、遺言・成年後見・家族信託といった法的な仕組みをどう活用できるかを解説していきます。
相続・遺言・成年後見制度でデジタル遺品に備える
「パスワードを残すだけ」では足りない理由
デジタル遺品の対策というと、「パスワードをメモしておく」ことをイメージする方が多いでしょう。
もちろん、それも有効な一歩です。
ですが、それだけでは実際の相続手続きはスムーズに進まないのが現実です。
なぜなら、デジタル遺品は金融資産・契約情報・個人情報と密接に結びついているため、相続や開示に法的な裏付けが必要になるケースが多いからです。
ここでは、遺言・成年後見・家族信託といった制度をどう活用すればよいかを、やさしく解説します。
遺言書で「管理方針」を残しておく
財産の種類と所在を“家族が探せる状態”にする
遺言書は、法的に財産の分け方を明確にできる有力なツールです。
しかし近年では、「財産の場所そのものがわからない」という問題が増えています。
デジタル遺品もその一つです。
そのため、財産の分け方だけでなく、
- どのサービスを使っているか
- どこにアカウント情報を保管しているか
- 誰に管理を託すか
といった「デジタル資産の所在・管理方針」を遺言書の付言事項などで残しておくことが有効です。
実印・通帳と違い、形がない資産だからこそ
紙の通帳や証券と違い、デジタル資産は存在を知らせない限り誰にも気づかれません。
“財産の所在”そのものを明確にすることが、最初の備えになります。
成年後見制度で判断能力の低下に備える
生前に“誰が管理するか”を決めておく
認知症や事故などで本人の判断能力が低下したとき、スマホやネット銀行の資産は一気に「家族が触れない状態」になります。
このとき役立つのが、任意後見制度です。
本人が元気なうちに「この人に管理を託す」という契約をしておけば、
判断能力が低下した段階で後見人が正式に資産を管理できます。
- デジタル口座やID管理の引き継ぎがスムーズ
- 介護費や生活費の支払いも滞らない
- 口座凍結やアクセス不能による混乱を防げる
法的効力がある“仕組み”を活かす
後見制度を活用すれば、キャリアショップや金融機関などでも正式な代理人として情報開示・手続きが可能になります。
これは家族の「覚書」や「メモ」では代替できないポイントです。
家族信託で柔軟な管理を実現
財産の移動や管理を“契約ベース”で決められる
遺言や成年後見に加え、家族信託も注目されています。
これは、財産の管理・運用・承継方法を「契約」で決める制度です。
信頼できる家族を受託者にしておけば、生前の管理から死後の引き継ぎまで、柔軟に対応できます。
たとえば、
- 信託財産にネット銀行口座を含める
- 生前から受託者(子どもなど)が管理・確認できるようにする
- 相続開始後の煩雑な手続きを最小限にする
といった仕組みが可能になります。
相続と生前対策の“橋渡し”として有効
家族信託は「遺言のように死後の承継を定めつつ、生前から管理できる」という大きな特徴があります。
デジタル遺品のように「放置されるとアクセス不能になる資産」と相性がよい制度といえます。
制度を組み合わせて「トラブル予防線」を張る
遺言・成年後見・家族信託は、それぞれ得意分野が異なります。
1つだけに頼るよりも、組み合わせて準備することでリスクを大きく減らすことができます。
- 遺言で「資産の所在と意思」を残す
- 後見で「判断能力低下」に備える
- 家族信託で「柔軟な管理」を実現する
次章では、こうした制度を活用する前に、家庭で今すぐできる「3つの準備」を紹介します。
専門家に頼る前に家族で話し合うことこそが、もっとも重要な一歩です。
家族で話しておきたい「3つの準備」
専門家の前に“家庭でできること”を整える
遺言や成年後見、家族信託といった制度を活用する前に、もっとも重要なのが家族内での情報共有と整理です。
特にデジタル遺品は、本人以外がアクセスできないため、「元気なうちに準備しておく」ことが何よりの予防策になります。
制度を整えるのはそのあとでも十分間に合うケースが多いのです。
ここでは、すぐに実践できる3つの準備について、具体的なポイントを紹介します。
1. 重要なアカウントを一覧化しておく
「何を持っているのか」がわかるだけで大きく違う
まずやるべきは、財産や契約情報の“見える化”です。
紙の通帳と違い、デジタル資産は家族が気づかなければ存在しないのと同じ。
一覧表をつくっておくだけでも、相続の混乱を防ぐ効果は絶大です。
一覧表に含めたい主な項目
- ネット銀行・ネット証券・電子マネー
- サブスク・クラウド・ポイントサービス
- SNS・メールアドレス・ID管理アプリ
- パソコン・スマホ・タブレットなどの主要端末
紙でもデジタルでもかまいません。
家族が“どこを探せばいいか”を把握できる状態にしておくことがポイントです。
2. 家族間で「情報の置き場」を決めておく
紙切れ1枚より“共有ルール”が大事
一覧表をつくっても、それを家族が見られなければ意味がありません。
重要なのは、「情報をどこに保管し、誰がアクセスできるのか」を明確にしておくことです。
おすすめの情報管理の例
- 封筒に一覧表を入れて金庫や引き出しに保管
- USBやパスワード管理アプリを活用してデジタル保管
- 信頼できる家族1人に“開示権限”を渡しておく
特にスマホやPCはロック解除できなければ何も始まりません。
「この端末のパスコードはここにある」「この封筒を開ければすべて分かる」という明確な導線をつくることが、後の大きな安心につながります。
3. 遺言・信託・後見の準備を早めに進める
元気なうちに話しておくことが最大の財産
一覧化と保管ルールができたら、次は法的な備えを検討します。
特にデジタル遺品は、本人が亡くなった後に家族が自由に扱えるとは限りません。
- 遺言書で「資産の所在と意向」を明示
- 任意後見契約で「判断能力低下」に備える
- 家族信託で「柔軟な引き継ぎ」を可能にする
こうした制度は、家族が“いざというとき”に動きやすくするための下支えです。
「話しづらい話題」だからこそ早めに
相続や老後の話は後回しにされがちですが、元気なうちに話しておくことで、家族の心理的負担は大きく減ります。
「遺言を書くかどうか」よりも、「どんな資産があるのか」「どうしてほしいのか」を話しておくことが、もっとも効果的な対策です。
小さな準備でも“争い”を防げる
デジタル遺品に限らず、相続トラブルの多くは「知らなかった」「聞いていなかった」という情報不足から起こります。
一覧化・置き場の共有・法的な備え、この3つの準備を進めるだけでも、トラブルの芽は大きく減らせます。
次章では、ここまでの内容を整理しながら、「見えない財産」に対してどのような姿勢で向き合えばいいのかをまとめていきます。
「見えない財産」こそ早めの対策を
紙の財産だけでは、もう相続は進まない
昔は、相続といえば「預金通帳・実印・不動産の権利書」を探せば財産の全体像が見えてきました。
しかし、今ではそうはいきません。
スマホ、ネット銀行、暗号資産、クラウドストレージ…。
こうした“目に見えない財産”=デジタル遺品が増え続けていることで、相続の現場は大きく変化しています。
「存在がわからない」「アクセスできない」だけで、相続手続きはストップし、家族関係にも余計な緊張が生まれます。
この新しいリスクに備えるには、早めに整理し、共有しておくことが何よりのカギになります。
家族の対話と法的備えで“争族”を防ぐ
「財産を残す」から「情報をつなぐ」へ
デジタル遺品の本質的なリスクは、「財産が消えること」よりも「情報が断絶すること」にあります。
誰も知らなければ、財産が存在しないのと同じです。
だからこそ、相続対策の主軸は「財産を残す」から「情報をつなぐ」へとシフトしていく必要があります。
家族で話すことが最大の対策
- どこに何があるのか
- どうしてほしいのか
- 誰に託したいのか
こうした基本的なことを共有するだけでも、トラブルの可能性は大きく減ります。
家族の会話は、制度や契約に勝る“最初の備え”です。
行政書士への早期相談でリスクを減らす
自分たちだけで抱え込まない
「デジタル遺品なんて、自分たちには関係ない」と思っていても、いざ相続が発生すると、スマホやネット銀行の壁にぶつかるご家族は少なくありません。
市川市のように高齢化が進む地域では、この課題はこれからさらに身近なものになっていきます。
早めに行政書士など専門家に相談しておけば、
- どこから手をつければいいか
- どの制度を活用するべきか
- 何を残しておくと家族が困らないか
を整理でき、トラブルを最小限に抑えることができます。
元気なうちが“最後のチャンス”になることも
認知症や事故で判断能力がなくなってしまうと、家族であっても財産にアクセスできない場合があります。
“備えられるのは、元気な今だけ”という視点も、対策の大切なポイントです。
相続は「準備の有無」で差が出る
デジタル遺品をめぐるトラブルは、金額の大小とは関係ありません。
1万円の電子マネーでも、見つからなければ消えてしまいますし、情報の断絶が疑心や不信を生むこともあります。
- アカウント情報の整理
- 家族との共有
- 法的制度の活用
この3つを早めに進めておくだけで、相続時の混乱や感情的な衝突は大幅に防げます。
「目に見えない財産」こそ、早めの対策が未来の安心につながるのです。
相続は「誰かが困らないための優しさ」
相続の準備は、自分のためでもありますが、それ以上に“家族が困らないための優しさ”です。
特にデジタル遺品は、後から整理しようと思っても手遅れになるケースが少なくありません。
スマホやネット銀行を使っている方なら、誰にでも起こりうる身近なリスクです。
「自分の財産をきちんとつなぐ」という視点を持ち、できることから少しずつ備えていきましょう。

