目次
「親が認知症かも?」と思ったときに知っておきたい法定後見制度
判断力の低下で起こりやすい家族の困りごと
「最近、母が銀行の手続きでサインを間違えるようになってきた」「父が訪問販売で高額な契約をしてしまった」――そんな不安を感じたことはありませんか。
認知症や病気で判断力が衰えると、家族であっても銀行の手続きや不動産の名義変更などができなくなります。本人の意思を確認できない状態では、法律上の行為を有効に進められないためです。
このようなときに、本人を守るための制度が「成年後見制度」です。
その中でも、すでに判断能力が低下している方を対象に、家庭裁判所が後見人を選任して支援する仕組みを「法定後見制度」と呼びます。
つまり、家族が「もう一人では手続きが難しい」と感じたときに利用できる制度です。
任意後見との違いをやさしく整理
後見制度には「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。
違いを一言でいうと、「困ってから使う」か「困る前に準備する」かです。
- 法定後見
すでに判断能力が低下している人を対象に、家庭裁判所が後見人を選任する制度です。家族が申し立てを行い、裁判所が内容を審査して支援体制を整えます。 - 任意後見
本人がまだしっかり判断できるうちに「将来、判断力が落ちたらこの人に任せたい」と契約しておく制度です。こちらは公正証書を使って事前に備えるタイプです。
もし今の段階で「判断力がもう落ちている」「銀行や役所の手続きが進まない」という状況なら、法定後見の対象になります。
一方で「まだ自分で判断できるけど、将来が心配」という場合は、任意後見を検討するタイミングです。
家族が知っておきたいポイント
法定後見制度は、本人の財産や生活を守るために大切な仕組みですが、制度そのものはやや複雑です。
家庭裁判所を通すため、申立てには診断書や戸籍など多くの書類が必要になります。
「制度のことを知りたい」「準備段階で何をすればいいか整理したい」という段階では、行政書士が制度全体の説明や他の制度との比較をお手伝いできます。
たとえば、任意後見や家族信託、見守り契約など、本人の状態に合わせてどの制度が向いているかを一緒に考えることができます。
焦らず、まずは「今の状況を整理するところ」から始めてみましょう。
市川市で申し立てる場合の流れと管轄先
どこに申し立てるの?
法定後見制度を利用するには、家庭裁判所に「後見開始の申し立て」を行う必要があります。
市川市にお住まいの方の場合は、千葉家庭裁判所 市川出張所が管轄です。
場所は市川市民にとって馴染み深い、ニッケコルトンプラザのすぐ隣。JR本八幡駅や下総中山駅からほど近く、京成線鬼越駅からもアクセスしやすい立地にあります。
申し立てを行えるのは、本人の配偶者や子ども、兄弟姉妹などの親族が中心です。
また、親族がいない場合や家庭内で対応が難しい場合は、市川市の地域包括支援センターや市役所高齢者支援課が申立人となるケースもあります。
このように、家族だけで抱えきれない状況になっても、行政の支援を受けながら進めることができます。
手続きの全体像をつかもう
法定後見の申し立ては、書類を提出して終わりではありません。
家庭裁判所での審理や調査など、いくつかのステップを経て後見人が選ばれます。
ここでは、おおまかな流れを整理してみましょう。
- 制度の検討と相談
まずは「どの制度が適しているか」を整理します。行政書士などが制度説明や必要書類の準備方法を案内できます。 - 診断書の取得
本人の判断能力を確認するため、成年後見用の診断書を医師に作成してもらいます。
ここでは、家庭裁判所指定の様式を使います。 - 申立書類の作成・提出
後見開始申立書、戸籍、財産目録などを整え、家庭裁判所に提出します。
※この書類の作成・提出は、司法書士または弁護士の業務範囲です。 - 家庭裁判所による調査・面談
裁判所の調査官が本人や家族に面談を行い、支援が必要かどうかを確認します。 - 後見人の選任と通知
家庭裁判所が後見人を選任し、登記が行われます。
選ばれた後見人は、以後、財産管理や契約支援を行うことになります。
この一連の流れには、平均して2~3か月ほどかかることが多いです。
医師のスケジュールや書類の準備状況によっては、さらに時間がかかることもあります。
行政書士が支援できる範囲
行政書士は、法定後見の申立書そのものを作成・提出することはできません。
ただし、家族が混乱しがちな「どの制度を使うのか」「どんな書類を集めればいいのか」「誰に相談すればいいのか」といった事前整理や情報提供は可能です。
たとえば、
- 「任意後見や家族信託とどちらが合うのか」
- 「診断書をお願いする際に医師へ伝えるポイント」
- 「地域包括支援センターや専門職との連携方法」
など、制度を“使う前”の段階でのサポートが中心です。
家庭裁判所への正式な申し立てを進める段階では、司法書士や弁護士に依頼するのが原則です。
行政書士がその前段階を丁寧に整理することで、家族が安心して次のステップに進めるようになります。
市川市での相談窓口も活用を
市川市には、後見制度に関する相談ができる公的窓口もあります。
たとえば、
- 市川市 高齢者サポートセンター(高齢者や家族の総合相談窓口)
- 市川市 福祉部 地域包括支援課(制度全体の案内)
- 千葉家庭裁判所 市川出張所(申立ての管轄)
などが挙げられます。
まずはこうした窓口や専門家に早めに相談することで、書類の準備や制度選択の負担を減らすことができます。
法定後見の3つの種類と選び方
「後見・保佐・補助」ってどう違うの?
一口に「法定後見」といっても、実は状況に応じて3つのタイプがあります。
それが「後見」「保佐」「補助」です。
いずれも家庭裁判所が決める制度で、本人の判断力の程度に応じて支援の範囲が変わる、というのが基本的な考え方です。
たとえば、
- 日常会話も難しいほど判断力が低下している場合は「後見」
- 一部の判断が難しい程度であれば「保佐」
- ほぼ自立しているが一部支援が必要なときは「補助」
といったように分かれます。
つまり、本人の状態を「すべて任せるのか」「必要なときだけ助けてもらうのか」で調整できる仕組みです。
3類型の概要を表で整理
| 類型 | 判断能力の目安 | 主な対象 | 裁判所が認める支援内容 |
|---|---|---|---|
| 後見 | ほとんど失われている | 認知症の進行が進んだ方など | 財産管理・契約・生活全般の代理 |
| 保佐 | 判断が著しく不十分 | 精神疾患・知的障害など | 重要な契約の同意や代行支援 |
| 補助 | ほぼ判断できるが一部支援が必要 | 初期認知症・身体障害など | 特定の契約や手続きの支援 |
「どの類型がよいか」を決めるのは家庭裁判所です。
医師の診断書や面談結果などをもとに、本人にとって負担の少ない支援内容が選ばれます。
家族が「どれを申し立てたいか」を決めるのではなく、「本人にどんな支援が必要か」を整理して伝えるのが大切なポイントです。
選び方の目安と注意点
家族の立場から見て「どの制度を使えばいいか」は分かりにくいものです。
たとえば、本人が軽度の認知症でも、資産が多く管理が複雑な場合には「保佐」や「後見」と判断されることもあります。
逆に、本人がしっかりしている場面が多い場合は「補助」で十分とされるケースもあります。
重要なのは、「判断能力の有無」だけでなく、支援が必要な場面の種類と頻度です。
お金の管理だけなのか、生活全般なのか。
この点を整理しておくと、家庭裁判所とのやり取りがスムーズになります。
行政書士ができるサポート
行政書士は、どの類型を申し立てるかを最終的に決める立場ではありません。
ただし、家族が混乱しがちな制度の違いをわかりやすく整理し、
「本人の生活状況や財産の管理状況をどのようにまとめるか」
といった情報整理のサポートを行うことができます。
また、本人の判断力がまだ残っている場合には、将来に備える「任意後見契約」や「家族信託」、「見守り契約」など、より柔軟な制度の提案も可能です。
行政書士が関わることで、制度を選ぶ前の段階から整理を進めやすくなります。
家庭裁判所が重視する視点
裁判所は「本人の意思」を最も尊重します。
たとえ判断力が低下していても、本人の希望がまったく無視されることはありません。
どんな生活を望んでいるのか、誰を信頼しているのか――そうした小さな意向が、最終的な判断にも影響します。
家族としては、「守ってあげたい」という気持ちだけで手続きを進めるのではなく、
本人の意向をどう反映させるかを意識しておくことが何より大切です。
申し立て準備で確認すべき書類と費用の目安
まずは「何をそろえるか」を整理しよう
法定後見の申し立ては、思っている以上に書類が多く、最初に全体像をつかむことが大切です。
家庭裁判所に提出する正式な書類の作成・提出は司法書士または弁護士の業務ですが、家族として準備しておく資料を早めに整理しておくと、手続きがぐっとスムーズになります。
行政書士がサポートできるのは、この「事前整理」の部分です。
たとえば、どんな書類を揃える必要があるのか、どの役所で取得するのか、どのような情報をまとめておくと司法書士に依頼しやすいか――といった準備の段階で力になれます。
必要となる主な書類の一覧
以下は、千葉家庭裁判所市川出張所での一般的な提出書類の例です。
実際の運用は時期や個別事情によって異なるため、最新の情報は家庭裁判所で確認してください。
- 後見開始申立書(家庭裁判所の定める様式)
- 本人および申立人の戸籍謄本・住民票
- 診断書(成年後見用)
※医師が家庭裁判所指定の様式で作成します。 - 財産目録・収支予定表
※預金、不動産、年金、保険などを一覧にまとめる資料。 - 親族関係図(家族構成を示すもの)
- 本人の生活状況に関する資料
例:介護保険証、ケアプラン、施設の入所証明書など
これらの書類は一気に集めると大変です。
たとえば、戸籍謄本は本籍地の役所でしか取れませんし、診断書は医療機関によって発行までに時間がかかることもあります。
そこで、行政書士が「どこで・何を・いつ取るべきか」を整理するサポートを行うことで、家族の負担を減らすことができます。
費用の目安を知っておこう
法定後見の申立てにかかる費用は、裁判所に納める実費と、医師・専門職への報酬などに分かれます。
あくまで一般的な目安ですが、以下のような構成になります。
- 収入印紙代
800円前後 - 郵便切手代
2,000〜3,000円程度(裁判所で金額指定あり) - 診断書料
5,000〜10,000円程度(医療機関による) - 鑑定費用
必要と判断された場合、5〜10万円程度
合計すると、おおむね1万円から数万円台で済むことが多いです。
ただし、鑑定が必要になった場合は追加費用が発生します。
また、司法書士や弁護士に申立書の作成や提出を依頼する場合には、専門職報酬が別途かかる点にも注意しましょう。
家族でできること、専門家に頼むこと
家族ができるのは、「本人の生活や財産の状況をできるだけ正確にまとめておくこと」です。
通帳のコピー、年金通知書、保険証、固定資産税の納付書などを整理しておくと、専門職が内容を確認しやすくなります。
行政書士は、このような準備資料をもとに
- 申立てに必要な情報をチェックリスト化
- 資料の整理方法をアドバイス
- 司法書士・弁護士への橋渡し
といった支援を行うことができます。
特に初めて手続きを経験する家族にとって、「何から始めればいいか」を整理するだけでも大きな安心につながります。
書類を出す前にもう一度確認を
家庭裁判所では、不備があると書類が差し戻されることがあります。
たとえば「診断書の様式が違う」「財産目録が不十分」といった理由でやり直しになることも。
提出前に司法書士や弁護士に確認してもらうことで、無駄な時間を防げます。
行政書士ができるのは、あくまでその「前段階のサポート」ですが、
家族が冷静に制度を理解し、落ち着いて準備を進めるための大切な役割でもあります。
後見制度を利用する前に押さえておきたい3つの視点
① 後見人は「誰がなるのか」を早めに考える
法定後見の申し立てを行うと、最終的に家庭裁判所が後見人を選任します。
後見人には、大きく分けて親族が就く場合と、専門職(司法書士・弁護士・社会福祉士など)が就く場合があります。
家族が後見人になるケースは、親子や兄弟など信頼関係がしっかりしている場合に多く見られます。
ただし、財産が多い場合や親族間で意見が分かれているときは、公平性を保つために専門職が選ばれることもあります。
「できれば家族がやりたい」と思っていても、裁判所が中立的な判断をするため、希望が必ず通るわけではありません。
事前に親族間で話し合い、誰が担うのが望ましいか意見をそろえておくと、申し立て後の混乱を防げます。
② 後見制度だけが答えではない
後見制度は非常に重要な仕組みですが、万能ではありません。
本人の判断力がまだ十分残っている場合や、特定の契約だけサポートしてほしい場合には、他の制度が向くこともあります。
たとえば――
- 任意後見契約
将来に備えて、あらかじめ信頼できる人に財産管理を任せておく方法。 - 家族信託
家族の中で信頼できる人に財産を託し、柔軟に管理してもらう制度。 - 見守り契約、任意代理契約
判断力があるうちから、日常的な支援や手続きをお願いできる契約。
行政書士は、こうした「制度を選ぶ前段階の整理」や「契約書作成」を支援することができます。
つまり、「すぐに裁判所に行くかどうか」を決める前に、選択肢を広く見渡すお手伝いができるということです。
③ 相談のタイミングと士業連携の重要性
「まだ早いかな」「本人が嫌がりそう」とためらっているうちに、手続きが難しくなることも少なくありません。
判断力が低下すると、任意後見などの準備型制度は使えなくなってしまいます。
そのため、「そろそろ心配かも」と感じた段階で相談することが大切です。
行政書士は、制度の整理や準備段階の相談窓口として、家族が最初に話を聞く場として適しています。
そのうえで、実際に家庭裁判所へ申し立てを行う段階では、司法書士や弁護士に引き継ぐ流れが自然です。
専門家同士が連携することで、家族の負担を減らしながら、安全かつ確実に手続きを進めることができます。
「支える家族」も守るために
後見制度は、本人を守るための仕組みですが、実際には支える家族の心の負担を軽くする側面もあります。
「勝手にお金を動かせない」「手続きが進まない」といったストレスが減るだけでなく、後見人が選任されることで、家族が安心して介護や見守りに集中できるようになります。
焦らず、少しずつ理解を深めていけば大丈夫です。
市川市には地域包括支援センターや専門士業など、相談できる窓口が複数あります。
迷ったときは、一人で抱えずに早めに相談してみましょう。
安心して老後を迎えるために
法定後見制度は、判断力が低下した本人の権利を守るための大切な仕組みです。
ただし、申立てや選任の過程は専門的な部分も多く、家族だけで進めるのは難しいこともあります。
行政書士は、制度を理解し、他士業と連携しながら家族を支える「橋渡し役」として関わることができます。
焦らず、相談と準備を少しずつ重ねていくことが、本人と家族の双方にとって安心な第一歩です。

