相続人調査、テキトーにやったら「隠れ相続人」が出てきてやり直しに?

相続人調査、テキトーにやったら「隠れ相続人」が出てきてやり直しに?

「相続人はだいたいわかる」で済ませた結果、あとで大混乱に

「うちは家族少ないし、相続人なんてすぐわかるよ」
――そう思っていたのに、手続きを進めてから「知らない人の名前が出てきた」と慌てるケースは、意外と多いものです。

相続手続きでは、誰が相続人なのかを正確に確定することが最初の一歩です。これを“相続人調査”といいますが、ここを軽く見てしまうと、あとで大きな手戻りにつながります。

たとえば、父が亡くなり、母と子2人で遺産分割の話を進めていたところ、実は父に前妻との間に子どもがいた――という事実が、戸籍を取り寄せた段階で初めてわかることがあります。

その場合、すでに作成した遺産分割協議書は無効になり、手続きはすべてやり直し。話し合いのやり直しに加え、相続登記や口座解約の申請も再提出になることがあります。

しかも、こうした「隠れ相続人」は、特別な家庭に限った話ではありません。離婚・再婚・養子縁組・認知といった出来事は、どの家庭にも起こり得ること。親の世代では言い出しづらいことも多く、家族が知らないまま手続きに入ってしまうことがよくあります。

行政書士の立場から見ても、「最初の調査を丁寧にやっていれば…」というケースは少なくありません。
相続人調査は単なる“形式的な作業”ではなく、法的に有効な相続を成立させるための前提条件なのです。

相続手続きは、亡くなった方を中心に家族の関係を“線でたどる”ように整理していく作業。
だからこそ、最初の線が間違っていれば、あとでどんなに修正しても整わないことがあります。

「戸籍なんて取るだけでしょ?」と思われがちですが、そこにこそ専門的な注意点が潜んでいるのです。

 「相続人調査」は戸籍をたどる作業――でも侮れない理由

相続人調査の基本は、ずばり戸籍を集めることです。
といっても、ただ現住所の役所で1通取るだけでは足りません。
亡くなった方(被相続人)の出生から死亡までのすべての戸籍を順番にたどる必要があります。

戸籍をたどるってどういうこと?

人は一生の間に、結婚や転籍などで戸籍が何度も移動します。
たとえば、

  • 生まれたときの「原戸籍」
  • 結婚して新しく作った「戸籍」
  • その後の転籍でできた「新本籍地の戸籍」
    など、いくつかの戸籍が存在します。

このすべてを取得し、「どの時期に誰と親子・夫婦関係にあったのか」を追いかけていくことで、法定相続人を確定するわけです。

たとえば父の戸籍をさかのぼると、「前妻との間に子が1人」といった記載が突然登場することがあります。
これが、いわゆる“隠れ相続人”です。

よくあるつまずきポイント

戸籍は、思っている以上に種類が多く、しかも内容が手書きや旧字体で読みにくいこともあります。
特に古い時代(昭和初期や明治期)の戸籍は「除籍謄本」「改製原戸籍」といった形式で保存されており、読み解くのに経験が必要です。

さらに、転籍を繰り返している場合は、全国各地の役所に請求を出すことになります。
郵送請求では往復で1〜2週間かかることもあるため、全体で1か月以上かかるケースも珍しくありません。

「途中まで」で止めると危険

「このくらいで相続人は出そろっただろう」と思って途中で調査をやめてしまうと、後日漏れが見つかって手続きが無効になるおそれがあります。

特に兄弟姉妹相続や代襲相続(子の代わりに孫が相続する)のケースでは、思わぬ枝分かれが多く、慎重な確認が欠かせません。

戸籍調査は、地味でも確実に全員を把握するための大切な作業。
「見えない家族の履歴をたどる旅」と思って、丁寧に進めることが、後悔しない相続の第一歩になります。

隠れ相続人が見つかったときの実務的な影響

「え、まだ相続人がいたの?」
戸籍をすべて集め終わってから、思いもよらない名前が出てくることがあります。

いわゆる隠れ相続人です。
この時点で、すでに遺産分割協議を終えていた場合――残念ながら、その協議は無効になってしまいます。

全員そろっていない協議は「やり直し」

相続では、すべての相続人が参加した話し合いでなければ、遺産分割協議は成立しません。
一人でも欠けていると、その協議書は「法的に無効」とされます。

仮に登記や銀行手続きを済ませていても、後から「自分も相続人だ」と名乗り出られた場合、手続きのやり直しや登記の訂正が必要になることがあります。

しかも、隠れていた相続人の立場からすれば「知らされずに財産を分けられた」と感じることもあり、不信感や感情的な対立につながるケースも少なくありません。

最初は仲の良かった兄弟姉妹が、手続きの不備をきっかけに関係をこじらせてしまう――そんな残念な事例もあるのです。

専門家連携の重要性

相続手続きには、複数の専門家が関わります。
行政書士は相続人調査・戸籍収集・相続関係説明図の作成まで対応できますが、登記の申請は司法書士、相続税の申告は税理士の専門分野です。

そのため、最初の段階で行政書士が丁寧に相続人を確定しておくことが、その後の司法書士や税理士の手続きをスムーズに進める“土台”になります。

もし隠れ相続人が後から見つかれば、これらの専門家にも再度依頼し直すことになり、時間・費用の両方で二重の負担が生じます。

「最初の調査が最大の節約」

戸籍調査をきちんと行うには手間がかかりますが、それでも最初にしっかり確認しておくことで、
後からやり直すよりも圧倒的に負担は軽く済みます。
つまり、相続人調査は“コスト”ではなく“保険”なのです。

思いがけない発見があったとしても、最初の段階で把握できれば、冷静に話し合う余地があります。
隠れ相続人を「後から見つける」のではなく、「最初から見落とさない」こと。
ここが、トラブルを防ぐ最大のポイントです。

トラブルを防ぐための3つのチェックポイント

相続人調査を確実に行うためには、「とりあえず戸籍を集める」だけでは不十分です。
ここでは、行政書士として現場でよく感じる3つのチェックポイントを紹介します。

どれも「意外と見落とされがち」ですが、実はこれを押さえるだけで、後のトラブルをかなり防ぐことができます。

① 出生から死亡までの戸籍を漏れなく収集する

まず何よりも大事なのが、「途中で止めない」ことです。
被相続人(亡くなった方)の出生から死亡まで、すべてのつながりが確認できるように戸籍をそろえる必要があります。

よくあるミスは、「今の戸籍」と「ひとつ前の戸籍」だけで終わらせてしまうこと。
しかし、その前の世代――たとえば生まれたときの戸籍(原戸籍)に、認知された子前妻との子などが記載されているケースがあります。
これを見逃すと、あとで思わぬ形で「隠れ相続人」が現れることになります。

② 養子縁組・再婚・認知の履歴を確認する

戸籍を見慣れていない方にとっては、これが最も難しい部分かもしれません。
「長男」「次女」といった表記の中に、“養子”や“認知”の文字が小さく添えられているだけのこともあります。

また、再婚によって親子関係が一度切れたり、再度つながったりしているケースもあります。

こうした記載を見落とさないためには、読み慣れた専門家にチェックしてもらうのが安心です。
行政書士は、こうした戸籍の記載を法的関係として整理するのが得意な分野です。

「自分で読んでみたけど不安」という段階でも、早めに相談すれば無駄な手戻りを防げます。

③ 相続人が遠方や海外にいる場合の連絡ルートを確保する

戸籍上の確認ができても、実際の連絡が取れないと遺産分割は進みません。
特に兄弟姉妹やおい・めいなど、普段の交流が少ない相手が相続人になるケースでは、意思確認に時間がかかることが多いです。

海外在住の相続人がいる場合は、在外公館を通じた手続き翻訳書類の準備が必要になることもあります。

「相手の住所がわからない」「音信不通」という場合でも、戸籍や住民票などから追跡できることがあります。
慌てず、書類の裏付けを取りながら少しずつ確実に進めましょう。

この3つを意識するだけで、相続人調査の精度はぐっと上がります。
結果的に、争族(争う相続)を未然に防ぐことにもつながります。
「手間を惜しまないことが一番の近道」――これが、現場で何より実感する教訓です。

“家族の記録”を正しく残すことが、未来の安心につながる

相続人調査というと、「亡くなった人の書類を集めるだけ」と感じる方も多いかもしれません。
しかし本来これは、家族の歩みを丁寧にたどり、関係を整理する作業でもあります。

誰がどんなつながりのもとに存在し、どんな人生を送ってきたのか――その記録が戸籍の中にすべて刻まれています。

だからこそ、相続人調査をしっかり行うことは、単なる手続き以上の意味を持ちます。
見落としを防ぐことはもちろん、家族の記録をきちんと残し、次の世代へ引き継ぐ準備にもなるのです。

遺言や家族信託と組み合わせて“将来の備え”に

相続人調査をしていると、「今のうちに遺言を作っておいた方がいいかもしれない」「財産管理の仕組みも考えておきたい」と感じる方が少なくありません。

近年は、認知症による判断力の低下を見越して、任意後見契約や家族信託を併用するケースも増えています。
こうした生前対策を早めに検討することで、「うちの家族は大丈夫」と言える安心を手にできます。

行政書士は、戸籍や相続関係図の作成だけでなく、遺言・後見・家族信託の制度整理にも対応できます。
司法書士や税理士などと連携しながら、相続登記や税務の流れも見据えてサポートするのが特徴です。

つまり、最初の「調査」をきっかけに、家族のこれからを考える場にもなるのです。

“うちはシンプルだから大丈夫”と思う前に

実際のところ、家族構成がシンプルに見えても、戸籍をたどると意外な事実が出てくることは少なくありません。
それは恥ずかしいことでも特別なことでもなく、むしろ多くのご家庭に共通する現実です。

大切なのは、それをきちんと確認しておくこと。
手続きを整えることは、家族への思いやりの形でもあります。

相続人調査は、ただの書類仕事ではなく、未来の安心をつくる第一歩。
もし少しでも不安があるなら、早めに専門家へ相談してみましょう。

市川近郊でも、行政書士による戸籍整理や相続相談のニーズは年々増えています。

「知らなかった」で終わらせず、「調べておいてよかった」と言える相続に。
それが、家族にとっての幸せです。