「数次相続」とは?相続が連続して発生する場合の取り扱い

「数次相続」とは?相続が連続して発生する場合の取り扱い

目次

続けて起こる「相続」に戸惑う人が増えています

―「気づいたら相続が二重に発生していた」家庭の現実―

「父の相続がまだ終わっていないのに、母も亡くなってしまって…」
こうしたご相談が増えています。書類の山を前に「どこから手をつければいいのか分からない」という声も多く聞かれます。

このように、相続手続きを進めている最中に、別の相続が重なって発生するケースを「数次相続(すうじそうぞく)」といいます。

例えば、父が亡くなり、その相続人である母がまだ遺産分割を終える前に亡くなった場合、父の遺産の一部が母を経由して子どもたちに引き継がれることになります。

一見単純なように見えますが、実際には「誰がどの遺産をどの順序で受け継ぐのか」という整理がとても複雑になります。

家族の思いとは裏腹に、手続きは二重構造に

数次相続が発生すると、相続人の範囲が広がり、関係者も一気に増えます。
たとえば、最初の相続で相続人だった兄が途中で亡くなった場合、今度はその兄の配偶者や子どもが新たに関係者として加わります。

結果として「親族間の話し合いが増える」「必要な戸籍が膨大になる」「誰が代表で動くのかが曖昧になる」といった問題が次々と発生します。

しかも、こうしたケースは決して珍しいものではありません。
近年は、親世代と子世代がともに高齢化しており、「親の相続が終わる前に子が亡くなる」「相続登記を放置していたら相続人が入れ替わっていた」といった事例も見られます。

いざ手続きの段階になると、思っていた以上に時間がかかり、感情面のすれ違いが生じてしまうこともあります。

「とりあえず放置」が後の大きな負担に

相続は、感情の整理と手続きの整理が同時に求められる場面です。
気持ちの区切りがつかず、「あとでまとめてやろう」と後回しにしてしまう方も多いでしょう。

しかし、その“あとで”が長引くと、次の相続が重なってしまうリスクが高まります。

数次相続になると、遺産分割協議書の作り直しや、戸籍の追加取得が必要になるなど、費用も手間も倍増します。

相続登記や相続税の申告など、各種の手続きが滞ると、結果的に家族の負担が増してしまうこともあります。

まずは「全体の構造を理解する」ことから

こうしたトラブルを防ぐ第一歩は、制度の仕組みを知ることです。
誰が相続人になるのか、どの時点で権利が発生するのかを理解しておくだけで、手続きの見通しはぐっと立てやすくなります。

次の章では、「数次相続とは何か」を法律の観点からやさしく整理します。
代襲相続との違いや、市川市をはじめとする地域で起きやすい背景も交えながら、分かりやすく解説していきます。

「数次相続」とは?―法律上の仕組みをやさしく整理

―亡くなった人の相続人が、さらに亡くなっている場合の考え方―

「数次相続」という言葉、少し聞き慣れないかもしれません。
でも実際には、家庭の中で起こる自然な“時間の流れ”から生じる現象です。

誰も悪くないのに、仕組みを知らないまま進めると手続きが複雑になってしまう──。
ここでは、法律的にどのように整理されるのかをやさしく説明します。

相続人が“連続して”亡くなるとどうなる?

相続は、ある人が亡くなった時点で開始します。
ところが、手続きを終える前に相続人の一人が亡くなってしまうと、今度はその人の相続が新たに発生します。
この「連続して起こる相続」が数次相続です。

たとえば、父が亡くなり、相続人が母と2人の子だったとします。
遺産分割が終わらないうちに母が亡くなった場合、母が持っていた「父の遺産に対する相続分」は、母の相続人(つまり子どもたち)にさらに引き継がれます。

結果として、父の財産の一部が“二段階で”子どもたちに移る形になります。

言葉で聞くと簡単そうですが、実務上は「どの財産がどの相続で動いたのか」を明確に分けて整理しなければなりません。

ここが、相続登記や遺産分割協議を難しくする要因のひとつです。

「代襲相続」との違いを理解しておこう

混同されやすいのが「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」です。
代襲相続は、被相続人(たとえば父)が亡くなった時点で、本来相続人となるはずの人(たとえば長男)がすでに亡くなっている場合に、その子ども(孫)が代わりに相続する制度です。

一方、数次相続は、最初の相続発生後に相続人が亡くなるケース
つまり、相続のタイミングが違うだけで、発生の順序が大きなポイントになります。

「父→母→子」なのか、「父→子→孫」なのか。
この順序を正確に把握しておかないと、相続人の特定や相続割合を誤ってしまう危険があります。

市川市でも増えている背景

近年は、市川市をはじめとする都市部でも数次相続の相談が増えています。
背景には、高齢の親と中高年の子が同時期に介護・療養期を迎える「親子ダブル高齢化」があります。

また、相続登記を長年放置していた土地や、名義変更が途中で止まっている預貯金なども要注意です。
こうした「相続の持ち越し」は、次の相続を引き寄せやすく、問題が重なっていく原因になります。

仕組みを知れば、落ち着いて整理できる

数次相続が起こると、関係者の数が一気に増え、話し合いの難易度も上がります。
しかし、「なぜそうなるのか」という仕組みを理解しておくだけで、焦る必要はありません。

次章では、実際に数次相続が起きたとき、どのように手続きを進めていけばよいのかを、具体的な流れに沿って説明します。

数次相続が起きたときに必要な手続き

―遺産分割協議・相続登記・戸籍確認の流れ―

「数次相続になっているかもしれません」と言われても、何をどう進めればいいのか分からない——そんな方が多いのではないでしょうか。

ここでは、実際に数次相続が起きたときに踏むべき基本の手順を、できるだけ分かりやすく整理します。
焦らず一つずつ確認していけば、確実に整理できます。

1. 戸籍をさかのぼって収集する

まず最初に行うのは、戸籍の確認と収集です。
被相続人(最初に亡くなった人)だけでなく、途中で亡くなった相続人の分も含めて、すべての相続関係を明らかにします。

市役所や法務局では、どこまで戸籍を遡ればよいか、どの時点の証明書が必要かといった具体的な範囲を教えてもらうことはできません。

そのため、自分で系統を追いながら「この人の次は誰が相続したのか」を確認していく必要があります。

ここでのポイントは、“いつ・誰から・誰へ”相続が引き継がれたのかを時系列で整理することです。
行政書士や司法書士に依頼する場合も、この戸籍の整理が最初のステップになります。

2. 遺産分割協議書を作り直す必要がある場合も

最初の相続で遺産分割が終わっていなければ、再度、相続人全員で協議をやり直す必要があります。
途中で亡くなった相続人がいる場合、その人の相続人(たとえば配偶者や子)も新たに話し合いのメンバーに加わります。

人数が増えるほど、意見のすり合わせが難しくなります。
「そもそも誰が相続人なのか」「代表して署名していいのか」といった確認も必要です。

この段階で揉めやすいのが、「財産の一部をすでに使ってしまっていた」「分け方の前提が変わっていた」というケースです。

後から話がこじれないよう、できる限り客観的な資料(預金通帳、不動産評価額など)をもとに、冷静に進めることが大切です。

3. 相続登記は「連続登記」か「一括登記」か

数次相続が発生した不動産の名義変更(相続登記)には、主に2つの方法があります。

  • 連続登記方式
    最初の被相続人から一度目の相続人へ、さらにその相続人から二度目の相続人へと、順番に登記を行う方法。
    手間はかかりますが、法的な流れを正確に残せるのが特徴です。
  • 一括登記方式
    二段階をまとめて、最終的な相続人名義に一度で変更する方法です。
    法令上の正式名称ではなく、実務上の便宜的な呼び方であり、ケースによっては簡略化できる場合もありますが、事前に登記官へ相談して判断するのが安心です。

どちらが適しているかは、財産の種類や相続人の数によって異なります。
不動産が複数ある場合は、司法書士への相談をおすすめします。

4. 手続きが長期化する前に、専門家に相談を

数次相続は、手続きが二重三重に絡み合うため、一般の方が一人で進めるのは負担が大きいものです。
特に、相続人の数が多い・関係が遠い・海外在住者がいる場合などは、やり取りが煩雑になります。

行政書士は、戸籍や相続関係図の整理、協議書の作成支援を行い、必要に応じて司法書士・税理士・弁護士と連携して全体をまとめます。

「まず何から手をつけるか分からない」という段階でも、早めの相談が結果的に時間と費用の節約につながります。

「数次相続」を防ぐためにできる3つの生前対策

―トラブルになる前に、家族で準備しておくこと―

数次相続は、亡くなった後の“時間差”で起きる相続問題です。
ということは、生きているうちの工夫次第で防ぐことができるとも言えます。

「まだ元気だし、うちは大丈夫」と思っていても、突然の入院や判断力の低下は誰にでも起こり得ます。
ここでは、家族が困らないためにできる3つの備えを紹介します。

1. 遺言書の作成で「承継ルート」を明確に

最もシンプルで効果的なのが遺言書の作成です。
遺言があるだけで、相続の話し合い(遺産分割協議)の負担は大きく減ります。

特に、配偶者や子どもが高齢の場合は、「次の相続」を見据えた内容にするのがポイントです。
たとえば、「夫の死後、妻にすべて相続させる」ではなく、「妻の死後は子どもAに土地、子どもBに預貯金を」といった形で、二段階の承継ルートを明示しておくと、数次相続の整理がぐっと楽になります。

また、自筆証書遺言よりも公正証書遺言にしておくと、開封や検認の手続きが不要になり、相続開始後すぐに動き出せます。
書き方に不安がある場合は、行政書士や公証人に相談しながら準備しておくと安心です。

2. 家族信託で柔軟な財産管理を

「親が元気なうちは管理できるけど、将来が心配」という方には、家族信託(かぞくしんたく)が有効です。

信頼できる家族(受託者)に財産の管理・処分を任せておく仕組みで、判断能力が落ちても契約内容に基づいて柔軟に動けるのが特徴です。

たとえば、親名義の不動産を子が代わりに管理したり、家賃を生活費に充てたりすることも可能。
遺言や後見制度の“中間的な立ち位置”として、近年注目されています。

信託契約を結んでおけば、相続の途中で誰かが亡くなっても、管理や承継のルートが途切れずに続くため、数次相続による手続きの滞りを防ぐ効果があります。

3. 成年後見・任意後見で「判断力低下」に備える

生前対策というと「相続後の話」と思いがちですが、実は相続前の判断力低下への備えも重要です。
特に認知症や病気などで判断力が落ちると、遺言書の作成や財産管理ができなくなり、結果として数次相続を複雑にする要因になります。

その対策が、成年後見制度任意後見契約です。
家庭裁判所の監督のもとで代理人が財産を管理する「法定後見」と、自分で信頼できる人を決めておく「任意後見」があります。

元気なうちから任意後見契約を結んでおけば、判断力が低下しても手続きが止まる心配がありません。

家族で「今」のうちに話しておくことが最大の対策

遺言・家族信託・後見契約はいずれも、“今”準備できる未来の安心です。
法律の仕組みを知っておくだけでも、「あの時こうしておけばよかった」という後悔を減らせます。
数次相続を防ぐ一番の方法は、制度を早めに理解し、家族で話し合うことから始めることです。

連続相続を防ぐには「今からの一歩」

―“相続は一度きり”ではない。だからこそ、備えが家族を守る―

相続というと、「親が亡くなったときに起こる一度きりの手続き」という印象を持つ方が多いでしょう。
しかし実際には、相続は連鎖して発生する可能性のある出来事です。

一つの相続を終える前に次の相続が始まってしまう「数次相続」は、その象徴的なケースです。

この“連続する相続”を放置してしまうと、遺産分割協議が二重三重に絡み合い、誰が何を相続するのかが曖昧になってしまいます。

最終的には、相続登記が進まず、不動産の名義が何世代も前のまま……という事態に発展することもあります。

時間が経てば経つほど、関係者は増え、手続きは煩雑になり、費用も膨らみます。

「今のうちに」が、後の安心につながる

相続を“将来の話”と思って後回しにする人は少なくありません。
しかし、現実には「元気なうち」にこそ準備できることがたくさんあります。

遺言書を作る、財産の整理を始める、信頼できる家族と話し合っておく——。
それらはどれも特別なことではなく、家族の思いや生活を守るための小さな行動です。

たとえば、「この家は誰が住み続けるのか」「預貯金の管理はどうするのか」といった身近なテーマからで構いません。
そうした話し合いが、後に起こりうる数次相続を防ぐ第一歩になります。

専門家の力をうまく使う

相続手続きは、思った以上に細かい確認や書類整理が求められます。
すべてを家族だけで完結させようとすると、感情的なすれ違いが起こることもあります。
そんなときは、行政書士・司法書士・税理士などの専門家に部分的に頼るのが賢明です。

行政書士は、相続関係図や協議書の作成、手続き全体の流れを整理する役割を担います。
必要に応じて他士業と連携し、登記や税申告などもスムーズに橋渡しできます。

「何から始めたらいいかわからない」という段階で相談しても大丈夫です。
むしろそのタイミングが、最も効率よく整理できる時期と言えます。

家族の安心を“未来に贈る”

数次相続の問題は、制度を知り、早めに準備していれば避けられるものです。
いざというときに家族が慌てず、穏やかに対応できるようにしておくこと。
それが、生前にできる“最大の相続対策”です。

市川市や近隣地域でも、「まだ元気だけど、そろそろ準備しておきたい」というご相談が増えています。
もし少しでも気になることがあれば、まずは家族と話し合う、または専門家に聞いてみる。

その一歩が、将来の混乱を防ぎ、安心をつなぐきっかけになります。

【専門家連携について】

相続登記の手続は司法書士の専門業務、相続税の申告は税理士の専門業務です。
行政書士はこれらの業務を代理して行うことはできませんが、当事務所にご相談いただければ、 内容に応じて信頼できる司法書士・税理士をご紹介し、連携してサポートいたします。
相続の全体像を整理したうえで、適切な専門家につなぐ窓口として、まずはお気軽にご相談ください。