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後見制度で見落とされがちな「本人の意思確認」。なぜ問題になるのか
親が高齢になり、これからの暮らしや財産管理が心配になってくると、成年後見制度を検討する場面が増えます。
ただ、いざ制度を調べてみると「本人の意思確認が重要です」と書かれていて、戸惑う方が少なくありません。
「いやいや、うちの親は認知症が進んでいて説明しても分からないのでは?」
「そもそも本人に制度をどう伝えればいいのか分からない」
そんな疑問を抱いたまま、家族だけで段取りを進めてしまうことが多いのですが、ここに落とし穴があります。
家庭裁判所は、後見開始の判断をする際に「本人が制度の内容をどの程度理解しているか」「本人が望んでいる方向性はどこか」を丁寧に確認します。
そして、この部分が不十分だと「意思確認が足りない」と指摘され、追加説明や再確認が求められることがあります。
判断力が落ちているからといって、本人への説明を全く省いてよいというわけではありません。
ただし、認知症や知的障害が進行して意思確認が難しい場合でも、成年後見の申立ては可能であり、制度はそのような事例を前提に運用されています。
裁判所が重視するのは「本人の理解能力に応じて、可能な範囲で説明しようとした姿勢」であり、完全な意思確認まで求められているわけではありません。
ここで注意したいのは、
本人の意思確認は「言語理解が完璧かどうか」ではなく、「ご本人の気持ちや希望をできる限り尊重しようとしているか」という姿勢そのものが問われる、という点です。
これは、相続、遺言、家族信託とも深くつながるテーマでもあります。
どの制度も、大前提には「本人の考え・気持ち」を中心に据えるという考え方があります。後見制度も例外ではありません。
親のこれからを考える時、つい制度の複雑さに目がいきがちですが、まずは「本人の希望をどうやって拾うか」という視点が欠かせません。
それこそが、後見の申し立てをスムーズに進める第一歩であり、後で家族が後悔しないための重要な準備にもつながります。
裁判所が重視する「本人意思」。確認不足と言われてしまう典型例
成年後見の申立てでは、書類の形式や手続の流れよりも、実は「本人の意思をどれだけ丁寧にくみ取っているか」が大きなポイントになります。
ここが弱いと、家庭裁判所から追加説明や再確認を求められることがあり、進みが遅くなる原因にもなります。
では、具体的にどういうケースが「意思確認不足」と見なされてしまうのでしょうか。代表的な例を順番に整理します。
家族だけが先走って準備を進めてしまったケース
よくあるのが、家族が「早く後見人をつけないと」と焦ってしまい、本人が話に加われていないケースです。
本人は事情が分からないまま、家族の判断だけで申立ての準備が進むと、裁判所は「本人の理解・希望が確認されていないのでは」と疑問を持ちます。
特に、施設入所や財産管理の必要性が切迫している時ほど、家族の行動が早まりやすく注意が必要です。
説明したつもりだが、本人が不安を抱えたままのケース
本人には説明したつもりでも、実際には
「よく分からないけど、家族が決めるなら従うしかない」
「後見人って何をする人なの?」
など、不安を抱えたままの方は少なくありません。
この状態が裁判所との面談で露呈すると、「説明が十分に行われていない」と判断されることがあります。
後見制度は本人の生活に大きく影響するため、本人が理解できる範囲での説明と、その反応を確かめるプロセスがとても大切です。
書類だけ整っていて、説明の記録が残っていないケース
申立書には「本人の意思を確認した」と記載してあっても、実際にどの程度話したのか記録が残っていないことがあります。
たとえば、
・誰が、どの場面で、何を説明したのか
・本人がどう答えたのか
・どこまで理解していたのか
こうした点が整理されていないと、裁判所は慎重になり、追加資料を求めることもあります。
また、本人の判断力が不安定な場合、説明したときの状況が確認できる記録はとても重要です。裁判所にとっても、それが後見開始の判断材料になるためです。
なぜここまで丁寧さが求められるのか
成年後見は「本人の利益保護」を目的としつつも、「本人の意思尊重」が重要な柱になっています。
そのため、
・本人の意向に沿った生活支援ができるか
・家族の意見が強すぎないか
・後見人を誰にするのが適切か
といった判断に、本人の気持ちが大きく影響します。
裁判所が追加資料を求めるのは、説明を試みた形跡が全くない場合や、家族だけで判断して進めてしまった場合です。
本人の意思が事実上確認できない状態でも、診断書や生活状況から後見開始の必要性が明らかであれば、選任は問題なく行われます。
意思確認が困難な事例は多く、裁判所はそれを前提として運用しています。
成年後見制度の仕組みと、意思確認が重視される法的背景
成年後見制度は、判断力が低下した方の生活と財産を保護するための制度ですが、「保護さえできればいい」というものではありません。
制度の根底には「本人の意思を最大限くみ取る」という考え方がしっかりと据えられています。
ここでは、仕組みと法的な背景をやさしく整理します。
成年後見の目的は「保護」と「意思尊重」の二本柱
成年後見制度は民法の規定に基づく制度で、目的は次の二つです。
一つは、本人の財産管理や契約などをサポートして、生活を守ること。
もう一つは、本人が持っている希望や選択をできる限り尊重すること。
「守る」「支える」という側面に目が行きがちですが、同じくらい大切なのが意思尊重です。
たとえ認知症が進んでいても、
・住み慣れた場所にいたい
・お金の使い方をこうしてほしい
・この人に頼みたい
といった気持ちは、部分的でも確かに存在します。
家庭裁判所が申立て時に意思確認を重要視するのは、この価値観を丁寧にすくい上げるためです。
判断力が弱っている=意思確認不要、ではない
「うちの親は説明しても分かりづらいから、意思確認しなくていいですよね?」
という質問を受けることがありますが、実は逆です。
判断力が低下している場面だからこそ、
・理解できる部分はどこか
・本人の不安や希望はどんなところにあるか
・一緒に決めるためにできる工夫は何か
を探る姿勢が求められます。
判断力が低下していても部分的に理解できることはありますが、著しく意思疎通が困難な方も少なくありません。
その場合でも成年後見制度は利用でき、裁判所は診断書・生活状況・家族の説明をもとに後見開始を判断します。
裁判所が求めるのは「本人の状態に応じた説明の試み」であり、意思確認が完全であることまで求められてはいません。
これは、後見開始の可否や後見人選任にも影響する可能性があります。
後見人選びにも「本人の意向」が大きく関わる
後見人は、一度選ばれると長期間にわたって本人の生活を支える存在になります。
そのため、裁判所は
・本人がその候補者にどの程度の信頼を寄せているか
・家族関係に偏りや対立はないか
・財産を適切に扱える人物か
などを慎重に見ます。
こうした判断にも、本人の意思が欠かせません。
例えば本人が「この人なら安心」と伝えていれば、それは選任の大きな根拠となります。
一方、親族の誰かが強く主張しても、本人が不安を感じていれば裁判所は別の候補者(専門職後見人など)を選ぶこともあります。
相続や遺言とも関係してくる「意思」の扱い
成年後見は親の財産管理を扱う制度なので、相続や遺言の話とも密接につながります。
例えば、
・遺言の内容と後見人の選任が矛盾しないか
・家族信託を検討していた経緯があるか
・本人が生前にどのような相続意向を持っていたか
といった点も、意思確認の重要性に直結します。
意思の軸が曖昧になると、後見開始後の判断が揺れたり、相続トラブルを招いたりすることがあります。
だからこそ、裁判所は申立て段階から丁寧な意思確認を求めているのです。
後見でトラブルを避けるために。家族ができる「3つの準備」
成年後見は、申立てて終わりではありません。
申立て後には裁判所の審理があり、後見開始後も生活や財産管理について多くの判断が続いていきます。
だからこそ、家族が事前に整えておくべき準備がいくつかあります。ここでは特に重要な三つを取り上げます。
本人が話しやすい場を作り、小さな希望も拾う
意思確認の要は、「本人が話せる環境を整えること」です。
家族が一度に制度の説明をまとめてしようとすると、本人が混乱してしまうことがあります。
まずは難しい話ではなく、いつもの生活の困りごとや不安からゆっくり聞き始めると、本人の気持ちが表れやすくなります。
例えば、
・最近お金の管理が大変
・病院や役所の手続きがよく分からない
・安心して暮らすにはどうしたいか
といった、生活の中の小さな声が大切です。
市川市の高齢者支援窓口や地域包括支援センターを利用すれば、第三者が入ることで話しやすくなる場合もあります。
家族だけで抱え込まない姿勢も大切です。
説明の内容や本人の反応を「記録」に残す
裁判所に提出する申立書には、本人の状況や理解力、意思が丁寧に書かれます。
その際「誰がどのように説明し、本人がどう受け止めたか」が分かると審理がスムーズになります。
記録といっても、難しい文書を作る必要はありません。
メモ帳レベルで十分です。
例えば、
・説明した日付
・どう説明したか
・本人が答えた内容
・理解できていた点、難しそうだった点
といった簡単な記録を残しておくことで、後から申立書を作る際に役立ちます。
本人の判断力が不安定な時期だからこそ、その場その場の反応を残すことに意味があります。
記録は家族の安心材料にもなりますし、裁判所が意思尊重の姿勢を確認する重要な根拠にもなります。
後見だけでなく、遺言や家族信託も合わせて検討する
成年後見は便利な制度ですが、すべての希望をかなえるための仕組みではありません。
例えば、後見人には財産の管理権限はありますが、財産の一部を誰かに渡したり、相続に関する調整をしたりすることはできません。
判断力が残っている今だからこそ、
・遺言の作成
・家族信託による財産管理
・将来に備えた生前対策
など、本人が選べる選択肢があります。
これらは後の遺産分割トラブルを減らし、「自分の財産をどうしたいか」をしっかり形にするための仕組みです。
特に家族信託は、認知症への備えとして注目されており、後見制度と併用されるケースも増えています。
後見だけに依存するのではなく、複数の制度を柔軟に組み合わせることで、本人の希望に寄り添った支援が可能になります。
三つの準備をしておくことで申立てがスムーズに
本人の気持ちを丁寧に聞き、記録を残し、他の制度とも合わせて検討する。
この三つを行うだけで、後見申立ての負担は大きく減ります。
裁判所の審理も進みやすく、その後の生活支援も整えやすくなります。
親の将来を考えるのは簡単ではありませんが、早めに動いておくことで、あとで「もっと準備しておけばよかった」という後悔が少なくなります。
本人の想いをきちんと残すことが、後悔しない相続・後見の第一歩
成年後見制度は、判断力が低下した方を支えるための大切な仕組みですが、その中心にあるのは書類や手続ではなく「本人の希望」です。
これは相続や遺言、家族信託といった生前対策にも共通する考え方で、「ご本人がどうしたいと思っていたか」が軸になります。
後見の申立てにおいて、家庭裁判所が丁寧な意思確認を求めるのは、制度を正しく機能させるためだけではありません。
本人の人生に関わる大きな決定を、できる限り本人の意向に沿って進めるためでもあります。
申立ての際、
・家族だけで急いで決めない
・本人が話しやすい場を作る
・分かる範囲で気持ちを確かめる
・説明した内容や反応を記録に残す
といった意識があるだけで、家庭裁判所とのやり取りも整い、後見開始後の生活も安定しやすくなります。
また、後見制度だけに依存せず、遺言や家族信託を併用することで、財産管理や将来の相続に備えた選択肢が広がります。
判断力が残っているうちに準備しておくことで、後から家族同士で悩んだり、相続トラブルが起きたりする可能性も小さくなります。
親の今とこれからを考えることは、家族にとって大きなテーマです。
不安や戸惑いがあるのは当然で、一人で抱え込む必要はありません。
市川市の支援窓口や行政書士、社会福祉士など、相談できる相手は身近にいます。
本人の想いを大切にしつつ、家族みんなが納得できる形を整えていく。
そのための一歩として、早めの準備と、おだやかな話し合いを心がけることが何よりの近道です。
――今回の内容が、相続や後見に向き合う際のヒントになれば幸いです。

