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遺言と相続の不安「遺言執行者って何?」
相続に直面したときの漠然とした不安
「もし親が急に亡くなったら、遺産ってどう分けるんだろう?」
そんな不安を一度でも感じたことはありませんか。特に親の年齢が70代、80代になると、相続や遺言の話題が現実味を帯びてきます。
とはいえ、「まだ元気だから大丈夫」「遺言なんて縁起でもない」と考えて先送りにしてしまう人は少なくありません。
実際に市川市やその周辺でも、相続に関する相談件数は増加傾向にあります。背景には、
- 認知症など判断能力の低下リスク
- 兄弟姉妹が生活圏を離れたことによる連絡の難しさ
- 不動産や預貯金など複数の財産整理の複雑化
といった現実があります。
遺言でできること、そしてよくある疑問
こうした不安を解消するために注目されるのが「遺言」です。遺言があれば、「誰に何をどう分けるか」を自分の意思で示すことができます。ところが、ここでよく出る質問があります。
それが今回のテーマ、「遺言執行者は必ず指定しなければならないのか?」です。
遺言執行者の役割をざっくり知る
遺言執行者とは、一言でいえば「遺言を実際に動かす人」です。
たとえば「長男に自宅の不動産を相続させる」と書いてあっても、そのままでは登記簿上の名義は変わりません。銀行口座の解約や保険金の受け取りも同じで、誰かが実際の手続きをしなければ、遺言は「紙の上の約束」にとどまります。
遺言執行者を決めないとどうなる?
一方で、遺言執行者を指定しないまま遺言だけ作るケースも多くあります。
その場合、手続きは相続人全員が共同で行う必要があり、意見が食い違うと進みません。
- 「相続人の一人が署名捺印を拒む」
- 「疎遠になっている親族と連絡がつかない」
こうした事態が起きれば、せっかく遺言を用意しても機能しないことさえあるのです。
相続トラブルは誰にでも起こり得る
相続は「争族」とも呼ばれるほど、感情のもつれが起きやすい分野です。財産の大小に関わらず、兄弟姉妹がギクシャクしてしまうケースは珍しくありません。行政書士としてご相談を受けていると、「もっと早く準備していれば」という声をよく耳にします。
遺言執行者の役割と法律上の位置づけ
遺言執行者が担う具体的な仕事
遺言執行者は、簡単にいえば「遺言を実現するための代理人」です。遺言書に書かれた内容を机上の空論で終わらせず、実際に財産の名義変更や解約、分配の手続きを行う立場にあります。
たとえば以下のような仕事が典型的です。
- 不動産の相続登記(名義変更)
- 銀行口座の解約や残高の分配
- 株式や保険金の名義変更・受け取り手続き
- 遺言に基づく寄付や特定の人への財産移転
これらは相続人全員の協力が得られれば可能ですが、誰かが反対したり手続きに協力しなかったりすると、一気に進まなくなります。そこで、遺言執行者がいれば「この人が代表して進める」と法律で認められているため、スムーズに処理が可能になるのです。
法律上の位置づけと根拠条文
民法では、遺言執行者について明確に規定があります。
- 遺言に基づいて指定できる
- 家庭裁判所が選任する場合もある
- 相続人は、遺言執行者の行為に原則として介入できない
つまり遺言執行者が選ばれていれば、その人が単独で財産管理や名義変更の手続きを進められるという強い権限を持ちます。これは「相続人全員の署名・押印が必要」という従来の煩雑さを避けるための仕組みであり、法律上もしっかり裏付けられています。
指定しない場合に起こり得る問題点
では遺言執行者を指定しなかったらどうなるのでしょうか。
その場合、遺言の内容を実現するためには相続人全員の合意と行動が不可欠です。
しかし、現実には以下のような場面で問題が発生します。
- 相続人の一人が疎遠で連絡がつかない
- 相続財産が不動産や株式など複雑で、専門的な手続きが必要
- 相続人の中に意見が割れる人がいる
こうした場合、手続きが長期化したり、最悪の場合は頓挫してしまうこともあります。せっかくの遺言が無意味になってしまうのは残念なことです。
成年後見や家族信託との関係性
遺言執行者はあくまで「亡くなった後」の財産を動かす役割ですが、生前に備える仕組みとして成年後見や家族信託も存在します。
- 成年後見
認知症などで判断能力が低下したとき、生活や財産管理をサポートする制度 - 家族信託
元気なうちから信頼できる家族に財産の管理・運用を託す仕組み
これらと遺言執行者を組み合わせることで、生前から亡くなった後まで切れ目なく備えることが可能になります。
「親が元気なうちは家族信託、亡くなった後は遺言と遺言執行者」という流れを意識すると、安心感が高まります。
遺言執行者は必ず必要?指定がないケースと指定した方が良いケース
法律上は「必須」ではない
まず押さえておきたいのは、遺言執行者は法律上「必ず置かなければならない存在」ではないという点です。
遺言書そのものは、執行者を定めなくても有効です。たとえば「自宅は長女に、預金は長男に」といった分け方を指定しても、形式が整っていれば遺言は成立します。
ただし、実際の手続きを進める段階になると「執行者がいないとスムーズに進まない」状況が出てきます。つまり、法律的には必須ではないが、実務上は指定しておくのが望ましいというのが現実です。
指定しなくても済むケース
では、どんな場合に遺言執行者を置かなくても大きな問題になりにくいのでしょうか。
- 相続人が少なく、仲が良い
例えば配偶者と子ども1人だけの場合。お互いの信頼関係が強ければ、遺言の内容に沿って協力して手続きを進められます。 - 財産がシンプル
現金のみ、あるいは不動産が1件だけなど、複雑な手続きが不要なケース。 - 相続財産の金額が少額
実務で「手間をかけるほどでもない」と判断できるレベルの資産規模。
こうした状況であれば、相続人同士が話し合いながら進めても大きなトラブルには発展しにくいでしょう。
指定した方が良いケース
一方で、次のような場合は遺言執行者を置いておいた方が安心です。
- 相続人が多い
兄弟姉妹が複数いると、それぞれの立場や感情が絡んで意見がまとまりにくくなる。 - 不動産が複数ある
相続登記の手続きは専門知識が必要で、相続人全員で進めるのは困難。 - 遺贈や寄付が含まれている
相続人以外への財産移転は特にトラブルになりやすい。 - 相続人同士が疎遠または仲が悪い
手続きが止まるリスクが高く、第三者的な立場の人が必要になる。 - 二次相続まで見据える必要がある
夫婦の一方が亡くなり、その後もう一方が亡くなる「二次相続」を意識する場合、最初から秩序立てて進めるためにも執行者が役立ちます。
トラブル回避の観点からの考え方
実際の相談現場では、「財産の規模が大きいかどうか」よりも「家族の関係性」によってトラブルの芽が出やすい傾向があります。
たとえば「相続人が3人いて、それぞれに意見が食い違う」というケースでは、遺産の金額が数百万円程度であっても揉め事に発展することが少なくありません。
逆に、数千万円規模の財産でも、相続人が一人だけであれば遺言執行者がいなくても手続きはシンプルに進みます。
このように、「必ず必要ではないが、多くの家庭では指定した方が無難」というのが実際のところです。とくに高齢の親世代が「子どもたちの仲が心配」と思っているのであれば、遺言とあわせて執行者を指定しておくことがトラブル回避の第一歩となります。
遺言執行者を誰にするか?選び方のポイント3つ
遺言執行者を決める重要性
「遺言執行者を置いた方がいい」と分かっても、次に悩むのは「誰にお願いすればいいのか」という点です。
遺言執行者は法律上大きな権限を持つため、選び方を誤ると手続きが滞ったり、かえって家族間の不信感を招く可能性もあります。ここでは、執行者を選ぶ際の3つの視点を紹介します。
1. 家族を選ぶメリット・デメリット
まず検討されやすいのは、配偶者や子どもなどの家族を遺言執行者にする方法です。
メリット
- 家族の状況を一番よく理解している
- 報酬を払わなくても務めてもらえる場合が多い
- 手続きに対する安心感や信頼感がある
デメリット
- 相続人の一人が執行者になると、「自分に有利に進めているのでは」と他の相続人が疑念を持つ場合がある
- 専門的な知識がないと、不動産登記や金融機関の手続きで行き詰まることもある
- 体力的・精神的な負担が大きい
家族を執行者に選ぶ場合は、他の相続人から信頼を得られる人物かどうかが重要なポイントになります。
2. 専門家を選ぶメリット
次に選択肢となるのが、行政書士・司法書士・弁護士といった専門家です。
メリット
- 法律や手続きに精通しているため、相続登記・銀行手続き・税務関係などもスムーズに進められる
- 中立的な立場で関わるため、家族同士の感情的な衝突を和らげられる
- 費用は発生するが、その分確実で迅速な処理が期待できる
特に「相続人同士が遠方に住んでいる」「不動産や預金口座が多岐にわたる」といった場合には、専門家を選ぶメリットは非常に大きくなります。
3. 信頼できる第三者を選ぶ場合
親族でも専門家でもない、信頼できる友人や知人を遺言執行者にすることも可能です。
ただし、この場合は「責任を負わせてしまうことになる」という負担感を相手が感じやすいため、事前に十分な相談が欠かせません。もし引き受けてもらえるとしても、専門的な知識がないため、結局は専門家のサポートを別途依頼するケースがほとんどです。
市川での相談先や費用感の目安
実際に市川市周辺でも、遺言執行者を専門家に依頼するケースは年々増えています。費用は財産の規模や内容によって異なりますが、一般的には数十万円程度から。もちろん相談内容によって柔軟に対応できることも多いので、まずは見積もりをとって検討するのが現実的です。
「専門家にお願いするとお金がかかる」と思う方もいますが、相続が長期化して家族関係が悪化するリスクを考えれば、結果的には費用以上の安心につながるといえるでしょう。
選び方のまとめ
遺言執行者を選ぶ際には、
- 家族にするかどうか(信頼関係と負担のバランス)
- 専門家に依頼するかどうか(費用と確実性)
- 信頼できる第三者を検討するか(責任負担への理解)
この3つを軸に考えるのが大切です。
「誰にするか」を後回しにしてしまうと、せっかくの遺言も実効性を失ってしまいます。信頼できる人を選び、必要なら専門家と組み合わせて準備することが、安心した老後と家族円満の相続につながります。
相続トラブルを防ぐために「今できる準備」
遺言書と遺言執行者はセットで考える
ここまで解説してきたように、遺言執行者は法律上必ず必要な存在ではありません。しかし、実務の現場では「指定しておけばよかった」という声を非常に多く耳にします。
遺言書を作るときには、「内容を書く」ことと「執行する人を決める」ことをセットで考えるのが安心です。遺言執行者を置くことで、書いた内容が確実に実現され、家族が余計な手間や争いに巻き込まれるリスクを減らせます。
成年後見や家族信託と組み合わせる
遺言執行者は亡くなった後に効力を発揮する仕組みですが、備えは「生前」から始めることが大切です。
- 認知症のリスクがあるなら 成年後見制度
- 財産の管理を柔軟に進めたいなら 家族信託
これらを組み合わせることで、生前から亡くなった後まで切れ目のない対策が可能になります。
たとえば「生前は家族信託で不動産管理を任せ、死後は遺言と執行者で確実に承継」という流れを取れば、安心感はぐっと高まります。
まずは「相談」から始める
「遺言を書くのはまだ早い」と思う方も多いでしょう。けれども、相続や遺言の準備は早ければ早いほど選択肢が広がるものです。
判断能力がしっかりしているうちに考えておけば、本人の意思を十分に反映できますし、家族も準備がしやすくなります。
特に市川市のように、住宅や土地を保有している方が多い地域では、不動産の相続登記が大きな課題となります。登記の義務化も進んでいる中で、「やっておけばよかった」と後悔する前に、具体的に動き出すのが得策です。
初めての方におすすめなのは、専門家への初回相談です。
行政書士や司法書士などが行う相談は、現状の財産や家族関係を整理する良いきっかけになります。相談の場で「遺言執行者は指定すべきか」「誰に任せればよいか」を一緒に考えることで、自分たちに合った最適な方法が見つかるでしょう。
行動することが最大のトラブル回避策
相続に関するトラブルは、「知らなかった」「準備していなかった」ことから始まります。遺言執行者を指定するかどうかを考えること自体が、すでに大きな一歩です。
- 遺言書を作る
- 遺言執行者を決める
- 必要に応じて成年後見や家族信託を組み合わせる
この3つの流れを意識すれば、多くの家庭で起こり得る「争族」を未然に防ぐことができます。