成年後見制度とは?〜法定後見と任意後見の違い〜

成年後見制度とは?〜法定後見と任意後見の違い〜

判断能力が低下したときに権利と生活を守る制度

日本は世界でも有数のスピードで高齢化が進んでおり、65歳以上の約5人に1人が認知症またはその予備軍になると言われています。
また、知的障害や精神障害などで判断力が十分でない方も少なくありません。

こうした場合、本人は日常生活の中で次のような困りごとに直面しやすくなります。

  • 銀行の手続きや契約ができなくなる
  • 詐欺や悪質商法に巻き込まれる
  • 財産が知らない間に減っていく
  • 医療や介護の契約がスムーズに進まない

こうした問題を予防・解決するために作られたのが成年後見制度です。
本人の代わりに財産を管理し、生活や療養に関する契約などをサポートしてくれる仕組みで、法律に基づき家庭裁判所が関与します。

成年後見制度には、大きく分けて「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。
簡単に言うと、

  • 法定後見は「すでに判断能力が不十分になってから」使う制度
  • 任意後見は「まだ元気なうちに、将来のために準備しておく」制度
    です。

以下でそれぞれ詳しく見ていきましょう。

法定後見(すでに判断能力が低下している場合)

法定後見は、今まさに判断能力が低下していて、生活や財産管理に支障が出ている場合に利用する制度です。

例えば、

  • 認知症で銀行口座からお金を引き出す方法を忘れてしまった
  • 高額な契約書にサインしてしまい、家族が慌てている
  • 固定資産税の納付や家賃の支払いを忘れるようになった
    こういったケースで活用されます。

特徴と流れ

  1. 対象者
     認知症、知的障害、精神障害などにより、契約や財産管理が自力では難しくなっている方。
  2. 申立人
     本人、配偶者、4親等内の親族、検察官、市町村長など。家族以外の公的機関から申し立てられることもあります。
  3. 必要書類
     医師の診断書、申立書、財産目録など。診断書は本人の判断能力の程度を示す重要な書類です。
  4. 後見人の種類(3類型)
    • 後見(こうけん)
        判断能力が常に欠けている状態。後見人がほぼ全ての法律行為を代理可能。
    • 保佐(ほさ)
        判断能力が著しく不十分。重要な契約には保佐人の同意が必要。
    • 補助(ほじょ)
        判断能力が一部不十分。必要な範囲で同意や代理を付けられる。
  5. 職務内容
     預金や不動産の管理、年金受給の手続き、介護サービス契約など、財産と生活の両方をカバーします。
  6. 監督体制
     家庭裁判所が直接監督。後見人は定期的に財産管理状況を報告します。

たとえば、認知症で自宅を売却して介護施設に入りたい場合、後見人が代理で売却契約を行い、その代金を施設費用に充てることができます。

任意後見(将来の判断能力低下に備える場合)

任意後見は、「まだ自分で判断できる今のうちに、将来のサポート体制を契約で決めておく」制度です。

例えば、

  • 「認知症になったら、この友人に財産管理をお願いしたい」
  • 「施設に入るときは、自宅を売って費用に充ててほしい」
  • 「自分のペットの世話も含めてお願いしたい」
    こういった希望を、契約に盛り込むことができます。

特徴と流れ

  1. 対象者
     契約時点で十分な判断能力がある方。
  2. 契約方法
     本人と任意後見人となる人が公証役場で契約を結びます(公正証書必須)。
  3. 効力発生
     本人の判断能力が低下し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点からスタート。
  4. 職務内容
     契約で定めた範囲内で、財産管理や生活支援を行います。法定後見に比べ、契約内容を細かく設定できるのが大きな特徴です。
  5. 取消権
     原則なし。本人の行為を取り消す権限はありません。
  6. 監督体制
     任意後見監督人を通じて家庭裁判所が監督。

例えば、
「毎月この施設に寄付してほしい」
「自宅は売らずに貸し出して家賃収入を生活費に充ててほしい」など、本人の希望を事前に契約に反映できます。

法定後見と任意後見の違い

項目法定後見任意後見
開始時期判断能力が低下してから判断能力があるうちに契約し、将来発効
申立・契約家庭裁判所へ申し立て公正証書で契約
後見人選任家庭裁判所が選任本人が指定(監督人は裁判所選任)
本人の意思反映困難な場合が多い契約に反映できる
取消権あり(類型による)原則なし
費用申立費用・鑑定費用・報酬など公証費用・監督人報酬など

制度選びのポイント

  • 法定後見は、緊急時や既に判断が難しい場合の制度。
  • 任意後見は、将来に備えて安心を得るための制度。
  • 家族関係や財産の状況、本人の希望によって選択が変わります。

特に任意後見は、本人の意思を最大限に反映できるため、
「自分のライフスタイルや価値観を守りたい」という方には有効です。

行政書士としてできるお手伝い

当事務所では、

  • 成年後見制度の選び方
  • 任意後見契約の内容設計
  • 家族間の合意形成サポート

など、初期段階から総合的にサポートしています。
制度は複雑で専門用語も多いため、早めにご相談いただくことでスムーズに準備が進みます。