目次
「親が認知症になったら…」そのとき慌てないために
はじめて成年後見制度を考える人へ
「最近、母の物忘れが増えてきた」「銀行で手続きができなくなった」――
そんな日常の変化をきっかけに、初めて「成年後見」という言葉に出会う方は多いでしょう。
しかし、いざ調べてみると、制度の仕組みが複雑で、どこに相談すればいいのか分からない……という声をよく耳にします。
相続や遺言のように“いつかは必要になるかもしれない”と分かっていても、判断能力が低下してからでは手遅れになることもあります。
特に認知症が進行した後では、契約や遺言の作成が無効になる可能性があり、家族の想いがあっても法的にサポートできないケースが出てくるのです。
市川市でも増える「判断能力低下後の相談」
千葉県市川市では、高齢化率がすでに25%を超え、介護や財産管理に関する相談が年々増加しています。
「親が施設に入ったが、預金の引き出しや契約更新ができない」
「成年後見の申立てをしたいが、どこに相談すればよいか分からない」
――こうした相談が、地域包括支援センターや行政書士、社会福祉協議会などに寄せられています。
実際、家庭裁判所を通して後見人を選任してもらうには、申立書類の準備・診断書・戸籍類の収集など、一定の時間と費用がかかります。
そのため、「もっと早く知っておけば…」と後悔するご家族も少なくありません。
後見制度は“他人事”ではない
成年後見制度は、認知症や知的障がいなどで判断能力が十分でなくなった方を、法律的に支援するための仕組みです。
家族の中で誰かが病気や事故により意思表示が難しくなったとき、代わりに財産を守り、契約や支払いを行う人を定める――それが「後見人」です。
「まだ元気だから関係ない」と思っていると、いざというときに預金が動かせず、施設の入所費や医療費の支払いに困ることもあります。
つまり、成年後見制度は“老後の安心”を支える保険のような存在なのです。
家族の負担を減らすために、今からできる準備
もし親が判断能力を失ってから慌てて後見を申し立てるよりも、元気なうちに任意後見契約や家族信託を整えておくほうが、家族の時間的・精神的な負担を大きく減らせます。
「まだ早い」と思ううちが、実は最も動きやすいタイミングです。
次章では、この「成年後見制度」にはどんな種類があるのか、そして“自分に合った備え方”をどう選べばいいのかを、わかりやすく整理していきましょう。
成年後見制度とは?しくみと種類をわかりやすく解説
「もしものとき」家族を守るための法律上のサポート
成年後見制度は、認知症・知的障がい・精神障がいなどにより判断能力が十分でなくなった人を、法律的に支えるための仕組みです。
たとえば「施設入所の契約」「銀行口座の管理」「財産の売却」など、日常生活に欠かせない行為を、代わりに行う人(=後見人)を家庭裁判所が選び、支援します。
しかし「成年後見制度」と一口にいっても、実は2つのタイプがあります。
それが――法定後見と任意後見です。
両者の違いを知っておくことで、どのタイミングで何を準備すべきかが明確になります。
法定後見制度
すでに判断能力が低下したあとに使う制度
「法定後見」は、本人の判断能力がすでに低下してから、家庭裁判所を通じて後見人を選任してもらう制度です。
申立ては、本人や配偶者、親族などが行い、医師の診断書を添付して提出します。
裁判所が「後見人」を選ぶため、家族以外の弁護士・司法書士・行政書士などが選任されることもあります。
手続きには数週間~数か月かかる場合もあり、緊急時には間に合わないケースもあります。
また、後見人の報酬が発生するため、家族が「もっと早く知っていれば」と後悔することも少なくありません。
それでも、判断能力が低下した後でも安心して生活を続けられるよう、法律で守る仕組みとして非常に重要な役割を果たしています。
任意後見制度
元気なうちに「自分で決めておく」制度
一方で、「まだ判断能力があるうちに備えておきたい」という方に向くのが任意後見制度です。
これは、将来もし自分の判断能力が低下したときに備えて、信頼できる人(家族・友人・専門職など)と公正証書で契約を結ぶ制度です。
契約の内容は自由度が高く、
- 預貯金や不動産の管理
- 医療・介護サービスの契約代行
- 支払い・書類手続きの代理
など、本人の希望に合わせて設計できます。
この任意後見契約は、本人の判断能力が実際に低下し、家庭裁判所が「監督人」を選任した時点で効力が発生します。
つまり、“元気なうちに未来の安心を予約しておく”制度といえます。
家族信託や任意代理契約との違いも整理しよう
近年は、「家族信託」や「任意代理契約」など、成年後見以外の生前対策も注目されています。
それぞれの特徴を整理すると――
| 制度名 | 開始のタイミング | 主な特徴 | 監督機関 |
|---|---|---|---|
| 法定後見 | 判断能力低下後 | 家庭裁判所が後見人を選ぶ | 家庭裁判所 |
| 任意後見 | 元気なうちに契約、低下後に発効 | 自分で後見人を選べる | 家庭裁判所(監督人) |
| 家族信託 | 元気なうち | 財産の管理・承継を家族に託せる | なし(契約に基づく) |
| 任意代理契約 | 元気なうち | 判断力がある間の支援 | なし |
それぞれにメリット・デメリットがあり、「どれを選ぶか」は家族の事情によって異なります。
行政書士は、こうした契約書の作成支援や制度選択のアドバイスを通じて、家族が安心できる形を整えるお手伝いをします。
理解の第一歩は「制度の使い分け」を知ること
成年後見制度は、「誰のために、いつから使う制度なのか」を正しく理解することが大切です。
親が判断力を失ってから慌てて申立てをするよりも、元気なうちに任意後見や家族信託を検討しておくことで、家族の安心と柔軟な管理が実現します。
次章では、実際にこの制度をめぐって起きている「地域格差」に焦点を当てます。
市川市ではどんな課題があり、他の地域とどこが違うのか――その現状を見ていきましょう。
地域によってここまで違う?成年後見制度の「地域格差」
― 利用しやすさを左右する、見えない差
成年後見制度は全国共通の法律で運用されていますが、実際の使われ方やサポート体制には地域ごとの差が大きいのが現実です。
同じ制度でも「申立てがスムーズに進む地域」と「時間や費用がかかる地域」があるのです。
この“見えない格差”が、利用者の安心度や手続きのハードルに直結しています。
家庭裁判所の運用・人材確保に差がある
成年後見の申立ては、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。
市川市を含むエリアでは、千葉家庭裁判所松戸支部が管轄ですが、この裁判所の担当件数は年々増加し、審理までに時間がかかるケースもあります。
また、後見人に選ばれるのは「親族」だけでなく、「弁護士・司法書士・行政書士などの専門職」が選ばれることもあります。
ただし、専門職後見人の登録数や活動体制は地域によって異なり、たとえば都市部では経験豊富な専門職が多い一方、郊外や地方では候補者が限られ、家庭裁判所が選任に時間を要することもあります。
こうした人材面の違いが、実質的な支援の質やスピードに影響を与えているのです。
後見人の報酬や費用補助にも地域差
後見人の報酬は、本人の財産額や業務内容をもとに裁判所が決定します。
目安として月1~3万円程度が多いとされますが、実は地域によって相場や補助制度に違いがあります。
たとえば、市区町村によっては「成年後見制度利用支援事業」として、低所得の方に後見人報酬の一部を助成する制度を設けているところもあります。
しかし、千葉県内でも市川市・船橋市・松戸市などで補助の有無や対象基準が異なり、「同じ県内でも、住む場所によって利用のしやすさが変わる」という現状があります。
市民後見人の養成・活躍状況の違い
後見人不足を補う仕組みとして「市民後見人」の育成が進められています。
これは、専門職ではなく、地域の一般市民が一定の研修を受け、軽度のケースを担当する仕組みです。
市川市では社会福祉協議会などが中心となり、研修を実施しているものの、登録者数はまだ十分とはいえません。
地域包括支援センターや高齢者サポートセンターと連携しながら、制度を知る市民を増やす取り組みが今後の課題です。
一方で、自治体によっては、行政と専門職会が協働して“地域後見ネットワーク”を整備し、相談から後見人紹介までの流れを一本化している地域もあります。
こうした取り組みの差が、実際の利用格差を生んでいるといえるでしょう。
「制度がある」だけでは足りない現実
成年後見制度は、制度そのものよりも“どう支えるか”で差が出ます。
市川市のように都市部に隣接し、人口が多く相談件数も多い地域では、行政・専門職・地域団体が連携しなければ支援が追いつかなくなります。
制度を活かすには、
- 専門職の担い手を増やすこと
- 市民後見人を地域に根づかせること
- 行政の補助や窓口のわかりやすさを高めること
が欠かせません。
次章では、市川市を例に「支援のすき間」をどう埋めていくのか、地域連携のあり方を掘り下げていきます。
市川市で見える「支援のすき間」と地域連携の必要性
― 制度があっても“届かない人”をどう支えるか
成年後見制度をめぐる課題の中で、もっとも深刻なのが「支援のすき間」です。
制度そのものは存在しても、必要とする人に情報や支援が届かず、利用できない――。
これは全国共通の課題ですが、人口の多い市川市でも例外ではありません。
市川市の高齢化と相談ニーズの現状
市川市は東京都心から電車で20分圏内という利便性の高さから、高齢者の単身・夫婦のみ世帯が年々増加しています。
市の統計によれば、65歳以上の高齢化率は25%を超え、今後さらに上昇が見込まれます。
高齢者サポートセンター(地域包括支援センターを兼務)が市内に複数設置され、介護・福祉・医療などの相談が日々寄せられています。
しかし、そこで「判断能力の低下」「預金管理が難しい」「親族が遠方にいる」などの話を聞いても、成年後見制度の具体的な説明や申立て支援につなげるまでに時間がかかるケースが多いのです。
つまり、「気づいても制度に乗せられない」――これが支援のすき間の正体です。
専門職・行政・地域団体の連携は進んでいるか
市川市では、社会福祉協議会を中心に「成年後見制度利用支援事業」や「市民後見人養成講座」などが行われています。
行政書士や司法書士、弁護士といった専門職も関与し、後見人候補者として活動しているものの、実際には各団体の連携が十分とはいえません。
- 行政窓口は制度説明が中心で、個別相談には踏み込みにくい
- 社協は助成制度を担うが、専門職との橋渡しが難しい
- 専門職は個別対応に追われ、地域啓発までは手が回らない
このように「それぞれが役割を果たしているのに、つながっていない」状態が多く見られます。
結果として、市民から見ると「どこに相談すればいいのか分からない」という状況に陥りやすいのです。
市民後見人の定着と育成の課題
市民後見人制度は、地域で支え合う仕組みとして注目されています。
しかし、市川市における登録者数はまだ限られており、実際に活動している人も少数です。
市民後見人の養成講座を受けても、その後のフォロー体制や実務支援が弱いと、活動継続が難しくなります。
他地域では、行政・社協・専門職会が合同で「地域後見支援センター」を設置し、相談・マッチング・報酬管理まで一体的に行う取り組みが始まっています。
市川市でも、こうした“中間支援機能”の強化が求められています。
「制度を知らせる人」を増やすことが第一歩
成年後見制度を広げるには、制度そのものの改善だけでなく、“制度を説明できる人”を増やすことが欠かせません。
たとえば――
- 包括支援センター職員が基本的な制度理解を共有する
- 民生委員・ケアマネジャーが制度紹介の「初期相談窓口」になる
- 専門職が地域講座や勉強会で分かりやすく制度を伝える
こうした地道な活動が、制度を身近に感じてもらうための鍵になります。
「相談先が分からない」という不安を減らすだけで、利用率は大きく変わるのです。
連携の質が“支援の格差”を埋める
市川市のような都市近郊では、支援団体も専門職も一定数存在します。
それでもなお「支援のすき間」が残るのは、情報共有と連携の不足に原因があります。
制度の理解を深め、地域のつながりを強化すること――
それが、今後の成年後見制度を持続可能にするための最大の課題といえるでしょう。
次章では、こうした地域格差をふまえたうえで、「後悔しないために今できる3つの準備」を具体的に紹介します。
第5章 後悔しないために今できる3つの準備
― 「判断力があるうち」が、いちばん動きやすいとき
成年後見制度を理解しても、「今すぐに何かをしなければ」と思う人は多くありません。
しかし、判断能力の低下はある日突然訪れることがあります。
準備のタイミングを逃すと、思い描いた形で財産を守ったり、希望どおりの生活を続けたりするのが難しくなることも。
ここでは、今のうちにできる3つの具体的な備え方を紹介します。
① 家族で“もしも”を話し合う
― まずは想いを共有することから
成年後見や相続の手続きは、法律の話に聞こえますが、本質は「家族のコミュニケーション」です。
親がどんな暮らしを望んでいるのか、財産をどのように使いたいのか――。
こうした話を元気なうちに話し合っておくことで、判断能力が衰えた後でも家族が迷わず行動できます。
特に市川市のように、遠方に住む家族や単身高齢者が多い地域では、定期的な連絡・情報共有の仕組みをつくることが安心につながります。
「話すタイミングがない」と感じる場合は、年末年始や帰省時に「エンディングノート」などを一緒に見ながら話題にするのもおすすめです。
② 任意後見契約・家族信託で柔軟に備える
― 自分で選び、自分で決めるための制度
判断能力があるうちに準備しておける制度として、代表的なのが任意後見契約と家族信託です。
任意後見契約は、公正証書で信頼できる人に将来の支援を委ねる制度。
家族信託は、財産の管理や運用を家族に託し、柔軟に承継していける仕組みです。
どちらも「家庭裁判所の監督下で安全に運用できる」「自分で契約内容を決められる」という点が大きな特徴。
相続や遺言よりも前の段階――“生前対策”としての備えに位置づけられます。
行政書士は、これらの契約書作成を法的にサポートできる専門職です。
まだ制度のイメージがつかめない段階でも、
「こういうときに備えておきたい」という希望を整理するところから相談できます。
③ 相談できる場所・人を早めに見つけておく
― “制度を知っている人”が身近にいる安心感
成年後見制度は、知識がなければ複雑に見えます。
しかし、相談先を知っているだけで不安は半減します。
市川市には、
- 高齢者サポートセンター(地域包括支援センター)
- 社会福祉協議会(制度利用支援事業・助成制度あり)
- 行政書士・司法書士・弁護士などの専門職相談
など、複数の窓口があります。
「どこに行けばいいか分からない」ときは、まず高齢者サポートセンター(地域包括支援センター)に電話してみると良いでしょう。
専門職との連携も進んでおり、必要に応じて家庭裁判所や社協への橋渡しも行ってくれます。
備えは「家族への思いやり」
成年後見制度は、認知症や高齢化にともなう現実的な課題に向き合うための仕組みです。
けれども制度の本質は、家族の安心を守ることにあります。
話し合い・契約・相談――どれもすぐに始められる第一歩です。
「まだ早い」と思っている今こそ、最も柔軟に備えを整えられるタイミング。
制度を正しく理解し、行動に移すことで、将来の不安を“安心”に変えることができます。
📌 次の一歩(読者向け案内)
- 市川市内の成年後見・任意後見・家族信託の相談は、地域包括支援センターまたは行政書士へ。
- 初回相談で「何から始めればいいか」を一緒に整理するだけでも大丈夫。
- 早めの準備が、家族全員の安心と時間を守ります。

