目次
「相続放棄」って、どういうときに考えるもの?
そもそも「相続放棄」とは
相続放棄とは、亡くなった方(被相続人)の財産を一切受け取らない、という法的な手続きのことです。
ここでいう「財産」には、現金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金や滞納税金などのマイナスの財産も含まれます。
つまり、相続放棄をすることで、「負の遺産」も一緒に引き継がないようにすることができるのです。
よくあるきっかけは「突然の訃報」
相続放棄を検討するきっかけの多くは、ある日突然の知らせです。
たとえば、疎遠だった親族の死亡通知が届き、「あなたが相続人になっています」と知らされるケースがあります。
亡くなった方の財産状況がよくわからないまま時間が経ってしまい、気がついたら多額の借金まで背負うことになる……そんなリスクもあります。
想定されるリスクと判断の難しさ
財産の内容が不明なまま相続を受けると、あとから思いがけない負債が発覚することもあります。
たとえば、
- 借入金や連帯保証
- 固定資産税がかかる不動産
- 管理費が滞納されたマンション
こうした「見えない負債」も、相続人が引き継ぐことになるため、慎重な判断が欠かせません。
また、相続放棄は「財産を受け取らない」というだけの行為ではなく、家庭裁判所への申述(申立て)が必要な正式な手続きです。単に「私は相続しません」と親族に伝えるだけでは、法的な効力はありません。
生前対策との関係も重要
実は、こうしたトラブルの多くは、生前の準備で未然に防ぐことができます。
たとえば、
- 遺言を作成して財産の承継先を明確にしておく
- 成年後見制度や家族信託で管理体制を整える
といった対策があれば、相続放棄を検討するような事態に至らないケースも少なくありません。
市川市でも、高齢の親の財産管理や相続をめぐる相談は年々増えています。親が元気なうちから話し合いを始めることで、子世代の負担を大きく減らすことができます。
まずは「知ること」から始めよう
「相続放棄」という言葉にまだピンと来ない方でも、親や身内の高齢化が進むなかで、誰にとっても無関係ではないテーマです。
いざというときに慌てず判断できるよう、制度の基本と手続きを知っておくことが、最初の一歩になります。
よくある相続放棄のきっかけと注意点
相続放棄は「珍しい手続き」ではない
「相続放棄」と聞くと、特別な事情のある人だけが行うものだと思われがちです。
しかし実際には、身近なきっかけから手続きを検討する人が多くいます。
借金や税金、不動産の維持費などを含めた“負の遺産”が絡むケースでは、むしろ放棄の選択肢が重要になることもあるのです。
借金や滞納税金が見つかるケース
相続後に「知らなかった借金」が発覚
相続放棄の相談で特に多いのが、「亡くなった親が借金を抱えていた」ケースです。
たとえば、
- 消費者金融やクレジットの未返済
- 連帯保証人になっていた契約
- 固定資産税や住民税の滞納
こうした負債は、相続人に引き継がれることになります。
早期の情報収集がカギ
亡くなった直後は気持ちの整理も追いつかず、財産の全容を把握するのは簡単ではありません。
それでも、できるだけ早く通帳や書類を確認し、借入状況や滞納の有無を調べることが大切です。
特に、銀行口座・税金・公共料金・クレジットカードなどは、見落としがちなポイントです。
不動産が「負の遺産」になるケース
管理費・税金の負担が重くのしかかる
たとえ資産価値がある不動産でも、実際には固定資産税や管理費、修繕費などが発生します。
住む予定のない家や、老朽化した建物、売却しづらい土地がある場合、相続人にとって大きな負担になることがあります。
複数人での共有がトラブルの種に
さらに、不動産を複数の相続人で共有したまま放置すると、処分や管理の合意が取れず、長期のトラブルに発展することも珍しくありません。
このような事情から、「財産を受け取るより放棄を選んだほうがいい」と判断されるケースもあります。
相続人が複数いるときの落とし穴
放棄=自分だけでは終わらない
相続人が複数いる場合、1人が相続放棄をすると、その分の権利は他の相続人に移ります。
たとえば、長男が相続放棄をすると、次男や孫に相続権が移ることがあるため、「放棄したからもう関係ない」とはならないのです。
家族間での調整が重要
放棄によって他の相続人に負担が移るため、事前に家族間で情報を共有し、調整を図ることが望まれます。
「勝手に放棄されて困った」というトラブルも少なくありません。
「3か月ルール」に注意
熟慮期間を過ぎると放棄できない
相続放棄は、相続の開始を知ったときから3か月以内に家庭裁判所へ申述(申立て)を行う必要があります。
この期間を過ぎてしまうと、原則として放棄は認められず、自動的に相続を承認したとみなされます。
期限管理が最初のハードル
「葬儀や手続きに追われているうちに期限を過ぎていた」というケースは少なくありません。
早い段階で財産状況を調べ、放棄の必要性を判断することが大切です。
早めの相談がリスク回避につながる
相続放棄は感情的な問題と法律的な判断が入り交じるため、迷っているうちに時間が過ぎてしまいがちです。
まずは事実関係の整理と、法的な手続きの確認から始めることで、家族への負担を最小限に抑えることができます。
市川市でも近年、「相続トラブルを避けたい」という相談が増えており、早めの情報収集と専門家の活用が有効な手段となっています。
相続放棄の仕組みと手続きの流れ
「相続しません」と言うだけでは放棄にならない
相続放棄は、「財産はいりません」と親族に伝えれば済む話ではありません。
法律上、正式な手続きを経なければ、放棄したことにはならないのです。
実務では、家庭裁判所に「相続放棄の申述(申立て)」を行い、受理されてはじめて効力が生じます。
「口約束」や「遺産分割協議で取り分をゼロにしただけ」では、法的な放棄にはならず、のちに負債の請求が来る可能性もあります。
ここを誤解してトラブルになるケースは、実務でも非常に多いポイントです。
家庭裁判所での申述手続き
手続き先は被相続人の住所地の家庭裁判所
相続放棄の申述は、被相続人(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。
たとえば被相続人が市川市に住んでいた場合は、千葉家庭裁判所市川支部が管轄となります。
申述書と必要書類
申述にあたっては、「相続放棄申述書」を作成し、下記のような書類を添付します。
- 被相続人の死亡がわかる戸籍謄本
- 相続人であることがわかる戸籍謄本
- 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
- 収入印紙(800円)と郵便切手(裁判所による)
記載内容に不備があると補正を求められるため、書き方や添付書類は慎重に確認する必要があります。
申述の期限と注意点
3か月の熟慮期間
相続放棄の申述には期限があり、相続が発生したことを知った日から3か月以内が原則です。
この期間を過ぎると放棄はできず、負債を含めてすべての財産を相続したとみなされる可能性があります。
特別な事情で延長できる場合も
やむを得ない事情がある場合には、熟慮期間の延長を申し立てることも可能です。
ただし、裁判所の許可が必要であり、必ずしも認められるとは限りません。
「忙しくて間に合わなかった」では通らないため、早めの判断が重要です。
申述後の流れと効力
裁判所からの照会書への回答
申述書を提出すると、家庭裁判所から「照会書」が送付されます。
これは、放棄の意思が本当に本人の自由意思によるものか、財産を処分していないかなどを確認するものです。
これに回答し、裁判所が内容を審査したうえで、放棄が受理されると「相続放棄申述受理通知書」が交付されます。
放棄が認められると…
放棄が受理されると、相続開始時点からさかのぼって、最初から相続人ではなかったものとみなされます。
つまり、債権者から借金の返済を求められることもなくなります。
相続放棄とその他の手続きの関係
相続登記との関係
相続放棄をしても、不動産の名義が自動的に処理されるわけではありません。
他の相続人との調整が必要になる場合もあるため、登記や管理については別途対応が必要です。
役所・金融機関などとの手続き
放棄が受理されたあとも、金融機関・役所・保険会社などに対しては手続きが必要になる場合があります。
たとえば、預貯金の解約や公共料金の名義変更などです。
「放棄したから何もしなくていい」と思い込むと、後で家族にしわ寄せがいくこともあります。
放棄は「申述」から始まる
相続放棄は、法律上の正式な手続きを経てはじめて効力を持ちます。
感情的な判断だけで進めると、思わぬ債務やトラブルが残ってしまうこともあります。
期限と書類、裁判所とのやりとりを意識して、早めに動くことがとても大切です。
放棄した人・しなかった人で違いが出る!相続人の関係性とトラブル回避
放棄すると「相続人ではなかった」扱いになる
相続放棄が受理されると、法律上、その人は最初から相続人ではなかったものとみなされます。
たとえば、兄弟3人が相続人だった場合、長男が放棄すると、残りの次男・三男がその分の遺産や負債を引き継ぐことになります。
つまり、放棄をした本人は一歩引いた立場になり、以後の遺産分割協議にも関与できません。
放棄によって他の相続人に権利が移る
放棄をすることで、自分の相続分は他の相続人に移ります。
このとき注意が必要なのが、「放棄したからもう完全に関係ない」というわけではない、という点です。
たとえば、次のようなケースが起こり得ます。
- 自分は放棄したが、残った相続人から「固定資産税の支払いをどうするか」と相談される
- 共有名義の不動産を他の相続人が処分できず、協議が長引く
- 次順位の相続人(自分の子どもなど)に権利が移り、思いがけず巻き込まれる
家族間での調整が不可欠
「放棄=他の誰かに責任が移る」という現実
相続放棄は、誰かが放棄すればそれで問題が終わる、という単純な話ではありません。
放棄する人がいれば、その分の負担は他の相続人が引き継ぎます。
つまり、放棄を検討するときは、「自分が放棄した後、誰に権利や負担が移るのか」をしっかり考える必要があります。
放棄前に家族会議を
「誰が相続するのか」「不動産や負債をどう扱うのか」を家族間で共有し、方向性をすり合わせておくと、後のトラブルを防ぎやすくなります。
実際、市川市でも「兄が勝手に放棄して困った」という相談は少なくありません。
身内のことだからといって曖昧にせず、書面や話し合いの記録を残すことも有効です。
次順位の相続人に負担が移るケース
相続の連鎖に注意
相続放棄をすると、その権利は他の相続人に移ります。
相続人がいない場合は、次順位(たとえば兄が放棄した場合は兄の子ども=甥や姪など)に相続権が移ることがあります。
つまり、自分の子どもに思いがけず負債のリスクが及ぶこともあるのです。
「放棄して終わり」ではない
このように、放棄をすることで一時的には自分の負担がなくなっても、家族や次の世代に影響が出る可能性があります。
とくに住宅ローンの残った不動産や借入金がある場合には注意が必要です。
不動産をめぐるトラブルの典型例
誰も管理しない「空き家」が残る
よくあるのが、不動産の管理責任を誰も負わないまま、空き家や空き地が残ってしまうケースです。
放棄した人は関与できず、残った相続人も処分に困り、結局何年も放置されることがあります。
結果的に家族全員が困ることに…
放置された不動産は、固定資産税が発生し続けます。
また、老朽化による倒壊リスクや近隣トラブルに発展することもあり、結果的に家族全員が困ることになってしまいます。
トラブルを避けるために
早い段階で「共有認識」をつくる
相続放棄を検討する段階で、財産と負債の全体像を把握し、家族で方向性を話し合うことが重要です。
放棄をするかどうかは、個人の判断であると同時に、家族全体の問題でもあります。
必要に応じて専門家を交える
相続人の数が多い場合や不動産が絡む場合は、早い段階で行政書士や司法書士、弁護士などの専門家に相談することで、法的な整理と家族間の調整をスムーズに進めることができます。
放棄は「家族の問題」でもある
相続放棄は、個人が自分の負担を軽くするだけの行為ではなく、残された家族全体に影響を与える行為です。
放棄した人としなかった人で、立場も責任も大きく変わるため、事前の調整と共有が不可欠です。
「誰が何を引き継ぐのか」を冷静に整理することが、争いを避ける大きな一歩となります。
相続放棄を検討するときに知っておきたい3つのポイント
「放棄するかどうか」は時間との勝負
相続放棄は、思い立ったときにいつでもできるものではありません。
法律上、「相続の開始を知ったときから3か月以内」という期限が定められています。
葬儀や役所の手続きなどで気づけば時間が経っていた、というケースは少なくありません。
相続放棄を検討するなら、まずはこの「時間の制約」を強く意識することが大切です。
① 熟慮期間(3か月)を過ぎると放棄できない
期限を過ぎると「単純承認」に
熟慮期間を過ぎてしまうと、相続放棄は原則できなくなります。
この場合、自動的に「単純承認」=すべての財産を相続したとみなされるため、借金や滞納税金も引き継ぐことになります。
「知らなかった」では済まされない点が、制度上の大きな特徴です。
延長申立てもできるが、条件付き
特別な事情がある場合は、家庭裁判所に期間延長の申立てが認められることもあります。
ただし、認められるかどうかはケースバイケース。
「間に合わなそう」と感じた時点で、すぐに行動することが重要です。
② 放棄すると「次順位」に影響が及ぶ
自分の放棄が、他の相続人に波及する
自分が放棄した場合、その相続分は他の相続人や次順位(たとえば自分の子ども)に移ります。
たとえ本人が放棄しても、子どもや兄弟姉妹に負債のリスクが及ぶ可能性があるため、放棄=完全に無関係になるわけではありません。
家族全体での判断が不可欠
相続放棄を検討する際は、「自分が放棄したら、誰に影響が出るのか」を確認することがとても大切です。
事前に家族で話し合っておけば、想定外のトラブルを防ぐことができます。
③ 専門家に早めに相談する
手続きのハードルを下げる
相続放棄は、家庭裁判所への申述(申立て)が必要です。
「書類を出せば終わり」というほど単純ではなく、照会書への回答や不備対応なども発生します。
慣れていない方が独力で進めようとすると、時間をロスして期限を過ぎてしまうことも珍しくありません。
実務と家族調整の両方に強いサポートを
行政書士や司法書士、弁護士などの専門家に早めに相談すれば、手続き面の不安を減らすだけでなく、家族間の調整や他の制度(遺言・成年後見・家族信託など)も含めた整理が可能になります。
とくに市川市などの地域では、高齢化に伴い相続相談の需要が増えているため、早期相談は大きな安心材料になります。
相続放棄とあわせて検討したい「生前対策」
遺言・家族信託でトラブルを未然に防ぐ
相続放棄は、相続が発生したあとに検討する手続きです。
一方で、生前に対策しておけば、そもそも放棄の必要がないケースも多くあります。
たとえば…
- 遺言書を作成し、財産の承継先を明確にする
- 家族信託で管理体制を整える
- 成年後見制度を活用して判断能力低下に備える
といった準備をしておくと、相続の混乱を大きく減らせます。
相続は「事後対処」ではなく「事前準備」へ
「相続放棄=最後の手段」と考えるよりも、日頃から親世代と話し合い、生前対策を進めることで、家族全体の負担を軽くすることができます。
放棄は「判断と行動」のスピードが大切
相続放棄は、制度を正しく理解し、期限を守って行動すれば、不要な負担を避けるための有効な手段です。
一方で、先延ばしにしてしまうと、家族に負担が波及したり、取り返しがつかなくなることもあります。
- 熟慮期間(3か月)を意識する
- 家族に影響することを理解する
- 早めに専門家に相談する
この3つを押さえることで、余計なトラブルを防ぎ、家族にとって納得のいく選択がしやすくなります。
📌 補足
市川市周辺でも「相続放棄を検討したい」という相談は増加しています。
とくに負債や不動産が関係するケースでは、早い段階での情報収集と専門家のサポートが有効です。
必要であれば、遺言・家族信託・成年後見といった制度も組み合わせて、より安心できる相続対策を進めましょう。

