目次
うちの孫にも相続権があるの?──よくある誤解と不安
親の相続をきっかけに初めて聞く「代襲相続」
「うちの財産を相続するのは、子どもたちだけ」と思っていたら、
「亡くなった長男の子(孫)が相続人になりますよ」と言われてびっくり。
こんな話、決して珍しくありません。
相続の場面では、亡くなった人(被相続人)の子どもが先に亡くなっている場合、その子の子ども――つまり孫――が代わりに相続人になることがあります。
これが「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」と呼ばれる仕組みです。
多くの人はこの制度を初めて聞いたとき、
「なぜ孫が相続人になるの?」
「うちの子たちで分ける話じゃないの?」
と混乱します。
実はこの“想定外”が、あとあと大きなトラブルにつながることもあるのです。
兄弟姉妹の間で「不公平感」が生まれやすい背景
代襲相続が絡むと、遺産分割の話し合いに「孫」や「甥・姪」が参加することになります。
すると、相続人の数が増えるだけでなく、兄弟姉妹のあいだに微妙な温度差や不公平感が生じやすくなります。
たとえば──
・亡くなった兄の子ども(孫)が相続分を主張してくる
・疎遠な親族との連絡が取りづらい
・相続人のあいだで「取り分」に差が出る
このようなケースでは、「話し合いがまとまらない」「感情のもつれで関係が悪化する」という事態にもなりかねません。
制度を知らないまま相続が始まってしまうと、「なんで今さら孫が?」と戸惑うのも無理はないのです。
「遺言がないまま」相続が起こったときに起きやすい混乱
代襲相続そのものは法律で決まっていることなので、避けることはできません。
しかし、遺言や生前対策がまったくないまま相続が発生すると、話は複雑になります。
遺産分割協議の席に、疎遠だった孫が現れる。
あるいは、連絡先がわからず手続きが進まない。
不動産の名義変更(相続登記)が止まってしまう。
こうしたトラブルは、いわば「制度を知らなかった」ことから生まれる典型例です。
代襲相続が関係する家庭では、相続人が想定より多くなる可能性があるため、早めの準備と理解が重要になります。
想定外を「想定内」に変える第一歩
「うちの孫にも相続権があるなんて思ってもみなかった」。
こう感じる人はとても多いです。
ですが、制度を正しく知っておけば、焦る必要はありません。
まずは代襲相続の仕組みを理解し、「もしものとき」に備えることが、相続トラブルを防ぐ第一歩です。
次章では、この「代襲相続」の法律上の仕組みを、初心者でもわかるようにやさしく解説します。
✅ この章のポイント
- 「代襲相続」とは、亡くなった子に代わって孫が相続人になる制度
- 相続人の数が増えることで、不公平感や話し合いの難しさが生じやすい
- 早めの理解と準備が、トラブルの予防になる
代襲相続の仕組み──「孫が相続人になる」法律上のルール
「代襲」とは何かをわかりやすく解説
代襲相続(だいしゅうそうぞく)とは、本来相続人になるはずだった人が相続開始前に亡くなっていた場合に、その人の子どもが代わって相続人になることをいいます。
たとえば、父が亡くなったとき、長男もすでに亡くなっていたとします。
この場合、長男の子(孫)が、長男に代わって父の財産を受け継ぐ立場になる──これが代襲相続の基本的な考え方です。
「孫にも相続権がある」というと驚かれる方が多いのですが、これは特別なケースではなく、民法で定められた正式なルールです。
民法上の相続順位と代襲の位置づけ
代襲相続を理解するには、まず「法定相続人の順位」を押さえておく必要があります。
相続人の順位は、以下のように民法で定められています。
- 第1順位:子(孫)
- 第2順位:父母など直系尊属
- 第3順位:兄弟姉妹
配偶者は常に相続人になりますが、上記の順位と組み合わせて相続分が決まります。
そして第1順位の「子」が亡くなっている場合、その子ども(孫)が代わって相続します。
同じように、第3順位の兄弟姉妹が亡くなっている場合は、その甥・姪が代襲相続人になることもあります。
つまり代襲相続は、「相続順位をそのまま引き継ぐ制度」といえます。
どんなときに孫や甥姪に相続権が移るのか
代襲相続が起こる典型的なケースには、次のようなものがあります。
- 被相続人(親)が亡くなったとき、子ども(長男・次男など)がすでに他界している
- 子どもが被相続人より先に亡くなっていた
- 子どもが相続開始前に相続欠格(重大な非行による相続権の喪失)になっていた
- 子どもが相続放棄した場合(※この場合は代襲相続は起こりません)
特に注意が必要なのが最後の項目です。
「相続放棄」は代襲相続の対象外です。
つまり、親が相続放棄をしたからといって、その子(孫)に相続権が移ることはありません。
ここを勘違いしてしまい、あとから「孫に権利があると思っていた」とトラブルになるケースも少なくありません。
代襲相続の相続分は「本来の取り分」と同じ
もうひとつ重要なのは、「代襲相続人の相続分」は本来の相続人が受け取るはずだった取り分と同じになるということです。
たとえば、相続人が子ども3人だった場合、法定相続分はそれぞれ3分の1ずつです。
もし長男が亡くなっていて、孫が代襲相続するなら、その孫が長男の3分の1を受け継ぎます。
孫が複数いる場合は、その3分の1をさらに孫同士で分けることになります。
👉 相続人が増えると、話し合いの難易度が上がるのはこのためです。
制度を知ることで「慌てない」相続準備を
代襲相続は、特別な事情がなくても起こりうるごく一般的な制度です。
とくに高齢化が進む今、親より先に子が亡くなるケースは珍しくありません。
「うちの家族には関係ない」と思っていた家庭でも、いざ相続が始まると、孫や甥姪が登場して話し合いが複雑になることがあります。
制度の基本を押さえておけば、突然の相続でも慌てることなく、冷静に話を進めることができます。
次章では、この代襲相続が実際の相続協議でどんなトラブルを招きやすいのか、実例を交えて紹介します。
✅ この章のポイント
- 代襲相続は、亡くなった人の子に代わって孫や甥姪が相続人になる制度
- 「相続放棄」は代襲相続の対象外なので注意
- 代襲相続人の取り分は、本来の相続人と同じ割合になる
よくあるトラブルと実例──遺産分割協議で揉めるポイント
「会ったこともない孫」と協議しなければならない?
代襲相続が絡む相続では、相続人の数が増えるという特徴があります。
たとえば──
- 兄弟姉妹が4人
- 長男はすでに亡くなっている
- 長男の子ども(孫)が2人いる
この場合、相続人は「次男・三男・長女・孫2人」の合計5人です。
本来なら4人で話し合うはずだった遺産分割協議に、まったく別世帯の孫2人が加わることになります。
「疎遠な親族」「顔を合わせたこともない孫」など、距離感のある人との協議が必要になると、それだけで話し合いのハードルが上がります。
単なる法的な権利だけでなく、感情のすれ違いがトラブルの火種になることも少なくありません。
連絡が取れない相続人がいるケース
現場で非常に多いのが、「相続人のうち誰かと連絡が取れない」というケースです。
特に代襲相続では、孫がすでに別の地域に住んでいたり、疎遠だったりすることが多いため、所在調査や戸籍の収集から始める必要が出てきます。
このとき、1人でも署名・押印がそろわないと、遺産分割協議書は完成しません。
相続登記や銀行手続きが進まず、財産の名義変更が何年も止まってしまうこともあります。
「ひとりの相続人が見つからない」
「返事をもらえない」
──それだけで、相続全体がストップすることがあるのです。
相続登記が進まない、手続きが止まる背景
2024年から、相続登記は義務化されました。
相続が発生したら、3年以内に登記を完了しなければなりません。
しかし、代襲相続人が複数いると、次のような事態になりがちです。
- 相続人が多すぎて話し合いがまとまらない
- 孫の連絡先がわからない
- 手続きの優先順位がバラバラ
- 代表者が決まらず、印鑑が集まらない
こうなると、登記義務違反による過料の可能性も出てきます。
しかも、時間がたつほど相続人がさらに増え、事態が複雑化してしまうのが厄介な点です。
感情のもつれが争いを深める
相続のトラブルは、必ずしも「金額の多さ」だけで起きるものではありません。
むしろ多いのは、「納得感の違い」や「一方的に進められたと感じた」ことによる感情的な対立です。
代襲相続では、
「なぜ疎遠だった孫が相続するのか」
「長年世話をしてきたのは自分だ」
といった不満が噴き出すケースが少なくありません。
いったん感情がこじれると、わずかな財産をめぐって裁判になることもあります。
これは、代襲相続を知らなかったことによる“すれ違い”が根底にあることも多いのです。
制度と感情、両方を見据えた準備が大切
代襲相続が絡む相続は、「法的な手続きの複雑さ」と「家族間の感情」という2つの要素が重なります。
相続人が増えるほど、調整に時間と労力がかかるため、放置すればするほど大きな問題に発展する可能性があります。
早めに制度を理解し、「誰が相続人になるか」を明確にしておくことで、話し合いのトラブルを減らすことができます。
次章では、こうしたトラブルを防ぐために有効な「遺言」や「家族信託」「成年後見制度」といった対策を具体的に紹介します。
✅ この章のポイント
- 代襲相続が絡むと相続人が増え、話し合いが複雑化する
- 連絡が取れない相続人がいると、登記や手続きが止まる
- 感情のもつれが法的トラブルをさらに深刻化させる
トラブルを防ぐための3つの準備──遺言と生前対策の活用
遺言書で「誰に何を渡すか」を明確にする
代襲相続をめぐるトラブルの多くは、「何も決めていなかった」ことから始まります。
たとえ仲の良い家族であっても、相続が始まった瞬間、法定相続分という“数字のルール”が優先されます。
「自分の意向がまったく反映されない」という事態も珍しくありません。
そこで有効なのが、遺言書です。
遺言書には、「誰に、どの財産を、どのような割合で渡すか」を明確に記すことができます。
もし遺言書があれば、相続人の間で揉める余地が大きく減り、孫や甥姪が代襲相続する場合でも、あらかじめ整理された形で相続が進む可能性が高まります。
特に、不動産など分けにくい財産がある場合には、遺言書の有無が手続きのスピードを大きく左右します。
👉 「亡くなったあとに家族が争わないようにしたい」という方ほど、遺言の準備は早いほど安心です。
家族信託で柔軟な財産管理を設計する
「財産の管理や承継を、もっと柔軟にコントロールしたい」
そんなときに活用できるのが家族信託です。
家族信託とは、信頼できる家族に財産の管理・運用を託し、契約によって承継の仕組みを設計する制度です。
たとえば──
- 親の判断力があるうちに、将来の承継先を決めておく
- 認知症発症後も、財産管理が止まらないようにする
- 孫を含む複数世代への承継計画を立てる
遺言では一代先までしか指定できませんが、家族信託を使えば二次承継以降の設計も可能になります。
たとえば「妻の死後は長男へ、その後は孫へ」というような複層的な指定も可能です。
代襲相続で想定外の相続人が出てくる前に、信託契約で承継先を定めておくことで、相続の方向性を自分でコントロールできます。
成年後見制度・任意後見契約で判断力低下に備える
相続の話は、「亡くなったあとのこと」だけではありません。
実務では、判断力が低下した段階からトラブルが始まるケースもあります。
たとえば──
- 高齢になり、財産管理ができなくなった
- 通帳や印鑑を預けていた家族間で意見が割れる
- 判断力がないため遺言書が作れない
このような事態を防ぐために活用できるのが、成年後見制度や任意後見契約です。
特に任意後見契約は、判断力があるうちに「信頼できる人に将来の財産管理を任せる」仕組みです。
これらを組み合わせることで、「認知症が進んで遺言が書けなかった」という状況を回避し、代襲相続が発生した場合でも、手続きが滞りにくくなります。
制度を「点」でなく「線」で活用する
遺言・家族信託・成年後見制度はいずれも有効な制度ですが、1つだけでは限界があります。
大切なのは、「自分の財産をどう引き継いでほしいか」という思いを複数の制度で組み合わせて守ることです。
- 遺言で最終的な意思を残す
- 家族信託で承継のルートを設計する
- 後見制度で判断力低下への備えをする
これらを「線」でつなぐことで、代襲相続による混乱や争いを大幅に減らすことができます。
制度を活用するタイミングは「いつか」ではなく、「今」が最も効果的です。
✅ この章のポイント
- 遺言書で「誰に何を渡すか」を明確にすることで争いを予防できる
- 家族信託を活用すれば、孫を含む複数世代への承継も可能
- 成年後見制度や任意後見契約で判断力低下にも備えられる
- 複数の制度を組み合わせることで、トラブルを未然に防ぐ
“孫相続”がある家庭こそ、早めの話し合いを
「想定外」を「想定内」にする準備がカギ
代襲相続は、「うちには関係ない」と思っているご家庭でも、ある日突然、現実になる可能性があります。
相続は順番どおりに起こるとは限らず、親より先に子が亡くなるケースも珍しくありません。
その結果、想定していなかった「孫」や「甥・姪」が相続人になる。
話し合いの人数が増え、手続きが長期化する。
家族の間で不公平感や感情的な対立が生まれる──
こうしたトラブルは、「制度を知らなかった」ことから生じる典型例です。
逆に言えば、制度を理解し、早めに準備しておけば“想定外”を“想定内”に変えることができるのです。
相続・遺言・成年後見をセットで考える
代襲相続の対策では、「1つの制度だけ」を使うのではなく、複数の制度をセットで考えることが重要です。
- 遺言書で「誰に何を渡すか」をはっきり示す
- 家族信託で複数世代への承継ルートを描く
- 任意後見契約などで判断力低下に備える
これらを組み合わせることで、孫が相続人になるようなケースでも、スムーズな承継と手続きが可能になります。
特に不動産や事業承継が関係する場合は、放置しておくと登記や名義変更が難航するケースが多いため、事前設計の有無が大きな分かれ目になります。
家族で話し合うことが「一番の対策」
相続対策というと「書類の準備」というイメージを持たれがちですが、最も大切なのは家族間の話し合いです。
- 「自分が亡くなったらどうなるか」
- 「孫も相続人になる可能性がある」
- 「誰が何を引き継ぐのが自然か」
こうした話題は少し勇気がいりますが、早い段階で話しておくことでトラブルの9割は防げるといわれています。
形式ばった会議でなくても構いません。
家族で「少し話してみる」ことが、実は一番効果的な相続対策です。
行政書士など専門家の活用も選択肢に
相続や代襲相続の話は、制度が複雑で「何から手をつけていいかわからない」という声もよく聞かれます。
その場合は、早い段階で専門家に相談するのも有効な方法です。
行政書士であれば、
- 相続関係説明図の作成
- 遺言書作成のサポート
- 家族信託・後見制度の活用相談
など、実務的な部分から一歩ずつ整理するお手伝いができます。
「いざ相続が始まってから」ではなく、「まだ元気なうち」に相談することで、時間にも心にも余裕を持った準備が可能です。
準備は“いつか”ではなく“今”
相続のトラブルは、金額の大小に関係なく起こります。
そして、その多くは「想定外」の事態が引き金です。
特に代襲相続は、制度を知らないと突然の相続人登場に戸惑うことになりかねません。
遺言・家族信託・後見制度、そして家族の対話を組み合わせることで、争いを未然に防ぎ、家族の関係を守ることができます。
もし「うちの場合はどうなるんだろう?」と少しでも不安があるなら、今が行動のタイミングです。
✅ この章のポイント
- 代襲相続は“想定外”になりやすいため早めの準備が重要
- 相続・遺言・成年後見をセットで考えると、複雑なケースにも対応できる
- 家族の話し合いと専門家のサポートがトラブル回避のカギ
- 相続対策は「いつか」ではなく「今」が最も効果的

