ペットの「飼い主が死んだら」どうなる?遺言でできる現実的な対策

ペットの「飼い主が死んだら」どうなる?遺言でできる現実的な対策

目次

第1章 飼い主が亡くなったあと、ペットに何が起きるのか

突然の別れのあと、最初に困るのはペット

「もし自分に何かあったら、この子はどうなるのだろう」
ペットと暮らしている方なら、一度はそう考えたことがあるのではないでしょうか。相続や遺言のご相談を受けていると、こうした不安を真剣に抱えている方が少なくありません。

飼い主が亡くなった直後は、ご家族も慌ただしくなります。お葬式、役所の手続き、銀行対応や親戚への連絡など、心身ともに負担が大きい時期です。その中で、ペットの世話にまで手が回らず、しばらく誰にも気づかれなかったという事例もあります。

法律上は「家族」ではなく「財産」

気持ちのうえでは大切な家族の一員でも、法律の世界ではペットは「動産=財産」という扱いになります。つまり、遺産の一部として誰が引き継ぐかを話し合う対象になるということです。

ところが、家族の間で引き取り手が決まっていなかったり、住まいの事情(ペット不可の物件など)やアレルギーの問題で引き取りが難しかったりすると、宙ぶらりんの状態になってしまいます。

対応が遅れると、家族間のトラブルにも

「誰が引き取るのか」「費用はどうするのか」といった話がまとまらないまま時間が経つと、家族間で責任のなすり合いが起きることもあります。相続手続きと違って、ペットの世話はすぐに対応が必要な分、精神的なプレッシャーも大きくなりやすいです。

実際に市川市内でも、ご家族が対応に悩んで動物病院や行政に相談されるケースを耳にします。これは誰にでも起こりうる、現実的な課題です。

事前の備えが、ペットも家族も守る

こうした問題を防ぐためには、亡くなる前の段階で「誰に託すか」「どう支援するか」を考えておくことがとても大切です。遺言を活用したり、信頼できる人にあらかじめ相談しておいたりすることで、万が一のときにもスムーズに対応できるようになります。

次の章では、遺言を使えばどんなことができるのか、逆に遺言だけではカバーしきれない点は何なのか、実際の制度とあわせて見ていきましょう。

第2章 遺言でできること・できないこと

ペットの将来を託す手段としての遺言

ペットを飼っている方からよくあるご相談のひとつが、「遺言って書いたほうがいいんでしょうか?」というものです。結論から言えば、備えとしてとても有効です。特に「誰にペットを託したいか」「飼育費用をどう準備するか」を明確にできる点は、遺言ならではの強みです。

たとえば、「妹に引き取ってもらいたい」「その際の飼育費として100万円を渡したい」といった意思を、遺言に残すことができます。これによって、ご家族が迷わず動けるようになり、ペットの暮らしも安定しやすくなります。

条件つきで財産を渡す「負担付遺贈」

遺言の中には、「財産を渡す代わりに、ペットの面倒を見てください」といった条件をつけることもできます。これを「負担付遺贈」といいます。

ただしこの方法には注意点があります。受け取る側には、条件を拒否する権利もあるため、必ずしもそのとおりに実行されるとは限らないのです。遺言で書けば万全というわけではなく、「実際に引き受けてもらえるかどうか」の確認は、やはり生前の話し合いが重要になります。

遺言の限界?世話の強制はできない

遺言はあくまで「希望を伝えるための文書」です。
たとえば、「毎日散歩に連れていってください」や「病気になったらこの動物病院へ」など、具体的な飼育の指示をしても、法的に強制力があるわけではありません。

また、受け取った財産を本当にペットのために使ってくれるかどうかは、信頼関係に大きく依存します。だからこそ、書面だけに頼るのではなく、関係性や合意づくりがとても大切です。

遺言を「機能させる」ためのちょっとした工夫

せっかく遺言を書くなら、できるだけ実効性のあるものにしたいですよね。そこでおすすめなのが「付言事項(ふげんじこう)」と呼ばれる自由記述の欄です。

たとえば、「この子は小さい頃に保護した猫で、家族のように大切にしてきました。どうか最期まで大事にしてあげてください」といった言葉を添えることで、読み手の心に届きやすくなります。これがあるかないかで、対応の温度が変わることも少なくありません。

また、信頼できる人を「遺言執行者」として指名しておくと、相続手続きがスムーズに進みやすくなります。銀行や不動産の手続きで動ける立場の人がいると、遺言の内容が現実に反映されやすくなるためです。

判断能力の低下へ備える

遺言はとても大切な手段ですが、書けるのは「元気で判断力があるうち」だけです。
もし認知症が進んでからでは、内容の有効性を疑われるリスクも出てきます。

次の章では、「判断力が落ちたあとの備え」として、成年後見制度や家族信託など、遺言とあわせて検討できる仕組みについてご紹介していきます。判断力がある今のうちに知っておくことが、後悔しない準備につながります。

第3章 判断能力が不安なときは、遺言だけに頼らない準備を

遺言は「元気なうちにしか書けない」という大前提

遺言はとても心強い手段ですが、ひとつだけ大きな前提があります。それは、「自分の判断で意思表示ができる状態」でなければ、法的に有効な遺言として認められないということです。

もし認知症が進行してから書いた場合、「本当に本人の意思だったのか?」と疑われてしまい、せっかくの内容が争いのもとになることもあります。実際に、遺言の有効性をめぐって家族が対立するケースも珍しくありません。

だからこそ、「遺言を書くにはまだ早いかな」と思っているうちに準備を進めておくことが大切です。

判断力が落ちたあとを支える「成年後見制度」

もし判断能力が低下したあとに、誰かに手続きを任せる必要が出てきた場合、使える制度のひとつが「成年後見制度」です。

家庭裁判所を通じて後見人が選ばれ、本人の代わりに財産管理や契約手続きをしてもらうことができます。ただしこの制度には、ペットの世話を直接任せる仕組みは含まれていません。あくまで「財産」や「契約」に関することが対象なので、ペットのように日々の対応が必要なものには、別の工夫が求められます。

判断力があるうちに使える「任意後見」や「任意代理契約」

将来的な判断力の低下に備えて、あらかじめ支援してくれる人と契約を結んでおく方法もあります。

たとえば「任意後見契約」では、今のうちに信頼できる人を後見人として指定しておき、いざというときに発動できるようにしておけます。
また、もっと軽い段階で使えるのが「任意代理契約」や「見守り契約」です。これらは、日常の支払い管理や見守りをお願いできるもので、ペットのフード購入や動物病院の支払いといった実務にも役立つ場面があります。

「家族信託」を使えば、柔軟な管理も可能に

もうひとつの選択肢として、「家族信託」があります。これは、財産の管理を信頼できる家族などに託して、自分の代わりに使ってもらう仕組みです。

たとえば、「ペットの飼育費として毎月2万円を信託口座から支出する」といったルールを契約で定めておくこともできます。信託は柔軟に設計できるぶん、関係者の理解と合意が必要になりますが、遺言や後見ではカバーしきれない場面に強い味方になります。

遺言+αで「もしも」に備え、ペットを守る

ここまでの内容を整理すると、ペットのための備えは「遺言だけで完結しない」ということが見えてきます。むしろ、元気なうちに遺言を書き、さらに「判断力が落ちたとき」のための仕組みも併せて考えておくことで、安心感がぐっと増します。

次の章では、こうした制度をどう組み合わせればいいのか、実際にどんなパターンで設計できるのかを、現実的な例を交えてご紹介していきます。準備は、少しずつでも大丈夫です。できることから、一緒に考えていきましょう。

第4章 引き取り先と費用の準備、3つの設計パターン

ペットを守る準備は「制度をどう組み合わせるか」

これまで、遺言・成年後見・家族信託といった制度についてご紹介してきました。ここからは、実際にどのように組み合わせて備えていくのがよいのか、現場でよく使われる3つのパターンをご紹介します。

ポイントは、「誰が引き取るのか」と「費用をどう準備するか」をセットで考えること。そして、相手の気持ちや生活の現実にもしっかり目を向けておくことです。

パターン1|信頼できる人に引き取りを依頼し、費用は遺言で準備

もっともシンプルで現実的な設計がこれです。引き取り手が明確な場合は、その人に対して遺言で「ペットを託す」という意思を残し、あわせて飼育費用も一緒に渡せるようにします。

たとえば、「〇〇にペットを譲り、あわせて飼育費として100万円を遺贈する」という形です。これだけでも、ご家族の判断がぐっと楽になります。

付言事項で、ペットとの関係や日々のケアのポイントなどを書き添えておくと、受け取る側の安心にもつながります。

パターン2|家族信託で定期的な飼育費を柔軟に

「遺言だけでは心もとない」「毎月の費用を決まった形で出せるようにしたい」という場合は、家族信託を使うという選択肢があります。

たとえば、「信頼できる長女を受託者とし、信託口座から毎月2万円をペットの飼育費として支出できるようにする」など、柔軟な設計が可能です。将来的に認知症などが進んでも、契約に沿って管理が続けられるため、遺言とはまた違う安心感があります。

ただし、信託は家族との協力や合意が前提となるため、関係性や環境を見ながら設計する必要があります。

パターン3|「第二候補」や支援団体への寄付設計

もし家族や知人に引き取り手がいない、または将来的に難しくなりそうな場合は、「第二候補」や動物福祉団体の活用を視野に入れます。

たとえば、「第一希望は妹、難しい場合は〇〇保護団体への一時預けを希望」と記載しておくことで、判断の幅が生まれます。あわせて、「団体に協力金として〇万円を寄付する」などの内容を遺言に含めておくことで、引き取りがよりスムーズになります。

「制度の選び方=誰がどこまで動けるか」の設計

制度にはそれぞれ得意な領域があります。
遺言は「方向を示す」、後見は「判断力が落ちたあとに備える」、信託は「柔軟な支出と管理を実現する」――こうした特徴を活かしながら、ご自身やご家族の状況に合った準備を整えることが、ペットを守る一番の近道になります。

次の章では、具体的にどんなステップで準備を進めていけばよいか、「今からできるチェックリスト」としてご紹介していきます。完璧を目指す必要はありません。まずは、思いを言葉にすることから始めてみましょう。

第5章 今からできるチェックリストと、家族に伝えるときのコツ

いきなり完璧を目指す必要はない

ここまでお読みいただき、「うちの子(ペット)のために、ちゃんと備えておかなきゃ」と思ってくださった方も多いと思います。でも、いきなり遺言を書いたり、信託契約を結んだりするのは、少しハードルが高く感じるかもしれません。

大丈夫です。大切なのは、一歩ずつ進めることです。
まずは頭の中のイメージを「言葉にすること」から始めてみましょう。

今すぐできる!4つのチェック

  1. 引き取り先の第一候補を書き出す
    「この人なら託せそう」と思える方を挙げてみましょう。年齢や生活環境もふまえて考えると現実味が増します。
  2. ペットの飼育にかかる費用をざっくり把握する
    フード代、医療費、トリミングなど、月にいくらぐらい必要か見積もってみてください。できれば半年〜1年分を準備できると安心です。
  3. 動物病院・フード・習慣などを書き留めておく
    かかりつけの病院、アレルギーの有無、好き嫌い、1日のルーティンなどをメモしておきましょう。引き継ぎ時にとても役立ちます。
  4. 「もし引き取れない場合」の代替案も考えておく
    第二候補となる人、または一時的に預けられる支援団体なども調べておけると理想的です。

これらはメモ帳でも、スマホのメモアプリでも構いません。
書き出しておくだけで、気持ちが少し楽になるはずです。

家族に話すときは「お願いベース」で伝えるのがコツ

準備を整えるうえで欠かせないのが、「家族や関係者との共有」です。ただし、いきなり制度の話を持ち出すよりも、「こんな不安があるんだ」と自分の気持ちを伝えるところから始めると、スムーズに話せることが多いです。

たとえばこんなふうに伝えてみてください。

  • 「自分に何かあったとき、この子が困らないように、今から少しずつ考えておきたくて」
  • 「具体的にはまだ決まっていないけど、〇〇さんにお願いできるかどうか、今度相談させてもらえないかな」

強制するのではなく、「相談させてほしい」「一緒に考えてくれたら助かる」という伝え方が効果的です。

ペットと家族を守るために

ペットの行き先や飼育費のことは、残された人たちにとっても大きなテーマです。
生前にきちんと準備しておくことで、家族が困らず、気持ちよく引き継げる環境をつくることができます。

遺言、後見、家族信託――どれも難しそうに見えますが、必要なものを必要な分だけ、少しずつ整えていけば大丈夫です。ペットも、家族も、自分自身も安心できるように。今日できることから、はじめてみましょう。