目次
相続トラブルは誰にでも起こり得る?遺言を考え始めるきっかけ
「うちは財産なんて少ないから大丈夫」――そう思っていませんか?
実際には、遺産分割や相続登記をめぐるトラブルは、資産の多寡に関係なく起こります。むしろ、財産が少ないほど「誰がどれを相続するのか」で揉めるケースが目立ちます。
近年は、親の高齢化や認知症リスクをきっかけに「相続」や「成年後見制度」を調べ始める方が増えています。特に、介護や医療の費用がかさむ中で、生前対策を取らずに放置してしまうと、相続発生後に家族が困る事態になりがちです。
また、最近は「争族(そうぞく)」という言葉が注目されています。これは、遺産の分け方を巡って兄弟や親族が対立し、家族関係が壊れてしまうことを意味します。いくら仲の良い家族でも、財産の話になると感情的になりやすいのです。
こうしたトラブルを避けるための有効な手段が「遺言」です。特に、自筆証書遺言・公正証書遺言・家族信託などの制度を知っておくことで、将来の不安をぐっと軽減できます。
自筆証書遺言とは?書き方と基本ルールをわかりやすく解説
「遺言」と聞くと、公証役場で作る公正証書遺言を思い浮かべる方も多いでしょう。
しかし、実はもっと手軽に作れるのが 自筆証書遺言 です。
自筆証書遺言の基本ルール
自筆証書遺言は、その名の通り 本人が自分の手で書く遺言 です。民法で方式が決められており、次の3点が欠けると無効になる可能性があります。
- 全文を自筆で書くこと(財産目録はパソコンやコピーでも可)
- 日付を正確に書くこと(「令和〇年〇月吉日」はNG)
- 署名と押印をすること(認印や実印も可能)
2020年の法改正で便利になったポイント
- 財産目録については、パソコン作成や不動産登記事項証明書のコピーを添付してOKに。
- 法務局の自筆証書遺言保管制度 がスタートし、遺言書を安全に保管できるようになった。
公正証書遺言との違い
- 公正証書遺言:公証人が関与し、形式不備の心配がなく、家庭裁判所の検認も不要。
- 自筆証書遺言:費用がかからず、思い立ったらすぐ書けるが、方式不備や紛失リスクがある。
つまり、自筆証書遺言は「今すぐ生前対策を始めたい方」や「まずは遺言に慣れてみたい方」に向いています。ただし、相続登記や遺産分割の実務で使うには注意が必要です。
自筆証書遺言のメリットとデメリットを徹底比較
「自筆証書遺言って本当に役に立つの?」と疑問に思う方も多いでしょう。
ここでは、公正証書遺言と比べながら メリットとデメリット を整理します。
自筆証書遺言のメリット
- 費用がかからない
公証人に依頼する必要がなく、紙とペンさえあれば作成可能。生前対策の第一歩として始めやすい。 - 思い立ったらすぐに書ける
家族に内緒で作れるので、気持ちを整理したいときに即行動できる。 - プライバシーを守れる
公証役場を通さないため、誰にも知られずに遺言を残すことができる。
自筆証書遺言のデメリット
- 方式不備で無効になるリスク
日付の書き方や押印の有無など、ちょっとしたミスで遺言そのものが無効になる可能性がある。 - 家庭裁判所での検認が必要
自筆証書遺言は相続開始後、家庭裁判所で「検認手続き」を経なければ効力を発揮できない。相続手続きの遅れにつながることも。 - 遺産分割トラブルになりやすい
書き方があいまいだと、相続人の解釈が割れて「争族」に発展するリスクが高い。 - 保管場所の問題
自宅に保管すると紛失・改ざん・発見されない恐れがある。法務局の遺言書保管制度を利用すればある程度解決できる。
メリットとデメリットを理解した上で使い分けを
- コストやスピード重視 → 自筆証書遺言
- 確実性・相続トラブル回避重視 → 公正証書遺言
相続トラブルを防ぐために今からできる準備ポイント3選
「せっかく遺言を書いたのに、家族が揉めてしまった…」
そんな事態を避けるために、自筆証書遺言を活用する際の 実用的な工夫ポイント を3つ紹介します。
1. 法務局の遺言書保管制度を必ず利用する
- 2020年から始まった制度で、自筆証書遺言を法務局で安全に保管できます。
- 利用すれば、家庭裁判所での検認が不要となり、相続手続きがスムーズに。
- 紛失や改ざん、遺言が発見されないリスクを大幅に軽減できます。
👉 「自筆証書遺言=法務局保管」とセットで考えるのが鉄則です。
2. 成年後見や家族信託とあわせて検討する
- 遺言は「亡くなった後」に効力を発揮する制度です。
- 一方で、認知症など判断能力が低下したときの備えには「任意後見契約」や「家族信託」が有効です。
- 特に不動産管理や介護費用の支払いに関しては、遺言+家族信託の組み合わせで安心感が増します。
👉 老後の生活と相続をトータルで考えることが、家族の安心につながります。
3. 付言事項で「気持ち」を伝える
- 遺言の最後に自由に書ける「付言事項」を活用しましょう。
- 例えば「長男に家を残すのは、介護を一番担ってくれたから」と理由を添えると、相続人が納得しやすくなります。
- 財産の分け方だけでなく想いを伝えることが、争族回避の大きなポイントです。
ポイントまとめ
- 自筆証書遺言は「書いて終わり」ではなく、保管・制度活用・気持ちの伝え方まで考えることが大切。
- 成年後見制度や家族信託をあわせて準備することで、認知症リスクから相続発生後まで切れ目のない対策が可能になります。
遺言は「いつか」ではなく「今から」準備を
ここまで、自筆証書遺言の仕組みやメリット・デメリット、さらにトラブルを防ぐ実践的なポイントを紹介しました。
振り返ると――
- 相続トラブルは財産の多寡に関係なく起こる
- 自筆証書遺言は「費用ゼロ・手軽さ」が魅力だが、「無効リスク・検認手続き」の弱点もある
- 法務局の保管制度や家族信託・成年後見との組み合わせで安心感が格段に増す
- 財産の分け方だけでなく「付言事項」で気持ちを伝えることが争族回避につながる
という点が大きなポイントでした。
行動を先送りしないことが最大のリスク
「自分はまだ元気だから」「うちは財産が少ないから」と考えていると、いざという時に家族が困ります。
相続登記の義務化や高齢化社会の進展もあり、遺言・成年後見・家族信託といった生前対策のニーズは今後ますます高まるでしょう。
まずできる一歩
- ノートに簡単に財産の一覧を書き出してみる
- 法務局での遺言書保管制度を調べる
- 行政書士など専門家に気軽に相談する