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「まだ元気だから大丈夫」は危険?―判断力があるうちに考える生前対策
親の物忘れが気になり始めたら始めどき
「うちの親も少し物忘れが増えてきたけど、まだ元気だし大丈夫」
――そんな会話を耳にすることは多いでしょう。けれど、実はこの“まだ大丈夫”と思っている時期こそ、任意後見制度を検討すべきタイミングです。
任意後見契約は、本人の判断能力がしっかりしているうちにしか結べない制度です。認知症が進んだり、意思判断が難しくなったりしてからでは、契約を交わすこと自体ができません。
そのため、いざという時に「もっと早く準備しておけばよかった…」と後悔するご家族も少なくありません。
判断力があるうちしかできない制度とは
任意後見制度は、将来自分の判断能力が低下したときに備え、あらかじめ信頼できる人(家族や専門家)に財産管理や手続きを任せる仕組みです。
たとえば、銀行の出金や施設入所の契約、公共料金の支払いなど、日常生活で必要な行為を後見人が代理して行えるようになります。
この契約が成立するには、「本人が内容を理解し、同意できる状態」であることが前提です。
つまり、「元気なうちに契約しておく」ことで、将来、判断力が低下しても本人の意思に沿った生活が守られるのです。
任意後見を検討するタイミング
一般的には、70歳前後での検討が理想といわれます。退職や介護保険の申請、持ち家の売却など、ライフステージの変化が多い時期だからです。
市川市でも、高齢者の単身世帯や認知症高齢者の増加が続いており、家庭内での準備不足がトラブルのきっかけになるケースが目立っています。
「どの銀行口座があるか家族が知らなかった」「施設入所の契約ができず入居が遅れた」――こうした事例は決して珍しくありません。
「相続対策」と「生前対策」は別もの
相続や遺言は「亡くなった後」の備え、任意後見や家族信託は「生きているうちの安心」を支える仕組みです。
判断力がある今こそ、自分の希望を形にしておくことが、将来の“争族”を防ぐ第一歩になります。
家族との関係が良好なうちに、日常の会話の延長で「もしもの時に、こうしておきたい」という話題を出してみる。
その一言が、後悔のない老後をつくるスタートラインになるのです。
任意後見制度の仕組みをやさしく解説―家庭裁判所と契約の関係
任意後見契約とは?制度の基本構造
任意後見制度は、将来の「判断力の低下」に備えて、あらかじめ自分の信頼できる人に財産管理や身の回りの手続きを託しておく制度です。
契約は公証役場で公正証書として作成され、法的にも有効な約束ごととして残ります。
この契約は、本人がまだ元気なうちは効力が発生せず、「判断能力が低下した」と医師などが認めた後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したタイミングで動き始めます。
つまり、「すぐに財産を動かす契約」ではなく、「将来のための保険」のような仕組みです。
任意後見人にできること・できないこと
任意後見人は、本人の財産を守るパートナーです。
主な役割は、預貯金の管理、介護サービスや施設入所の契約、役所への手続き、公共料金の支払いなど。日常生活に関わる重要な行為を代わりに行えます。
一方で、「本人の財産を勝手に使う」「本人の意思を無視して行動する」といったことは一切できません。
契約内容の範囲内でしか権限が認められず、本人の希望を尊重することが何より重視されます。
この「線引き」が明確に決められている点が、任意後見制度の大きな安心材料です。
家庭裁判所の関与と信頼性の確保
制度が実際に始まると、家庭裁判所が任意後見監督人を選び、任意後見人の業務を見守ります。
監督人は弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることが多く、定期的に報告を受け、金銭管理や契約が適切に行われているか確認します。
この「公的なチェック機能」によって、任意後見人による不正や誤った判断を防ぎ、本人の生活と財産を二重に守る仕組みができているのです。
家族だけに任せるよりも、安心と透明性が保たれる制度といえます。
任意後見と法定後見の違い
よく混同されがちな制度に「法定後見」があります。
法定後見は、すでに判断能力が低下してしまった後に家庭裁判所が後見人を選任する制度で、本人の意思が十分に反映されにくい面があります。
一方の任意後見は、元気なうちに自分で後見人を選び、契約内容を決めておけるのが最大の特徴。
「信頼できる人に任せたい」「家族に迷惑をかけたくない」という思いを、法律の形で残せる制度です。
「家族信託」「遺言」とどう違う?―自分に合った仕組みを選ぶポイント
家族信託との違い―柔軟さと監督のバランス
任意後見制度とよく並んで語られるのが「家族信託」です。
どちらも“将来の不安を減らす”ための仕組みですが、目的と関与の仕方が大きく異なります。
家族信託は、本人(委託者)が信頼できる家族(受託者)に財産の管理や運用を任せる制度です。契約内容に沿って受託者が柔軟に財産を動かせるため、たとえば「自宅を将来的に売却して施設費用に充てる」といった活用が可能です。
ただし、家庭裁判所の関与はなく、契約通りに進められる一方で、信頼関係が崩れた場合のリスク管理が課題となることもあります。
任意後見はこの点、家庭裁判所が監督人を置くため、透明性と公的なチェックが確保されます。
つまり、家族信託は「自由度が高い分、自己責任が重い制度」、任意後見は「監督を伴う安心型の制度」と言えます。
遺言との違い―生前と死後で役割が異なる
遺言は「亡くなった後」に財産をどう分けるかを定めるための仕組みです。
一方で、任意後見や家族信託は「生きている間にどう財産を守るか」を目的としています。
たとえば、遺言があっても、本人が認知症を発症して施設費用の支払いが必要になった場合、その財産を誰が管理するのかまでは定められていません。
この“生前の空白期間”を埋めるのが任意後見制度の役割です。
つまり、「任意後見で元気なうちを守り、遺言で亡くなった後を託す」というように、両方を組み合わせることでより安心な備えができます。
複数制度を組み合わせる考え方
実際の現場では、「任意後見+遺言」や「家族信託+任意後見」といった組み合わせ活用が増えています。
たとえば、財産を運用したい人は家族信託を中心に据え、判断力低下後の監督機能として任意後見を組み合わせる方法。
逆に、施設入所や医療同意など生活全般の支援を重視する人は、任意後見をメインにして、死後の遺産分配は遺言でカバーするといった形です。
どの制度にも一長一短があるため、「誰に何を任せたいのか」「どんな不安を解消したいのか」を整理することが大切です。
また、市川市内でも家族信託の相談は増えており、行政書士や司法書士、公証人などが連携して支援するケースが見られます。
自分に合った制度を選ぶために
制度を知るとつい「どれが一番良いのか」と考えてしまいますが、実際には「どの制度を、どんな順番で使うか」が重要です。
一つの制度にこだわるよりも、自分と家族の状況に応じて組み合わせることが、結果として最もスムーズに生活を守る方法になります。
市川市での準備ステップ―相談・契約・活用までの流れ
まずは無料相談を活用する
任意後見制度を検討するとき、最初の一歩は「相談」です。
市川市では、行政や専門機関による相談窓口が複数あります。たとえば、市川市高齢者サポートセンター(地域包括支援センター)では、高齢者や家族の生活・介護・権利保護に関する無料相談を受け付けています。
また、コスモス成年後見サポートセンターでも、成年後見制度に関する無料相談会を実施しています。
まずは、制度の概要を知るだけでも構いません。「何から始めたらいいかわからない」という段階で専門家に話を聞くことが、後悔しない準備の第一歩になります。
契約に必要な書類と手続きの流れ
任意後見契約は公正証書で作成する必要があります。
手続きの流れは次の通りです。
- 任意後見人候補(家族または専門職)を選ぶ
- 契約内容(財産管理・生活支援などの範囲)を話し合う
- 必要書類を準備(本人と後見人候補の身分証、印鑑証明書、財産状況のメモなど)
- 公証役場で公正証書を作成
- 登録完了後、契約内容が「将来に備えた約束」として法的に保護される
市川市には「市川公証役場」(市川市南八幡3丁目)があり、予約制で契約の相談や作成を依頼できます。
手数料は内容によって異なりますが、おおむね5〜7万円前後が目安です。
契約後に実際に効力が発生するまで
任意後見契約は、すぐに効力を持つものではありません。
本人の判断能力が低下したとき、家庭裁判所に「任意後見監督人選任申立て」を行い、監督人が選ばれて初めて効力が発生します。
監督人は弁護士・司法書士などの専門家が務め、任意後見人の業務をチェックします。
この仕組みにより、契約が適切に運用されているかが常に確認され、本人の権利が守られるようになっています。
市川市では、申立てに必要な書類作成や添付資料の整理を行政書士が支援するケースも多く、家庭裁判所への手続きをスムーズに進めることができます。
費用と期間の目安
契約作成にかかる費用は、公証人手数料を含めて数万円程度。
監督人が選任された後は、監督人への報酬(おおむね月1〜2万円前後)が発生します。
手続き期間は、準備を含めて1〜2か月程度が一般的です。
一見手間がかかるように感じますが、トラブルが起きてから対応するよりも、はるかに短く、安心感のあるプロセスです。
専門家に依頼するメリット
書類作成や契約内容の整理を専門家に依頼することで、制度の使い方を誤るリスクを減らせます。
行政書士や司法書士は、家庭裁判所や公証役場との調整、必要書類の準備などをトータルで支援できるため、「何から始めたらいいかわからない」という方にとって心強い存在です。
特に市川市のように高齢化が進む地域では、“元気なうちの相談”がトラブルを防ぐ最良の予防策です。
将来の安心は「今日の準備」から―家族で話し合うきっかけに
家族で早めに話し合う重要性
任意後見制度の最大の特徴は、「本人の意思を生かしたまま、将来への備えができる」点にあります。
しかし、その契約を結ぶためには、判断力がしっかりしているうちに話し合いを始めなければなりません。
だからこそ、“まだ大丈夫”と思っている今こそが、最も良いタイミングなのです。
高齢の親に制度の話を持ち出すのは、少し気が引けるかもしれません。
けれども、「最近こういう制度があるらしいよ」「元気なうちに決めておくと安心だね」と、軽い世間話から始めるだけでも構いません。
話題にすること自体が、家族の信頼関係を深めるきっかけになります。
制度を知ることが最大のリスク回避
トラブルは、制度を知らないまま“なんとなく”で進めてしまうときに起こります。
たとえば、家族が勝手に通帳を管理していたり、本人の意思を確認しないまま施設契約を結んだりすると、のちに親族間で揉める原因になりかねません。
任意後見制度を使えば、こうした「口約束」や「あいまいな責任」を法的な形で整理できます。
家庭裁判所の監督体制があるため、本人の意思がないがしろにされる心配もほとんどありません。
つまり、知っておくこと自体が、もっとも確実なリスク回避策なのです。
今すぐできる3つの第一歩
- 制度を調べる・話題にする
市川市の高齢者サポートセンターや行政書士への無料相談を活用し、まずは制度の全体像を知る。 - 家族で将来の希望を話し合う
どんな支援を受けたいのか、どのような形で財産を管理してほしいのかを共有する。 - 契約書を作る準備を始める
信頼できる人を候補に選び、公証役場での手続きに向けて書類を整える。
この3つを意識するだけでも、「何も準備していない」状態からは大きく前進します。
難しいことは後回しでも構いません。“将来を見据えて一歩動く”ことが、安心の第一歩です。
地域で支え合う時代へ
市川市でも、超高齢化が進み、家族だけで抱えきれない問題が増えています。
そんな中で、任意後見制度は“家族と地域をつなぐ仕組み”として注目されています。
行政書士や福祉関係者、医療機関など、地域全体で支援するネットワークが少しずつ広がっています。
もし迷ったら、まずは専門家に相談してみましょう。
あなたとご家族の想いを形にし、将来への不安を一つずつ減らしていく――。
その出発点こそ、「元気なうちに任意後見を考える」という行動なのです。

